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十二
奇跡-1
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一週間経っても、二週間経っても、ミラノのカルサス家にアヴァロンからの連絡は無かった。この間別れた時に、ひどく熱を出していたのがどうしても気にかかる。今度こそアーシュラの具合が悪いのではないかと、ゲオルグは毎日そわそわと落ち着かない。
彼女の所へ通うようになってから、以前なら喜んで父の仕事に付いて行っていたのに、ここ最近はゲオルグが長くエウロを離れるような航海に出かけることは無くなっていた。
末っ子で長男のゲオルグは、家を継ぐことをさほど期待されてはいない。家の仕事なら、一人前以上にしっかりした姉達がいる。けれど、少年が楽しそうに父にくっついて旅に出るのを見るにつけ、彼がその気なら家業を継げば良いと、家族は皆おおらかに考えていた。けれど、最近の彼の、明らかに皇女に入れ込んでいる様子は、さすがに母や姉を心配させた。カルサス家は貧しくはないけれど、それでも、帝室の姫――それも、次の皇帝となる人なのだ。身分が違うにも程がある。
女に囲まれて育ったせいか、子供の頃から女性の扱いが上手く、同年代の女の子から近所のおばさんにまで、幅広く人気者だったし、人が良いせいかちょっと惚れっぽいようなところもある。
年頃の少年なのだから、女の子と付き合うのはいい。大いに恋愛すればいい。けれど、相手が皇女となると話は別だろう。どうせゲオルグが一方的に傷つくことになるのだから、頃合いをみて止めてやらないと可哀想だ。父親以外は女ばかりの彼の家族は、揃ってそんな風に考えていたのだった。
しかし、当のゲオルグはそんなことは知らず、アーシュラの具合が良いのか悪いのかすらわからない状況に耐えかね――呼ばれもしないのに、はるばるアヴァロン城を訪れたのだった。
「カルサス様!?」
約束のない少年は当然門を通してはもらえない。知り合いのメイドを呼んでくれと衛兵に頼み込んで、ようやく会えたリゼットに、ゲオルグは勢い込んで尋ねた。
「殿下の具合はどうなの? やっぱり良くないの?」
鉄柵を掴んで、少年があんまり必死なので、リゼットは目を丸くして、ゲオルグの顔を見つめる。
「……それをお尋ねに、ここまでいらっしゃったのですか?」
「そうだよ、だって、電話しても教えてくれないし」
「それは、確かに……」
「全然連絡が無いなんて、心配だから。大丈夫なの?」
「…………」
リゼットが黙りこむと、ゲオルグは青くなる。
「黙らないでよ」
「少し、お待ちください。午後のお休みを頂いて参ります」
「え?」
「こんな所で込み入ったお話は出来ません」
「わ、分かった……そうだよね、確かに」
予想より優しいリゼットの応対にゲオルグは少し面食らったが、支度をしてくるから待っていろという少女の言葉に、素直に従うことにした。
門の前で待つこと三十分ほど。やがて、リゼットが現れた。衛兵に何やら話をしてから、ゲオルグの方へ歩み寄ってくる。初めて見る私服姿だ。
「へぇ、お仕着せ以外も着ることあるんだ」
「……当たり前です」
「そっかぁ、可愛いね」
「……」
「睨まないでよ、怖いなあ」
「参りましょう」
彼女の所へ通うようになってから、以前なら喜んで父の仕事に付いて行っていたのに、ここ最近はゲオルグが長くエウロを離れるような航海に出かけることは無くなっていた。
末っ子で長男のゲオルグは、家を継ぐことをさほど期待されてはいない。家の仕事なら、一人前以上にしっかりした姉達がいる。けれど、少年が楽しそうに父にくっついて旅に出るのを見るにつけ、彼がその気なら家業を継げば良いと、家族は皆おおらかに考えていた。けれど、最近の彼の、明らかに皇女に入れ込んでいる様子は、さすがに母や姉を心配させた。カルサス家は貧しくはないけれど、それでも、帝室の姫――それも、次の皇帝となる人なのだ。身分が違うにも程がある。
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しかし、当のゲオルグはそんなことは知らず、アーシュラの具合が良いのか悪いのかすらわからない状況に耐えかね――呼ばれもしないのに、はるばるアヴァロン城を訪れたのだった。
「カルサス様!?」
約束のない少年は当然門を通してはもらえない。知り合いのメイドを呼んでくれと衛兵に頼み込んで、ようやく会えたリゼットに、ゲオルグは勢い込んで尋ねた。
「殿下の具合はどうなの? やっぱり良くないの?」
鉄柵を掴んで、少年があんまり必死なので、リゼットは目を丸くして、ゲオルグの顔を見つめる。
「……それをお尋ねに、ここまでいらっしゃったのですか?」
「そうだよ、だって、電話しても教えてくれないし」
「それは、確かに……」
「全然連絡が無いなんて、心配だから。大丈夫なの?」
「…………」
リゼットが黙りこむと、ゲオルグは青くなる。
「黙らないでよ」
「少し、お待ちください。午後のお休みを頂いて参ります」
「え?」
「こんな所で込み入ったお話は出来ません」
「わ、分かった……そうだよね、確かに」
予想より優しいリゼットの応対にゲオルグは少し面食らったが、支度をしてくるから待っていろという少女の言葉に、素直に従うことにした。
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「……」
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