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十二
奇跡-3
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とはいえ、夜会などと言われても、ゲオルグはマナーも知らないし、ダンスだってやったことがないし、社交界向きの衣装だって持っていない。形だけ紛れ込めればそれでいいとはいえ、浮きすぎるとアーシュラに会うことが叶わないかもしれない。心配したリゼットが助ける形で、二人はそのままジュネーヴの街に買い物に出かけることにした。
「うわ、燕尾服ってこんなにするんだねぇ」
ほとんど貴族専門の、ドレスや燕尾服を専門に扱う仕立屋に入って、既成品の値札を覗き込んでゲオルグが言った。
「既製服ならば時間もかからず、安価だと思ったのですが……それ、お高いのですか?」
街での暮らしを知らないリゼットは、不思議そうに言う。
「んー……まぁ、そりゃ、僕のお小遣いでポンと買えるものじゃないよね。でも、あー、生地は、こっちのほうがいいかな……って、うっわぁ、やっぱり高い」
「買うのはやめておきますか?」
「ううん、まあ、どうにかするよ。このくらいは」
彼女に会えるなら、と、ゲオルグは張り切っていた。そして、商人の子らしく妙に細かい所を気にして服を選ぶ。
「まあ、いらっしゃいませ、かわいいカップルね、お嬢様、ドレスはいかが?」
「えっ?」
ゲオルグの横顔をじっと見つめているところを、背後から近寄ってきた店員に声をかけられ、リゼットは飛び上がるほど驚いてしまう。
「わ、わた、私は、付き添いですのでっ……今日は、こちらが、夜会用の衣装を購入される予定で……っ」
「あら……」
店員はきょとんとして、けれどすぐにニッコリと微笑む。
「じゃあ、合わせるだけでも。彼、真剣みたいだから、待っている間退屈でしょう? 夏用の素敵なサンプルが沢山届いているから、ぜひ着てみてくださいな」
「え……」
女が指さした先にズラリとかけられた、色とりどりの美しいイブニングドレスに、少女の心は容易く動いた。
その後、品定めに夢中だったゲオルグが、注文する夜会服を決め、色々とサイズを測って注文をし終え、さっきリゼットがいた(と思う)所へ戻っても、彼女の姿は無かった。キョロキョロしていると、先刻の女の店員が無言でニコニコと手を降っている。どうやら、彼女はこちらだと合図しているらしい。
「リゼット、待たせてごめんねぇ、やっと決まった――」
「ひえっ!」
「え?」
素っ頓狂な叫びが聞こえたと思ったら、衝立の向こうに、エメラルドグリーンのドレスを纏ったリゼットが立っていた。
「えっ、あ、そ、そのっ! これはっ! ちが……!」
真っ赤になって何か言い訳をしようとしているが、この少女はこういうサプライズに弱い。まともな台詞にまとまらない。
「へぇ、似合うね」
ゲオルグはあっさり褒める。彼は口が上手いけれど、別にお世辞を言っているつもりはないのだ。
リゼットはまだ幼いが、スラリと背が高いし、立ち居振る舞いはさすがに帝室仕込みだけあって、見事に淑女然としている。明るい色のドレスは彼女の髪と目の色にも良く映えた。
「とっても素敵でしょう、彼女。ドレス、着たことがないなんて言ってたけれど、全然上手に着こなして、これならいつでもデビュー出来るわね」
「うん。本当にそうだね、とっても素敵だよ」
「な、な、な、何を、仰るのですか……」
「褒めているんだけど」
「褒めなくて結構ですっ!」
長い腕を振り回して、こっちを見るなと言いたいらしい。よっぽど褒められ慣れていないのか、大げさな素振りで必死に否定する。その様子があまりおかしいので、ゲオルグは笑いを堪えながら言った。
「どうしてさ、ほら、そこでクルッと回って見せてよ」
「いっ、嫌です!」
「あははは、照れなくてもいいじゃない」
「馬鹿を仰らないでくださいまし、照れてませんッ!」
からかわれているとでも思ったのだろうか、リゼットは終始目を白黒させて抗議していたけれど、彼女が本当に気を悪くしているわけでないことは、その表情を見ていれば分かる。
