したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

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人魚王子、パンケーキを食べる。

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「お風呂だっ」

 ヒースに抱えられて、お城まで連れてこられたオレは、モクモクとした白い湯気がたちこめる一面タイルが貼られた部屋に連れて来られた。
 部屋の真ん中には、さっき乗った船より少し大きいくらいの石造りの箱の中にたっぷりの水が入っている。

「魔法使いの家の本で見たことあるっ。一度入って見たかったんだっ」
「それは、ようございました」  

 そう言うと、ヒースはそのまま部屋から出て行って、風呂の前にはハリセンボンみたいなおばさんと、棒きれみたいに痩せた人間の雌が二人が立っていた。

 「人魚様の湯加減が分からないので、ゆっくりお入りくださいませ」

 ハリセンボンおばさんがニコニコ笑いながらそう言うので、オレも満面の笑みでお湯に足を入れた。しかし。

「痛いっっっっ」

 ぎゃぁッと叫びながら、慌てて足を上げた。

「まあ、大変。熱かったのかしら?」

 ハリセンボンおばさんがオレの足に水をかけて、なんとか落ち着いたけど。足がビリビリッて、電気ウナギにぶつかった時みたいになってまだ痺れている感じがする。

「そんなに、熱くはないと思うのですが……」

 棒きれの方が首を傾げながら、湯に手を浸して言った。

「でも、痛かったっ」
「もう少し水を足してみましょう」

 オレが涙ながらに訴えると、ハリセンボンおばさんの指示で棒きれが水を風呂に足した。

「……まだ痛い」

 促されてもう一度入ったが、やっぱり痛い。

「これ以上は、水風呂になってしまいます。人魚様にお風呂は少し難しいのかもしれません」
「でも、オレお風呂に入ってみたいっ」
「……では、お水をお風呂に溜めましょう」

 心なしか疲れたように、ハリセンボンおばさんが言って棒きれと一緒に風呂に水を入れた。
 もう白いモクモクがたたなくなったが、風呂に入ってみると、今度は痛くなくて気持ちよかった。
 そのままハリセンボンおばさんと棒きれがオレの身体を二人がかりで泡だらけにする。

「気持ちいいっ」
「……それは、ようございました」

 二人は少し顔色が青くなっていたが、オレは気持ちいいので大満足だ。

 その後、お風呂から出ると目の前に大きな鏡がある椅子に座らされて、ふたりがオレの頭を弄りはじめた。どうやら、髪を乾かしたり梳かしたりしているらしい。はじめはこれも気持ちよかったんだけど、だんだんずっと座ってるのも飽きてきた。

「なあ、まだ、掛かるの?」
「はい……すいません。御髪が長くていらっしゃるので……」

 困り顔で答えるハリセンボンおばさんは、なぜかさっきより痩せて見える。

「じゃあ、切っちゃってよ。オルクぐらい切れば、すぐ乾くでしょ?」

 なんか地上に来てから髪が重く感じるし。丁度いいや、と提案すると、二人がまた青い顔で首を振った。

「へ、陛下くらい、にですか? そんな短く……」
「恐れ多いっ。無理ですっ」
「いいじゃん。オレ座ってるの飽きちゃった」
「で、では、せめて理髪師を呼びましょう」
「本人がいいって言ってんだから。早くしてよ」

 ため息をつきながら言うと、二人は顔を見合わせて、仕方なくといった様子で頷きあう。
 棒きれの方がハサミを持ってきて、震える手でハリセンボンおばさんに渡した。

「ほ、本当に宜しいのでしょうか。人魚の方にこんな事をして……何か、天災が起きたり……」
「ご本人がおっしゃっているんですもの。仕方ないわ。私が切ります」

 ハリセンボンおばさんが悲壮な顔で、オレの髪をジョキジョキ切り出した。棒きれの方は、海みたいに真っ青な顔になっている。

「いかかでしょうか?」
「わあっ、軽い。髪って重いんだなっ。ありがとう! ハリセンボンおばさんっ」
「ハ、ハリセンボンおばさん……」
「だって名前知らないもん。オレの髪、なんかに取っておいて」

 ハリセンボンおばさんが軽く咳払いして、綺麗な青い箱を持ってきた。いつもは宝石を入れている箱らしい。その後オルクのに似てるけど、もっとイソギンチャクみたいなヒラヒラが、いっぱいついた服を着せられた。
 更に、白くて窮屈なタイツってのも履いて、紐がいっぱい付いた靴も用意されたが、これがかなり歩きづらい。
 なんで人間は、わざと窮屈で歩きづらい格好をしているんだろう。裸で歩くのが一番歩きやすいのに。これじゃあ、交尾するのも大変そうだ。
 でもそう言ったら棒きれが、青かった顔を真っ赤にして倒れそうになったので、ハリセンボンおばさんにあまり人前で交尾の事を言うのはやめて欲しいと言われた。
 これでは尻にペニスを入れる方法を知りたいなんて、とてもじゃないが聞ける雰囲気ではない。
 うーん、と唸っていると、今度は食事をとるように言われ、ハリセンボンおばさんの後に続いて階段を降りた。
 まだ、少し足が痛んだので、棒きれに手を貸してもらったけど、すごく手が震えてて歩きづらいったらない。ヒースが抱っこしてくれりゃいいのにな、と思っているうちに、大きなホールに着いた。

