したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

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人魚王子、チクニーにハマる。

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「月の光を溶かしたような見事な銀髪。海に溶け込んだような青い瞳。珊瑚のような赤い唇に、虹色の稀少な尾ひれを持つお前は我が子の中でも特に美しい。甘やかして育ててしまった自覚はある……だが、いい加減にお前は海の王である私の跡取りである自覚を持たなくてはいけない」

 深い深い海の底。
 オレは次から次へと繰り出させるお小言を聞き流しながら、父上の豊かな金髪が波打つのをぼんやりと眺めていた。
 太陽など届かない深海にある宮殿は、珊瑚で作られ、それ自体が淡く光りを放っている。
 一際輝く白い珊瑚の玉座に座っている父上は、この人魚の王国の王様だ。
 引き締まった筋肉を惜しみなくさらし、憂いを帯びた美貌はとても七人の子がいるとは思えないほど冴え渡っている。
 下半身は白銀の尾びれを持ち、その姿は厳かで絵画のように美しいが、今のオレにとってそんな事はどうでも良かった。

(早く、アレをしたいなぁ……)

 このお小言が終わったら、早くアソコに行ってアレを──。

「おい、聞いているのか、シレーヌ」

 ドンと父上が手に持っている三又の矛を岩に叩き付けた音で我に帰った。ええと……?

「勿論、聞いておりました」
「では、私が今何を言ったか言ってみなさい」
「ええと、アレですよね。ほら、そろそろ法螺貝が吹けるように練習を真面目にしなさいとか、なんとか……」
「馬鹿者っ。違うわっ。いい加減地上から落ちてきた物を、子供のように洞窟に取っておくのをやめなさいと言っている」

 その髪と同じ金の瞳を揺らめかせ、肩を怒らせて怒鳴られた。父上のしなやかな筋肉が、ピクピクと怒りで震えている。 

「えぇ~、海は広いんだから別にいいじゃないですか洞窟くらい。オレも自分の別荘が欲しい」

 オレの答えが気に入らなかったのか、父上はますます怒りで髪を逆立てた。

「地上の物にうつつを抜かすのをやめなさいと言っているのだ。それに、魔法使いの家にも年中顔を出しているそうじゃないか。あそこに行ってはいけないと何度言ったら分かるのだ」
「魔法を習いに行くのは、海の王の一人息子として正しい行いではないですか?」
「魔法など、私がいくらでも教えてやる。魔法使いの所には行くな。アイツはお前に悪影響を与える」
「そうかなぁ?」
「地上の物を集めて嬉しそうにしているのが、その証拠だ。私がお前くらいの年には、既に時期トリトン王として朝から晩まで修練をしていたぞ」

 あぁ、こりゃいよいよ長くなるパターンだな。
 オレは気付かれないようにそっと尾びれで水をかいた。

「法螺貝も完璧に吹けるようになっていたし、この矛も自由自在に操れるようになっていた。それに引き換えお前はなんだ。朝からフラッと、どこかに消えて、夜中まで遊び泳ぎおって。ろくにちゃんと寝ないから、そのように身体もいつまでたっても小さいのだ。シレーヌ? 何処に行った⁉︎ シレーヌ!」

※※※

「脱出成功っ。ギィ、早く遊び行こうっ」
「んあ……」

 自分の部屋に戻ると、お付き兼護衛のギィがオレの七色に輝く貝殻の寝台で、とぐろを巻いて居眠りをしていた。ギィは灰色の鱗に、黒い縞々模様がちょっと格好いいウミヘビだ。

「ふあっ、随分お早いお帰りですね……また脱出の腕を上げられましたか?」

 主人の寝台で居眠りしてた事に、全く悪びれる様子は無い。
 人魚にしては小柄なオレより少し小さいくらいの体長のギィは、ウミヘビにしてはわりと大柄。オレの寝台がお気に入りのようで、オレがいないときは、いつもここで昼寝をしている。
 オレはギィがちゃんと目を覚ますように、自分の腕に絡ませ、空いた手で胴体を撫でる。ギィは満足そうに体をくねらせた。

