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人魚王子、空中散歩する。
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「こいつが人魚⁉︎」
「間違いないですね。耳の先端が尖って一部透明になっているのは、人魚の方の特徴です。耳飾りの真珠も、ちょっと見ない大きさですし。普通の人間で、この真珠を見つけだせる者はいないでしょう。恐らく秘薬を使って人間になったのではないかと思います。昔、そういった事があったと祖父が言っていました」
「まさか、海の中で人間になる秘薬を飲んだのか?阿呆すぎるな……」
──すぐそこで誰かが喋ってる。
一人は先程助けてくれた雄の声だ。なんか酷いことを言われている気がする。
「面倒な事になったな」
「私の目を盗んで、勝手にお一人で釣りになど出かけられるから、このような事になるのですよ」
「お前がそのように口煩いから、俺は一人で出かけたくなるんだ」
「……とにかく、人魚の方が地上にいらっしゃった際は、手厚く歓迎するのが宜しいかと。早速宴の準備をさせましょう」
「放っておいて、勝手に溺れ死んで貰えば良かったな」
やっぱり酷い事を言われている気がする。
オレは重い瞼をなんとか擦って開け、体を起こそうと足に力を込めようとした。だがそれはかなわず悲鳴を上げることになった。
「痛ぁぁぁぁっい!」
「なんだ、起きたのか」
「いかがされました、人魚殿っ⁉︎」
「足もヒリヒリするし、背中はギシギシするし、なんか凄く痛いっ。全身痛いっ」
「ふむ……足は人間の足になったばかりだからでしょうか。背中は恐らく、硬い板の上で寝ていらっしゃったからでしょう」
ヒョロリと背の高い男が、オレに手を伸ばしてきた。助けてくれた男より、ひとまわり上の年齢に見える。長めの金髪を後ろで一つに結び、同色の瞳で心配そうに覗き込んできた。
オレはその細長い手を取り、思い切って身体を起こした。痛いけど、船に寝たままでいるより少し痛みは楽かも。
周りを見渡すと、ゴツゴツとした岩場の海岸の先に大きなお城が建っているのが見えた。船は岩のひとつに紐で括り付けてあるようだ。
「私は陛下の従者を務めさせて頂いております、ヒースと申します」
「へ、いか?」
「こちらのお方が、我がリューン王国のオルク陛下でございます」
ヒースが目線を送った先には、先程オレを助けてくれた男が腕を組んで胡乱な目付きでこちらを見ていた。
こいつがこの国の王様?
地上の服は分からないけど、あちこち擦り切れて、割と粗末な布を身に付けてるようだ。それに、なんだかさっきは優しかったけど、いまは刺々しい雰囲気を感じた。
「まずは、お洋服をご用意致しましょう。その格好は、地上の者には、些か刺激が強うございます」
「しげき?」
「そうですね。地上では女性が裸で歩き回る事はまずございませんので」
「オレ、雄……じゃなくて男だけど」
「えっ」
「なっ」
ヒースとオルクが揃って驚きの声を上げた。
「ですが……」
チラリとヒースがオレの胸元に視線をやった気がした。オルクに至っては、そこをガン見しながら首を傾げている。
「人間になったからペニスもあるぞ。見るか?」
長い髪が丁度ペニスを隠していたので、かきあげて見せた。
「け、結構です。大丈夫ですよ。陛下、ダメですからね」
「助けたんだから、見るくらい役得だろ」
何の事か分からないが、丁度ペニスの話になったので、オレはオルクに早速聞いてみる。
「オレのペニスを見せるので、お前のペニスも見せてくれないか?」
「……なんだって?」
「お前のペニスを、オレの尻に入れてみて欲しいのだ。オレは人間の雄と交尾をしに地上にきた」
「……とんでもない奴を助けちまったな」
オルクは唸るように言いながら、頭を抱えた。
なんだろう。なにか変な事を言っただろうか。
「おい、ヒース。とりあえず、後は頼んだ。俺はこれ以上コイツの相手をしていたら、頭がおかしくなりそうだ」
オルクは重いため息をつきながらそう言うと、軽快に岩場を乗り越え、そのまま城の方へ行ってしまった。