 細長くて大きい机の前に座って待っていると、オルクがヒースを連れてやってきた。
 先程とは違い、肩に金色の綺麗な水草みたいなのがいっぱい付いた、刺繍が沢山施された光沢のある黒くて長いコートを着ている。魔法使いの家の本に出てくる王様みたいな格好だ。
 ちゃんと王様なんだ、とびっくりしていると、向こうも驚いた顔でこちらを見た。

「なんだ。髪を切ったとは聞いていたが、思っていたよりずっとさっぱりしたな。髪を切るとますます幼く見える」
「子供じゃないってば。失礼な奴だな」
「どちらが失礼なんだか。侍女達をだいぶ困らせたようだな」
「侍女って?」
「お前を風呂に入れてくれただろうが」
「ああ。ハリセンボンおばさんと棒きれか」
「お前な……まあ、いい。とにかく、食事にしよう。お前にご馳走を食べさせろと、ヒースが煩いんでな。うちの城は小さい分、飯は温かい物がでてくるのが自慢なんだ。感謝して食せ。そして、満足してさっさと帰れ」

 なんだよそれ、と文句を言う前に、オルクが手を叩くと、料理が次々とオレの前に置かれてく。銀色のお皿の上に、色とりどりの料理が机いっぱいに並べられた。

「海鮮は避けたから、お前でも食べられる筈だ」
「パンケーキはないの?」
「ハッ、本当お子様だな。海の下ではパンケーキばかり食べていたのか?」
「人魚の主食は水草だからね。パンケーキなんか食べた事無いよ。でも、魔法使いの家の本で読んで知ってる」
「魔法使い?」
「元は人間だから、地上の本をいっぱい持ってるんだ。海の中って本当つまんないんだけど、魔法使いの家だけは、色々面白くて年中遊びに行ってた。そこに、人間がパンケーキを作って食べるって本があって……。食べてみたいなって、ずっと思ってたんだ」

 本に書かれていた、丸くて黄金色のパンケーキを思い出し、思わず笑顔で答える。オルクの瞳の色が少し柔らかくなった気がした。

「なるほどな。お前のおかしな知識は、その魔法使いのせいというわけか。パンケーキはないが、全部美味いぞ。まずはスープを飲んでみろ。こうやって、スプーンで梳くって飲むんだ」

 オルクは自らのスープを、掬って飲んでみせた。相変わらずムカつく事ばかり言ってくるが、溺れていたのを助けてくれたし、基本面倒見がいいのかもしれない。 
 オルクが喉を鳴らしてゴクリと飲み込むのをまじまじと見ていると、にっと笑ってやってみろ、といったように顎で指図される。
 惚けながらオルクを見ている事に気が付き、慌ててスプーンを手に持つ。
 金色に輝くスープを掬ってみると、白いモクモクがじわっと目に染みた。なんだか面白い。ドキドキしながら一口飲んでみた。

「痛いッ」

 さっきのお風呂と一緒だ。下がビリビリして、とてもじゃないけど飲めない。

「熱いって事か? じゃあ、まずはこのシャーベットを一口食べて舌を冷やせ。スープはもう少ししてからだな」

 オルクに勧められるまま、慌ててシャーベットというものを口に入れてみる。ホロホロと冷たいのが口のなかで溶けて、爽やかな香りが鼻に抜けた。

「なにこれっ、凄いっ」
「リモンの実を凍らせて作ったものだ。気に入ったか」

 これが『美味しい』って感覚なのかも。俺はペロリとシャーベットを平らげてしまった。

「おい、そんなに急に冷たいものばかり食べると、腹が冷えるぞ。そろそろスープを飲め」
「嫌だ。あれ、痛いもん。この『しゃーべっと』の方をもっと食べたい」

 シャーベットが入っていた空のガラスの器を高く掲げると、ハリセンボンおばさんが慌てて寄ってきた。

「今、おかわりを作るようにシェフに言って参ります」
「あ、じゃあさ、パンケーキも作ってよ。オレ、早くパンケーキ食べたい」
「は、はい、では……」
「いい加減にしろっ」

 声と共に、ガシャンと大きな音がした。
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