練習台のドブネズミ

なすみそ

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地下牢はひんやりとした感覚はあるのに、何処か夢のようにぼんやりとしていた。

薄暗く窓のない空間で、ミオは投げ込まれたまま転がっていた。

いつの間にか双子や騎士達に暴行を受けたのか、身体が全く動かない。

(なぜ、何かの間違いだ)

マミヤ姫の手前、平民と親しくしていると思われたくなかったのだろうか。

このまま会う事は叶わないのか。

コツ、コツと響く靴音にミオは身体を持ち上げた。ずるずると痛む身体を動かして這って動く。

「エドワルド様?!」


現れたのはエドワルドとアーヴェントだった。エドワルドは恐ろしい程の無表情だ。
アーヴェントの視線はどこか不安げに揺れている。

「ミオ…国王陛下からミオに処刑令が出ました」

「処刑?!そんなの嘘だ!!どういう事です!エドワルド様!」

鉄格子を思わず叩きつけてミオは叫ぶ。

「貴方は王家の事を良く知っています。追放する訳にもいかないのです」

アーヴェントの悲痛な顔に嘘ではないんだと悟る。

「そんな」

結婚しようとも、そばで仕えられると思っていた。

「処刑するなら、なぜ、拾ったのですか?!あの日名前すら無かった僕に、名前まで与えてっ」

ミオは狂ったように、泣きじゃくる。不気味だと言われた金の瞳は煌めき、いつの間にか牢にいるアーヴェントを見つめる。

「名前?なるほど…」

その言葉に反応したのはアーヴェントだけだった。先程からエドワルドは何も言わずにいた。

アーヴェントは檻に入り泣き崩れるミオの背を撫でる。

「可哀想なミオ、私なら貴方を逃す事が出来ます。誰も貴方を悲しませる事の無い世界へ」

「本当…?」

ミオはアーヴェントを見つめる。彼はまるで慈悲深い天使のようだった。

「はい、そこには貴方を本当に愛してくれる家族がいます」

「かぞく」

そんな世界があるのだろうか、生みの親は名前も付けずに赤子を置き去りにした。

ミオと名前をつけてくれたエドワルドは邪魔な自分を処刑しようとしている。

「一緒に行きますか?」

いつしか地下牢にはアーヴェントと自分だけになっていた。

ミオはこくりと頷く。

「同意ですね?」

アーヴェントはミオを優しく抱きしめる。

「はぁぁ、長かった。かわいいミオ!貴方に新しい名前を授けます」

何の事だろう? アーヴェントを見上げるとそこにはぞっとする程美しい真紅の瞳があった。

「な、名前いらないっ、ぼくは…!」

ミオはアーヴェントの腕の中で暴れる。

「お前の名はロート」

真紅の瞳で命じるように告げられたミオは、絶対的な力を前に身体の震えを止められない。

「がっ、あぁああああ!やっぱりお前は悪魔だったんだな?! たすけてっ、エドワルドさまっ、ぼく」

焼け付く様な頭痛がミオを襲う。エドワルドはもうどこにもいない。

「エドワルドさまぁああ!」

ミオの叫びはアーヴェントの口づけで塞がれた。

どれくらい長く口づけていたであろうか、ミオの腕がパタリと抵抗をやめた。

「落ち着きましたか?ロート」

アーヴェントは微笑む。それは人間に好まれるように計算していた貼り付けた笑みではなく、自然に溢れた慈しみのこもった笑みだ。

ロートと呼ばれた少年は虚ろな瞳で頷く。

「あぁ、やっと…! たくさん練習した甲斐がありましたね、良く頑張りました!」

アーヴェントはミオの頭を優しく撫でる。

「もっともっと気持ち良くなって、たくさん赤ちゃんを産みましょうね」

アーヴェントは天井の方を見上げて、ニコリと微笑む。

「では行きましょうか」

2人は闇に溶け込む様に静かに消えた。
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