「ふふん、泡隠れの術とでも名付けようか。どんどん腕を上げているだろう」
「その分、トリトン王の説教もどんどん長くなって元も子もない気がしますがね」
「何か言ったか?」
「いえ、なんでもないです」

 ギィがオレの腕からスルリと抜け出したので、今度はオレが貝殻の寝台にゴロンと横になった。
 上を向けば、鮮やかなコーラルピンクの珊瑚で出来たシャンデリア。壁には一面色とりどりの貝殻が埋め込まれている。
 贅をこらした部屋だが、オレが集めた地上の物で溢れかえっている洞窟の方が何万倍もイカしてると思う。

「あ~あ、本当に毎日退屈。これで魔法使いの家に行くのを禁止されたら、どうやって生きていけばいいんだよ」
「人生勝ったも同然な人魚は、悩みが贅沢ですね。綺麗で偉い人の息子で。まあ、ちっと成長途上な感じも否めませんが、ちっこい分泳ぎは素早いし、その虹色の尾さえ見せればどんな海の生き物でもイチコロ。言うことなしじゃないですか」
「美しいなんて言われ慣れてるもん。オレは格好いいって言われたい」

 父上の子供は全部で七人。六人の姉がいて、雄は末っ子のオレだけだ。
 後継者争いを防ぐため、跡継ぎと決められた子供のみ雄として産まれてくる。
 容姿にも恵まれ、稀少な尾を持ち、更にトリトン王の跡継ぎであるオレは、それはそれはチヤホヤされて育てられた自覚はある。
 最近では雌も雄も気持ち悪い笑顔を貼り付けながら、擦り寄ってきてうんざりだ。

「どいつもこいつも……オレと交尾したいって言ってくるんだぜ」 
「あらまぁ……ずいぶんとあけすけですね」
「オレは雄だから、雄とは交尾出来ないのに。何考えてんだろうな」
「まぁ、人魚は色々と特殊なプレイがあるって聞いたことありますしね」
「なにそれ。どうやってやるの?」

 オレが首を傾げると、ギイが嫌そうにとぐろを巻いた。

「俺に聞かないでくださいよ」
「ふーん、じゃあ後で魔法使いに聞こ」
「トリトン王がアンタに魔法使いの所に行かせたくない理由、なんか分かりますよ」
「え?」
「なんでもありません」
「そうと決まればっ、早く行くぞっ」

 ギィをむんずと掴んで、窓からそっと宮殿を出る。父上の追っ手はまだないようだった。
 姉さん達が独立して宮殿を出ていってからというもの、どうもオレへの見張りがキツくなって困る。

 どこまでも静かな海をひたすら進むと、珊瑚の図書館に着いた。ここを右に曲がるとオレの別荘である洞窟があるが、いまはそちらには行かず、真っ直ぐに進むことにした。

「今日はあの悪趣味な洞窟に行かないんですか?」
「うん。先に魔法使いんとこ行く。ってか、悪趣味じゃないし」
「悪趣味ですよ。人間の道具を拾い集めるなんて」

 ギィは基本、オレの行動を止めることはないが、全てに賛成してくれるわけでもない。
 特に、地上から海に落ちてきた人間の道具を面白がって集めている事に対しては、殊更嫌な顔をする。

「なんでギィは人間の道具が嫌いなんだよ」
「人間の道具が嫌いなんじゃなくて、あんたが人間に興味があるのが嫌なんですよ」
「なんで?」
「なんでって……知りません。ほら、早く行きますよ」
「なんだよそれ」

