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十一
追放-4
しおりを挟む「あのさあ、殿下、大丈夫なの?」
「お会いになればわかります」
「そりゃ、そうだけど……急に、倒れたとか?」
「…………」
「体、弱いとは言ってたけど、そんなに……」
「…………」
「エリン!」
煩いとでも言いたいのだろう、エリンは隣で騒ぐゲオルグに冷たい視線を送る。
「え……っ?」a
ゲオルグは驚いた様子で言葉を途切れさせた。いつもより少しだけ近い距離に、ふとエリンの普段は隠れている左目が見えたのだ。
特別に鮮やかな菫色。彼の、片方違う瞳の色。
アーシュラと同じ、その紫色が何を意味するのかくらい、ゲオルグにだって分かる。
尋ねたいことが増えてしまったせいで気持ちの整理がつかないまま、ゲオルグは、皇女の私室の前に立っていた。エリンは、ノックをせずに突然扉を開ける。
「殿下、お連れしました」
ふわりと花の香りのする部屋だった。豪華な寝台が目に入り、どうすれば良いかわからなくなってしまう。つまりこの部屋は、彼女の寝室なのだ。案内されたはいいけれど、気軽に入って良い場所だとは思えない。
戸惑うゲオルグの耳に、気だるげな声が届いた。
「ありがとう、エリン。下がっていて」
「……はい」
言って、エリンは部屋の奥にある扉の向こうへと消えていく。どうしたものかと思いつつ見回すと、唐突に、ソファに座った皇女の姿が目に入った。
「殿下……」
目に入ったというか、目に入っていなかったというか。
「……ゲオルグ、ごめんなさい。こんな所に呼んで。エリンがお部屋から出るのをどうしても許してくれなくって」
普段通りのドレス姿で、お茶を飲んでいる。調子が悪いと告げられ散々悪い想像をして来たので、それから考えると存外元気そうに見えた。
けれど、ゲオルグは鈍くないので分かる。声に、いつもの彼女のような、弾んだ輝きが無い。
「何かあったんですか?」
「えっ?」
すました顔のアーシュラが、驚いた色を見せる。よく見ると。注がれた紅茶はほとんど口をつけられた様子が無いし、綺麗に並べられた菓子も見るからに供された状態のままだ。
「体調が悪いと聞きましたけど、それより、元気の方がないみたい」
突然寝室に招かれて戸惑っていたことはあっさり忘れていた。思ったことをずばり口にしながら、皇女の傍に歩み寄り、ふかふかしたカーペットに膝をついた。そして、驚いたように目を丸くする少女の顔を心配そうに覗き込む。
「悲しいことでも?」
少年のストレートな口調にはてらいがなく、単純にとても優しい。
アーシュラは暫く何も言わず、その明るい緑の目を見つめていたが、やがて、大きな瞳にユラリと歪んだ光が浮かび……熱のせいで少し赤らんだ頬に、大粒の涙が落ちた。
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