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十一
追放-6
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「……エリン、いるのかい?」
暫くの後、エリンが消えていった続きの間へのドアを叩いて、ゲオルグが言った。素直に対応してもらえると思っていなかったのか、声は恐る恐るという風だったけれど、ドアはすぐに開いて、エリンが顔を出した。
「……何か」
「あのさ、殿下、熱があるみたいなんだけど……」
ゲオルグの視線の先には、糸の切れた人形のようにソファに横たわるアーシュラの姿があった。それを見て、エリンは嘆息する。さっきまでゲオルグに散々泣き言を聞かせていたのは聞こえていたけれど、静かになったと思ったら、疲れて寝てしまったらしい。
「……いつも通りですね」
「何が?」
きょとんとするゲオルグに答えず、さっさと皇女に歩み寄ると、慣れた様子で寝台に移動させる。
「泣き疲れて寝ちゃうのが? それとも、熱があるのが?」
「両方です」
嘘を混ぜて答えながら奇妙な苛立ちを覚え、エリンは考える。
彼にとっては、この部屋でゲオルグと話をするのは不自然なことに思われた。腹立たしく思えるのは、そのせいだろうか。いや、アーシュラが熱を押してでも会いたいと言い張ったからかもしれない。
それとも、昨日からずっと我慢して気丈に振る舞っていた彼女が、ゲオルグに会った途端、子供のように泣いてすがったからか。
「ベネディクト皇子が分家されたって」
「……ええ」
「殿下がそうさせたって、どういうこと?」
「それは……」
心配そうなゲオルグの表情に、エリンは迷う。そんなの、自分から話すことではない。けれどアーシュラは、誰にも話さなかった分家の経緯を彼に話した。事情を知っていてもらった方が、彼女の支えになるのかもしれない。けれど……
「……アーシュラが、陛下に進言して決まったことです」
「だから、それってどういう……」
「知りたいなら、殿下に直接聞いてください」
突き放すように言った。本心では、詳しく聞くなと言いたかったのだけれど。
苛立ちをみせるエリンに、ゲオルグは少し考えこむ。
「……あんまり、話を蒸し返してあげたくはないんだけど。とても落ち込んでるでしょう?」
「…………」
そう言われてしまっては、返す言葉が無かった。
「……先日、コルティス家のことをお伺いしました」
「え? あー……そういえば、そんな話したね」
「あの商人は皇子を陥れようとしています。殿下が皇子をアヴァロンから分家させるよう手を打たれたのは、そのためです」
「え……」
ゲオルグからすれば、話が突然意外な方向へ飛んだように思われた。帝室の分家なんて、貴族達の話だと思っていたのに、商家が絡むなんて。
けれど、エリンの言葉は、その続きの方がもっと意外なものだった。
「ただし、弟君のお心やお立場を気遣われ、この経緯はあなた以外誰にもお話になっていません。皇子にも……皇帝陛下にもです」
弟に酷いことをしたのだと言って、彼女は泣いた。あれは……彼女があんなに苦しそうに泣いたのは、誰にも話せなかったから?
「僕にしか……?」
「……アーシュラは今まで、どんな時も、人前で先ほどのように泣いたことは無い。あなたを、頼っているのです」
「殿下が……」
何故自分にだけそのことを話してくれたのか、ただ単に部外者だから話しやすかったのか、エリンの言葉からは読み取れない。だけど、嬉しく思う気持ちは抑えられなかった。しかしその一方で、素直で明るく、我が儘でおおらかに見えていた皇女が、自分の気持ちを抑えて生きているのだということを知った。
アーシュラは、美しい箱庭で暮らす、夢の世界のお姫様ではないのだ。
今は静かに眠る彼女の、熱のせいで紅潮した頬を、エリンとゲオルグは、それぞれ、異なる想いを持って見つめていたのだった。
暫くの後、エリンが消えていった続きの間へのドアを叩いて、ゲオルグが言った。素直に対応してもらえると思っていなかったのか、声は恐る恐るという風だったけれど、ドアはすぐに開いて、エリンが顔を出した。
「……何か」
「あのさ、殿下、熱があるみたいなんだけど……」
ゲオルグの視線の先には、糸の切れた人形のようにソファに横たわるアーシュラの姿があった。それを見て、エリンは嘆息する。さっきまでゲオルグに散々泣き言を聞かせていたのは聞こえていたけれど、静かになったと思ったら、疲れて寝てしまったらしい。
「……いつも通りですね」
「何が?」
きょとんとするゲオルグに答えず、さっさと皇女に歩み寄ると、慣れた様子で寝台に移動させる。
「泣き疲れて寝ちゃうのが? それとも、熱があるのが?」
「両方です」
嘘を混ぜて答えながら奇妙な苛立ちを覚え、エリンは考える。
彼にとっては、この部屋でゲオルグと話をするのは不自然なことに思われた。腹立たしく思えるのは、そのせいだろうか。いや、アーシュラが熱を押してでも会いたいと言い張ったからかもしれない。
それとも、昨日からずっと我慢して気丈に振る舞っていた彼女が、ゲオルグに会った途端、子供のように泣いてすがったからか。
「ベネディクト皇子が分家されたって」
「……ええ」
「殿下がそうさせたって、どういうこと?」
「それは……」
心配そうなゲオルグの表情に、エリンは迷う。そんなの、自分から話すことではない。けれどアーシュラは、誰にも話さなかった分家の経緯を彼に話した。事情を知っていてもらった方が、彼女の支えになるのかもしれない。けれど……
「……アーシュラが、陛下に進言して決まったことです」
「だから、それってどういう……」
「知りたいなら、殿下に直接聞いてください」
突き放すように言った。本心では、詳しく聞くなと言いたかったのだけれど。
苛立ちをみせるエリンに、ゲオルグは少し考えこむ。
「……あんまり、話を蒸し返してあげたくはないんだけど。とても落ち込んでるでしょう?」
「…………」
そう言われてしまっては、返す言葉が無かった。
「……先日、コルティス家のことをお伺いしました」
「え? あー……そういえば、そんな話したね」
「あの商人は皇子を陥れようとしています。殿下が皇子をアヴァロンから分家させるよう手を打たれたのは、そのためです」
「え……」
ゲオルグからすれば、話が突然意外な方向へ飛んだように思われた。帝室の分家なんて、貴族達の話だと思っていたのに、商家が絡むなんて。
けれど、エリンの言葉は、その続きの方がもっと意外なものだった。
「ただし、弟君のお心やお立場を気遣われ、この経緯はあなた以外誰にもお話になっていません。皇子にも……皇帝陛下にもです」
弟に酷いことをしたのだと言って、彼女は泣いた。あれは……彼女があんなに苦しそうに泣いたのは、誰にも話せなかったから?
「僕にしか……?」
「……アーシュラは今まで、どんな時も、人前で先ほどのように泣いたことは無い。あなたを、頼っているのです」
「殿下が……」
何故自分にだけそのことを話してくれたのか、ただ単に部外者だから話しやすかったのか、エリンの言葉からは読み取れない。だけど、嬉しく思う気持ちは抑えられなかった。しかしその一方で、素直で明るく、我が儘でおおらかに見えていた皇女が、自分の気持ちを抑えて生きているのだということを知った。
アーシュラは、美しい箱庭で暮らす、夢の世界のお姫様ではないのだ。
今は静かに眠る彼女の、熱のせいで紅潮した頬を、エリンとゲオルグは、それぞれ、異なる想いを持って見つめていたのだった。
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