さっきは優しい感じがしたのに、なぜかいまは凄く冷たい態度を取られた気がする。大体王様っていうのは、父上みたいな感じの人だと思ってたけど、オルクは随分と雰囲気が違う。偉そうなのは父上と一緒だけど。
オレが憤慨していると、軽く会釈しながらオルクを見送ったヒースが、もう一度手を伸ばしてきた。
「失礼。陛下は今お忙しいのです。ご容赦下さい。さあ、お手をどうぞ。男性用のお洋服をご用意します。湯殿の用意もさせましょう」
立て、という意味だろう。オレはもう一度ヒースの手を取る。それにしてもデカい手だ。
ヒースの手に体重を乗せながら、なんとか立つ事に成功したが、これで『歩』かなちゃいけないと思うと挫けそうになった。身体が重くて、立つのがやっとなのに、このままあの遥か遠くに感じるお城まで歩かなきゃいけないのかと思うと絶望しかない。
とりあえず船から降りようとしたところで、早速転びそうになり、ヒースが慌てて支えてくれた。
「いきなり岩場を歩かれるのは、難しいかもしれません。よろしければ、城まで私がお連れしましょう」
そう言うと、ヒースにヒョイと抱きかかえられた。背が高いヒースと目線が同じ高さになる。
「う、わぁっ」
「しっかりお掴まりください。人魚殿」
「凄いっ。海をこんな上から見たの初めてだっ。鳥になったみたいっ」
興奮して、足の痛さも忘れてたオレをヒースが笑った。
「流石に、海鳥達ほど空高くはお連れ出来ませんね。ですが高いのがお好きなら城からの景色は、お気に召すと思いますよ。人魚殿には、海がよく見えるお部屋を用意しましょう」
「ヒース、いい奴だなっ。ありがとうっ。オレはシレーヌと言う。宜しく頼むっ」
ヒースの顔を覗き込むと、ニコリと笑った。
オルクは何だか思ったより嫌な奴っぽかったけど、ヒースはいい奴だ。
なんだったらヒースにペニスを入れて貰ってもいいかもな、と思いながらオレは空中散歩を楽しんだ。
「間違いないですね。耳の先端が尖って一部透明になっているのは、人魚の方の特徴です。耳飾りの真珠も、ちょっと見ない大きさですし。普通の人間で、この真珠を見つけだせる者はいないでしょう。恐らく秘薬を使って人間になったのではないかと思います。昔、そういった事があったと祖父が言っていました」
「まさか、海の中で人間になる秘薬を飲んだのか?阿呆すぎるな……」
──すぐそこで誰かが喋ってる。
一人は先程助けてくれた雄の声だ。なんか酷いことを言われている気がする。
「面倒な事になったな」
「私の目を盗んで、勝手にお一人で釣りになど出かけられるから、このような事になるのですよ」
「お前がそのように口煩いから、俺は一人で出かけたくなるんだ」
「……とにかく、人魚の方が地上にいらっしゃった際は、手厚く歓迎するのが宜しいかと。早速宴の準備をさせましょう」
「放っておいて、勝手に溺れ死んで貰えば良かったな」
やっぱり酷い事を言われている気がする。
オレは重い瞼をなんとか擦って開け、体を起こそうと足に力を込めようとした。だがそれはかなわず悲鳴を上げることになった。
「痛ぁぁぁぁっい!」
「なんだ、起きたのか」
「いかがされました、人魚殿っ⁉︎」
「足もヒリヒリするし、背中はギシギシするし、なんか凄く痛いっ。全身痛いっ」
「ふむ……足は人間の足になったばかりだからでしょうか。背中は恐らく、硬い板の上で寝ていらっしゃったからでしょう」
ヒョロリと背の高い男が、オレに手を伸ばしてきた。助けてくれた男より、ひとまわり上の年齢に見える。長めの金髪を後ろで一つに結び、同色の瞳で心配そうに覗き込んできた。
オレはその細長い手を取り、思い切って身体を起こした。痛いけど、船に寝たままでいるより少し痛みは楽かも。
周りを見渡すと、ゴツゴツとした岩場の海岸の先に大きなお城が建っているのが見えた。船は岩のひとつに紐で括り付けてあるようだ。
「私は陛下の従者を務めさせて頂いております、ヒースと申します」
「へ、いか?」
「こちらのお方が、我がリューン王国のオルク陛下でございます」
ヒースが目線を送った先には、先程オレを助けてくれた男が腕を組んで胡乱な目付きでこちらを見ていた。
こいつがこの国の王様?
