【R18】秘密。

かのん

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桜先生⑥

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桜先生が来なくなって一ヶ月



お父さんも和也も何だか以前より空気が悪い



だけど喧嘩が僕にとっては羨ましかった



喧嘩しても何だかんだいっても“家族”だったから



お父さんは僕に罪の意識なのかとにかく優しかった



何をしても優しくて――



だから自分の感情を押し殺していた



“お父さんが手術を失敗しなければ――”



そんなことは一度も口に出して言わなかった



いや



言えなかった



「琴音からの手紙も来なくなったね…」



「うん…」



「和也は何か知らない?どうして桜先生が来なくなったか…」



まさか桜先生が亡くなっているなんて思ってもいなかった



だって前日まで元気だったから――



「…わからない。」



嘘だ――



双子だから余計にわかる



嘘をついているけど僕のことを思って嘘をついている



だからそこはあえて深くは聞かなかった



「お風呂入ってくるね。」



「うん。」



和也は部屋の中にあるお風呂に入っていく。



“ザァァァ――”



和也がお風呂やトイレに行くと本当に静かで



この静かさで気分が悪くなる――



“コンコンッ――”



「桜…先生?」




ちょうどよかった



桜先生、気分が悪いよ…



桜先生に会いたかったよ



“ガラガラガラ…”



「君は…」



ドアを開けると目の前には女の子が立っていた。



「こと…ね?」



「拓也君…?」



「どうしてここに…?」



「パパを探しに…」



「パパって桜先生?」



琴音は弱弱しくコクンと頷いた。



「色んなところを探してここに来た。」



桜先生、もしかして――



考えたくもないことが頭に浮かんだ



「でもどうして僕の名前を?」



「この間会ったから。パパの部屋で。」



「パパの部屋…?」



和也が桜先生のところにいたってこと?



「拓也君のお父さんもいた。」



お父さんと和也はやっぱり何か隠して…



「…ゴホッ…」



「拓也君?」



色々考えたいのに体が…考えさせてくれない



「大丈夫!?ここに横になって!」



「え?」



「ママがいつもこうしてくれるの。」



そういって琴音は拓也を膝枕し、背中をさすった。



小さい手のひらで一生懸命さすってくれて



弱い力なのに



温かくて



眠くなりそうだ…








いつも目を閉じれば明日は起きれるのか不安だったのに
            琴音といるとゆっくり眠れそう――





「拓也君、ホクロがある。」



「え…?」



「おでこのとこ。」



「知らなかった…」



“コツコツコツ…”



「琴音!隠れて。」



「え?」



「早く!」



“ガラガラガラ…”





「拓也、調子はどうだ?」



「うん…大丈夫。」



「そうか…和也は?」



「和也は今お風呂。」



「そうか。じゃあ、また病院に戻るけどこっちにもできるだけ顔を出すから。」



「うん…」



父親は和也には会わずにそのまま病室を出て行った。



「…琴音、いいよ。」



「拓也君…今和也君お風呂に入っているの?」



「え?うん…そうだけど。」



「ここで一緒に待っていていい?」



「え?」



「和也君からの手紙待っていたのに…パパがいないから手紙が来ないの。いつも楽しみにしていたのに…だから和也君に会いたい。」



手紙は和也の名で出していたってこと?



そんなこと一言も言わなかったのに――



どうして…僕が琴音のこと好きだって知っているのに…



「和也君まだかな…」



頬を桜色に染めながら嬉しそうに和也の名を呼ぶ琴音



「和也は…」



和也にとられるぐらいなら――



「和也はもう――」







「琴音に会いたくないって…」





嘘をつくことで



琴音の世界から和也を遠ざけたかった



その日から琴音は部屋にくることなく



俺たちも退院してしまった



だから琴音と和也はもう



交わることはないと思っていたのに――



また琴音の世界に和也が入っていく



長くは生きられない俺に



神様は俺の小さな願いを聞いてはくれないのだろうか…



拓也として琴音の前に立っているのに



それでも琴音は



また



和也に恋をしている――
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