やがて、店員がなだめながらドレスの説明を始めると、しおらしくなって話に耳を傾け、美しい衣装に身を包んだ自分の姿をチラチラと鏡で見て……嬉しいような、恥ずかしいような複雑な表情で、自分と、それから、想いを伝えるつもりのない片想いの相手を見るのだった。
「うわ、燕尾服ってこんなにするんだねぇ」
ほとんど貴族専門の、ドレスや燕尾服を専門に扱う仕立屋に入って、既成品の値札を覗き込んでゲオルグが言った。
「既製服ならば時間もかからず、安価だと思ったのですが……それ、お高いのですか?」
街での暮らしを知らないリゼットは、不思議そうに言う。
「んー……まぁ、そりゃ、僕のお小遣いでポンと買えるものじゃないよね。でも、あー、生地は、こっちのほうがいいかな……って、うっわぁ、やっぱり高い」
「買うのはやめておきますか?」
「ううん、まあ、どうにかするよ。このくらいは」
彼女に会えるなら、と、ゲオルグは張り切っていた。そして、商人の子らしく妙に細かい所を気にして服を選ぶ。
「まあ、いらっしゃいませ、かわいいカップルね、お嬢様、ドレスはいかが?」
「えっ?」
ゲオルグの横顔をじっと見つめているところを、背後から近寄ってきた店員に声をかけられ、リゼットは飛び上がるほど驚いてしまう。
「わ、わた、私は、付き添いですのでっ……今日は、こちらが、夜会用の衣装を購入される予定で……っ」
「あら……」
店員はきょとんとして、けれどすぐにニッコリと微笑む。
「じゃあ、合わせるだけでも。彼、真剣みたいだから、待っている間退屈でしょう? 夏用の素敵なサンプルが沢山届いているから、ぜひ着てみてくださいな」
「え……」
女が指さした先にズラリとかけられた、色とりどりの美しいイブニングドレスに、少女の心は容易く動いた。
その後、品定めに夢中だったゲオルグが、注文する夜会服を決め、色々とサイズを測って注文をし終え、さっきリゼットがいた(と思う)所へ戻っても、彼女の姿は無かった。キョロキョロしていると、先刻の女の店員が無言でニコニコと手を降っている。どうやら、彼女はこちらだと合図しているらしい。
「リゼット、待たせてごめんねぇ、やっと決まった――」
「ひえっ!」
「え?」
素っ頓狂な叫びが聞こえたと思ったら、衝立の向こうに、エメラルドグリーンのドレスを纏ったリゼットが立っていた。
「えっ、あ、そ、そのっ! これはっ! ちが……!」
真っ赤になって何か言い訳をしようとしているが、この少女はこういうサプライズに弱い。まともな台詞にまとまらない。
「へぇ、似合うね」
ゲオルグはあっさり褒める。彼は口が上手いけれど、別にお世辞を言っているつもりはないのだ。
リゼットはまだ幼いが、スラリと背が高いし、立ち居振る舞いはさすがに帝室仕込みだけあって、見事に淑女然としている。明るい色のドレスは彼女の髪と目の色にも良く映えた。
「とっても素敵でしょう、彼女。ドレス、着たことがないなんて言ってたけれど、全然上手に着こなして、これならいつでもデビュー出来るわね」
「うん。本当にそうだね、とっても素敵だよ」
「な、な、な、何を、仰るのですか……」
「褒めているんだけど」
「褒めなくて結構ですっ!」
長い腕を振り回して、こっちを見るなと言いたいらしい。よっぽど褒められ慣れていないのか、大げさな素振りで必死に否定する。その様子があまりおかしいので、ゲオルグは笑いを堪えながら言った。
「どうしてさ、ほら、そこでクルッと回って見せてよ」
「いっ、嫌です!」
「あははは、照れなくてもいいじゃない」
「馬鹿を仰らないでくださいまし、照れてませんッ!」
からかわれているとでも思ったのだろうか、リゼットは終始目を白黒させて抗議していたけれど、彼女が本当に気を悪くしているわけでないことは、その表情を見ていれば分かる。
やがて、店員がなだめながらドレスの説明を始めると、しおらしくなって話に耳を傾け、美しい衣装に身を包んだ自分の姿をチラチラと鏡で見て……嬉しいような、恥ずかしいような複雑な表情で、自分と、それから、想いを伝えるつもりのない片想いの相手を見るのだった。
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