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受精するには
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シンの手のひらの上にコロンと転がったのは、いつも通り灰色の卵だった。
失望している自分を自覚し、僅かに期待していたのだと呆れてしまう。
無精卵しか産めないのは、もう嫌っていうほど分かっているはずなのに。いまだに諦めきれてないとは、我ながら往生際が悪すぎる。
シンといえば、手のひらの卵をじっと見据えて動かない。どうやら感動しているようだ。僅かに瞳が潤んでいるように見える。この調子なら、これが無精卵だと気付くのはだいぶ先になるだろう。
とりあえず一安心だと、ホッと息を吐いた。が、急に外が騒がしくなり何事かとシンを見た。シンも首を傾げている。
「入るぞ」
なにも返事をしないうちに、布を捲くられ族長のガイルが入ってきた。その後ろにも何人か村人が控えている。
「ちょっ、なんだよ」
あまりのことに動転していると、シンが持っていた卵をガイルが奪い取った。シンは一瞬反抗的な目をしたように見えたが、結局なにも言わないままだ。
「なにするんだっ」
スズの抗議を無視して、ガイルがその卵を一番後ろに控えていた岩じいに渡した。
岩じいは眉を寄せ、卵をじっと目を凝らして見たあと言った。
「命がない。こりゃ無精卵だ」
村人達がざわつく。ガイルが険しい顔で卵を睨んだ。
「儂はそのむかし儚穹と懇意にしていたことがある。そのときに詳しく教えてもらったのだから間違いない」
儚穹は卵の管理をする者──これは言い逃れが出来ない。厄介な人間が側にいたもんだ。
「お前……もしや」
ガイルが唸るようにつぶやく。まずい流れだ。スズは咄嗟に叫んだ。
「愛が足りなかったんだっ」
全員の視線がスズに集まった。流石のガイルもポカンとしている。
「知らないのか。卵は愛がないと受精しないんだっ。これはシンの愛が足りなかったからだっ」
後ろのシンが何も言わないのが怖い。どんな顔をしているか見れず、ひたすらガイルの方を見て訴えた。
「……岩じい、どうなんだ」
ガイルに促され、岩じいが唸りながら首を傾げた。
「分かりませぬ。左様なことは儚穹は言ってなかったと思いますが……」
「あたりまえの事すぎて言わなかっただけだっ。卵生は愛されて当然の生き物なんだから」
自分で言っていてこんなに虚しいことはない。
『卵生は愛されて当然の生き物』
これは、スズの境遇を嘆いてキジバトのユーイが言った言葉だ。なんとなくずっと心に残っていて、咄嗟にこんな出鱈目な嘘をついてしまった。だが、口に出してみれば、スズが生き残る道はこれしかないような気さえしてきた。
「……確かに。この卵生の言い分は、否定しきれないかと。もう少し様子を見てはいかがでしょう」
やった!
内心で大喜びしたのが顔に出たのか、ガイルにギロリと睨まれた。厳しい顔で卵を岩じいから受け取ると、懐に入れる。
「だが、我々には時間がない。その愛とやらを育むために、お前が努力するんだ卵生殿。シンにさっさと愛を教えてやれ。それが出来なければ……分かっているな」
最後はシンの方をチラリと見て言った。
恐る恐るシンの顔を覗くと、またしても無表情で軽く頷くだけだった。
先ほどいろんな表情を見せたシンはもうどこかにいってしまったと思うと少し寂しい。
とはいえ、命は繋がったのだ。
ガイルと村人たちは、そのまますぐにどこかへ消えていった。
ほっと一息つくと、シンがずっとこちらを見ていることに気が付いた。
「なんだよ」
愛とか適当なことを散々言ってしまったので、さすがに気恥ずかしくなり、思わずぞんざいな態度をとる。
「俺はお前のことが愛しいと思っていたが、足りないということか」
失望している自分を自覚し、僅かに期待していたのだと呆れてしまう。
無精卵しか産めないのは、もう嫌っていうほど分かっているはずなのに。いまだに諦めきれてないとは、我ながら往生際が悪すぎる。
シンといえば、手のひらの卵をじっと見据えて動かない。どうやら感動しているようだ。僅かに瞳が潤んでいるように見える。この調子なら、これが無精卵だと気付くのはだいぶ先になるだろう。
とりあえず一安心だと、ホッと息を吐いた。が、急に外が騒がしくなり何事かとシンを見た。シンも首を傾げている。
「入るぞ」
なにも返事をしないうちに、布を捲くられ族長のガイルが入ってきた。その後ろにも何人か村人が控えている。
「ちょっ、なんだよ」
あまりのことに動転していると、シンが持っていた卵をガイルが奪い取った。シンは一瞬反抗的な目をしたように見えたが、結局なにも言わないままだ。
「なにするんだっ」
スズの抗議を無視して、ガイルがその卵を一番後ろに控えていた岩じいに渡した。
岩じいは眉を寄せ、卵をじっと目を凝らして見たあと言った。
「命がない。こりゃ無精卵だ」
村人達がざわつく。ガイルが険しい顔で卵を睨んだ。
「儂はそのむかし儚穹と懇意にしていたことがある。そのときに詳しく教えてもらったのだから間違いない」
儚穹は卵の管理をする者──これは言い逃れが出来ない。厄介な人間が側にいたもんだ。
「お前……もしや」
ガイルが唸るようにつぶやく。まずい流れだ。スズは咄嗟に叫んだ。
「愛が足りなかったんだっ」
全員の視線がスズに集まった。流石のガイルもポカンとしている。
「知らないのか。卵は愛がないと受精しないんだっ。これはシンの愛が足りなかったからだっ」
後ろのシンが何も言わないのが怖い。どんな顔をしているか見れず、ひたすらガイルの方を見て訴えた。
「……岩じい、どうなんだ」
ガイルに促され、岩じいが唸りながら首を傾げた。
「分かりませぬ。左様なことは儚穹は言ってなかったと思いますが……」
「あたりまえの事すぎて言わなかっただけだっ。卵生は愛されて当然の生き物なんだから」
自分で言っていてこんなに虚しいことはない。
『卵生は愛されて当然の生き物』
これは、スズの境遇を嘆いてキジバトのユーイが言った言葉だ。なんとなくずっと心に残っていて、咄嗟にこんな出鱈目な嘘をついてしまった。だが、口に出してみれば、スズが生き残る道はこれしかないような気さえしてきた。
「……確かに。この卵生の言い分は、否定しきれないかと。もう少し様子を見てはいかがでしょう」
やった!
内心で大喜びしたのが顔に出たのか、ガイルにギロリと睨まれた。厳しい顔で卵を岩じいから受け取ると、懐に入れる。
「だが、我々には時間がない。その愛とやらを育むために、お前が努力するんだ卵生殿。シンにさっさと愛を教えてやれ。それが出来なければ……分かっているな」
最後はシンの方をチラリと見て言った。
恐る恐るシンの顔を覗くと、またしても無表情で軽く頷くだけだった。
先ほどいろんな表情を見せたシンはもうどこかにいってしまったと思うと少し寂しい。
とはいえ、命は繋がったのだ。
ガイルと村人たちは、そのまますぐにどこかへ消えていった。
ほっと一息つくと、シンがずっとこちらを見ていることに気が付いた。
「なんだよ」
愛とか適当なことを散々言ってしまったので、さすがに気恥ずかしくなり、思わずぞんざいな態度をとる。
「俺はお前のことが愛しいと思っていたが、足りないということか」
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