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前世の自分を思い出す③
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そして――何よりも私の胸を刺すのは、高校時代からの親友、由紀のことだ。
由紀は、私の美貌が完成する前の、冴えない時代を知っていた。
一緒にコンビニのアイスを食べて笑い、試験の点数に一喜一憂し、失恋してボロボロになった私を励ましてくれた。
彼女の前だけでは、私は「ブランド品のリナ」ではなく、ただの「私」でいられた。
しかし、大学で「高嶺の花」というポジションを手に入れると、由紀の存在が邪魔になった。
彼女は美人ではなかった。地味で、控えめで。
キラキラした私のインスタグラムの世界には、彼女の居場所はなかった。
彼女と一緒に歩いていると、私の「格」が下がるような気がした。
ある日、有名なモデルも来るような華やかなパーティーに誘われた。
由紀から「久しぶりに会いたい」と連絡が来たのは、その当日だった。
「ごめん、由紀。今日はちょっと急な仕事が入っちゃって」
嘘だった。私は由紀を隠したかった。
由紀は、寂しそうに、でも物分かりよく言った。
「そっか。最近忙しそうだもんね。体に気をつけて」
その後も、私は理由をつけては彼女を遠ざけ、最終的にはLINEの返信もしなくなった。
私は、自分が「与えられる側」に居続けるために、
私に「本当の優しさ」を与えてくれていた人を、ゴミのように捨てたのだ。
ガロンの歪な笑み。カイルの冷徹な指摘。
それらが今、鏡となって私を映し出している。
「逃げないだろ?」
それはかつて、私が美里や奈々、由紀に対して、無意識に抱いていた侮蔑と同じ構造だ。
こいつは私より劣っている。
だから私の機嫌を伺い、私を崇め、私のそばにいるしかない。
私は、ガロンだった。
形を変えただけで、私は他人を支配し、格付けし、管理していた。
私は、与えられる側だと思っていた。
けれど、与えられなくなった瞬間に、私には何も残らなかった。
美貌という台座を失った私は、かつて見下していた美里よりも、
奈々よりも、由紀よりも、ずっと醜く、空っぽな人間だった。
「……最低だ」
こぼれ落ちた涙は、今度は自分のための悲しみではなく、私が傷つけてきた人たちへの、遅すぎた懺悔だった。 因果応報。この醜い体、この過酷な環境。それは罰なのかもしれない。
でも、カイルは言った。「壊れかけてる」と。
傲慢という厚化粧が剥がれ落ち、空っぽの王冠が粉々に砕けた。
そこには、ただ一人の、無力な女が立っているだけ。
でも、無力だからこそ、今の私にはできることがある。
前世の私は、与えられる愛を守るために、他人の心を殺した。
今の私は、何も持っていない。だからこそ、今度こそ自分から手を差し出せる人間になりたい。
上下で人を見るのではなく。支配や依存で繋がるのではなく。
カイルのように、「世界が間違っている」と怒れるような、真っ直ぐな人間になりたい。
胸の奥の痛みは、生きている証拠だ。
傲慢が剥がれる音は、新しく生まれ変わるための産声だ。
私は立ち上がった。
カイルの焼くパンの匂いが、少しずつ近づいてくる。
そのパンは、決して甘くはないだろう。石のように堅く、不恰好かもしれない。
でも、それを誰かと分かち合う時、私はようやく、本当の意味で「人間」になれる気がする。
与えられる側ではなく、与える側へ。
選ばれる女ではなく、自ら歩む人間へ。
私は、この泥だらけの世界で、もう一度自分を教育し直す。
前世の自分を、本当の意味で葬り去るために。
「……待って、カイルさん」
私は前を向いた。
そこには、一歩ずつ地面を踏みしめる男の背中があった。
支配でも、格付けでもない、ただの「対等な誰か」としての背中が。
由紀は、私の美貌が完成する前の、冴えない時代を知っていた。
一緒にコンビニのアイスを食べて笑い、試験の点数に一喜一憂し、失恋してボロボロになった私を励ましてくれた。
彼女の前だけでは、私は「ブランド品のリナ」ではなく、ただの「私」でいられた。
しかし、大学で「高嶺の花」というポジションを手に入れると、由紀の存在が邪魔になった。
彼女は美人ではなかった。地味で、控えめで。
キラキラした私のインスタグラムの世界には、彼女の居場所はなかった。
彼女と一緒に歩いていると、私の「格」が下がるような気がした。
ある日、有名なモデルも来るような華やかなパーティーに誘われた。
由紀から「久しぶりに会いたい」と連絡が来たのは、その当日だった。
「ごめん、由紀。今日はちょっと急な仕事が入っちゃって」
嘘だった。私は由紀を隠したかった。
由紀は、寂しそうに、でも物分かりよく言った。
「そっか。最近忙しそうだもんね。体に気をつけて」
その後も、私は理由をつけては彼女を遠ざけ、最終的にはLINEの返信もしなくなった。
私は、自分が「与えられる側」に居続けるために、
私に「本当の優しさ」を与えてくれていた人を、ゴミのように捨てたのだ。
ガロンの歪な笑み。カイルの冷徹な指摘。
それらが今、鏡となって私を映し出している。
「逃げないだろ?」
それはかつて、私が美里や奈々、由紀に対して、無意識に抱いていた侮蔑と同じ構造だ。
こいつは私より劣っている。
だから私の機嫌を伺い、私を崇め、私のそばにいるしかない。
私は、ガロンだった。
形を変えただけで、私は他人を支配し、格付けし、管理していた。
私は、与えられる側だと思っていた。
けれど、与えられなくなった瞬間に、私には何も残らなかった。
美貌という台座を失った私は、かつて見下していた美里よりも、
奈々よりも、由紀よりも、ずっと醜く、空っぽな人間だった。
「……最低だ」
こぼれ落ちた涙は、今度は自分のための悲しみではなく、私が傷つけてきた人たちへの、遅すぎた懺悔だった。 因果応報。この醜い体、この過酷な環境。それは罰なのかもしれない。
でも、カイルは言った。「壊れかけてる」と。
傲慢という厚化粧が剥がれ落ち、空っぽの王冠が粉々に砕けた。
そこには、ただ一人の、無力な女が立っているだけ。
でも、無力だからこそ、今の私にはできることがある。
前世の私は、与えられる愛を守るために、他人の心を殺した。
今の私は、何も持っていない。だからこそ、今度こそ自分から手を差し出せる人間になりたい。
上下で人を見るのではなく。支配や依存で繋がるのではなく。
カイルのように、「世界が間違っている」と怒れるような、真っ直ぐな人間になりたい。
胸の奥の痛みは、生きている証拠だ。
傲慢が剥がれる音は、新しく生まれ変わるための産声だ。
私は立ち上がった。
カイルの焼くパンの匂いが、少しずつ近づいてくる。
そのパンは、決して甘くはないだろう。石のように堅く、不恰好かもしれない。
でも、それを誰かと分かち合う時、私はようやく、本当の意味で「人間」になれる気がする。
与えられる側ではなく、与える側へ。
選ばれる女ではなく、自ら歩む人間へ。
私は、この泥だらけの世界で、もう一度自分を教育し直す。
前世の自分を、本当の意味で葬り去るために。
「……待って、カイルさん」
私は前を向いた。
そこには、一歩ずつ地面を踏みしめる男の背中があった。
支配でも、格付けでもない、ただの「対等な誰か」としての背中が。
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