 納得出来ぬまま、先に行くギィの後に続いた。しばらくすると、魔法使いの家の周りに広がる森が見えてきた。
 森と言っても灌木、水草、わかめが海底一面に広っているだけで、これらを無視して上を横切る事は実にたやすく見える。
 だが、侵入者がこの上を知らず横ぎろうとすると、たちまち枝や海草が蛇のように巻きつき雁字搦めに捕縛されてしまう。そこかしこに白骨が落ちているのはそういったわけだ。
 オレは勿論顔パスなので、そんな事にはならずに自由に行き来することが出来る。
 出来るのだが──。

「へへっ、これこれ」

 灌木に近づき、パカッと貝殻の胸当てを外す。普通マーマン(男の人魚)は胸当てをしないものなのだが、何故かトリトンの後継ぎは代々着けることが慣わしとなっていた。
 なんでも『綺麗すぎる人魚』だかららしい。なんだそれ、である。

「集中できないから、ちょっと胸当て持っててくれ」

 ぽいっと放ると、ギィは器用に尾でそれをキャッチした。
 胸当てを預けるのを待っていたかのように、灌木の枝がズルリと伸びてくる。すると、おもむろにその先端がオレの乳首をくにくにと弄りだした。

「んっ、ふ……」

 思わず声を漏らすと、もう一方の乳首にはぬるりとした感触の海草がズルリと押し当てられる。

「ひゃんっ、あっ、あんっ」 

 はぁ~、気持ちいい!

 いまオレが一番ハマっている楽しみはこれなのだ。
 昔から魔法使いの森でギィと遊ぶのがオレの楽しみのひとつだった。二人で追いかけっこをして遊んでいると、たまに灌木達が枝を伸ばして邪魔してきたりするのが、凄くスリリングで面白い。
 あの日も、いつも通りギィと遊んでいると、灌木の枝がたまたま胸に当たって胸当てが取れてしまった。
 そこに海草が偶然触れ、思わず声を上げてしまい、ギィがびっくりして振り返ってきた。

「どうしたんですか?」
「なんか、今ここに海草が当たったらビリッってなった」
「あぁ……乳首ですか。性感帯だからでしょう」
「性感帯ってなんだ?」
「人間が、気持ちいいって感じる所ですよ」
「オレは人間じゃなくて、人魚だぞ?」
「上半身は人間みたいなもんでしょ。やっぱり同じように性感帯があるんじゃないですか?」

 だから胸当てさせてんだろうし……と言うギィの話を横で聞きながら、オレは試しに海草にむけて胸を突き出してみた。
 すると、海草が乳首を優しくサワサワと撫でてくる。

「ひゃぁんっ」
「……気持ちいいんですか?」

 そうギィに聞かれた時は、すぐに答えられなかった。尾から背筋がゾワゾワして、そこだけちょっとヒリヒリする感じ。
 そんな感覚は初めてで、それが気持ちいいって事なのかよく分からなかった。
 だから、それからも足繁く通って、毎日のように乳首を弄ってもらいに来て。

──やっと分かったのだ。

「き、気持ちいぃっ、んあっ、あっ、もっと、先っぽ、ぎゅうって……んっ」
「いやぁ、まさか愛息子がこんな事になってるなんて知ったら、トリトン王卒倒しちゃいますね」
「あっ、ん……なにっ?」
「なんでもありません」

 ギィに視線をやると、集中しろとばかりに枝と海草が両方の乳首をキツく締め上げた。

「ひぃんンッ、あぁんっ」

 堪らず声を上げると労るように、海藻がヤワヤワと優しく触れてくる。だが、それさえも刺激になってオレは体をくねらせた。
 視界の端ではギィがじっとこちらを見ているのを感じる。オレが乳首を弄らせている間、何故かギィは飽きもせずその様子を見てくるのだ。

 ギィも乳首を弄って欲しいのかなぁ? 
 でも、ギィに乳首はないしな。魔法使いに頼めば乳首作って貰えるかなぁ。

 オレはそんな事を考えながら、キモチイイ事にしばらく身を任せた。
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