地上の服は分からないけど、あちこち擦り切れて、割と粗末な布を身に付けてるようだ。それに、なんだかさっきは優しかったけど、いまは刺々しい雰囲気を感じた。
「まずは、お洋服をご用意致しましょう。その格好は、地上の者には、些か刺激が強うございます」
「しげき?」
「そうですね。地上では女性が裸で歩き回る事はまずございませんので」
「オレ、雄……じゃなくて男だけど」
「えっ」
「なっ」
ヒースとオルクが揃って驚きの声を上げた。
「ですが……」
チラリとヒースがオレの胸元に視線をやった気がした。オルクに至っては、そこをガン見しながら首を傾げている。
「人間になったからペニスもあるぞ。見るか?」
長い髪が丁度ペニスを隠していたので、かきあげて見せた。
「け、結構です。大丈夫ですよ。陛下、ダメですからね」
「助けたんだから、見るくらい役得だろ」
何の事か分からないが、丁度ペニスの話になったので、オレはオルクに早速聞いてみる。
「オレのペニスを見せるので、お前のペニスも見せてくれないか?」
「……なんだって?」
「お前のペニスを、オレの尻に入れてみて欲しいのだ。オレは人間の雄と交尾をしに地上にきた」
「……とんでもない奴を助けちまったな」
オルクは唸るように言いながら、頭を抱えた。
なんだろう。なにか変な事を言っただろうか。
「おい、ヒース。とりあえず、後は頼んだ。俺はこれ以上コイツの相手をしていたら、頭がおかしくなりそうだ」
オルクは重いため息をつきながらそう言うと、軽快に岩場を乗り越え、そのまま城の方へ行ってしまった。
さっきは優しい感じがしたのに、なぜかいまは凄く冷たい態度を取られた気がする。大体王様っていうのは、父上みたいな感じの人だと思ってたけど、オルクは随分と雰囲気が違う。偉そうなのは父上と一緒だけど。
オレが憤慨していると、軽く会釈しながらオルクを見送ったヒースが、もう一度手を伸ばしてきた。
「失礼。陛下は今お忙しいのです。ご容赦下さい。さあ、お手をどうぞ。男性用のお洋服をご用意します。湯殿の用意もさせましょう」
立て、という意味だろう。オレはもう一度ヒースの手を取る。それにしてもデカい手だ。
ヒースの手に体重を乗せながら、なんとか立つ事に成功したが、これで『歩』かなちゃいけないと思うと挫けそうになった。身体が重くて、立つのがやっとなのに、このままあの遥か遠くに感じるお城まで歩かなきゃいけないのかと思うと絶望しかない。
とりあえず船から降りようとしたところで、早速転びそうになり、ヒースが慌てて支えてくれた。
「いきなり岩場を歩かれるのは、難しいかもしれません。よろしければ、城まで私がお連れしましょう」
そう言うと、ヒースにヒョイと抱きかかえられた。背が高いヒースと目線が同じ高さになる。
「う、わぁっ」
「しっかりお掴まりください。人魚殿」
「凄いっ。海をこんな上から見たの初めてだっ。鳥になったみたいっ」
興奮して、足の痛さも忘れてたオレをヒースが笑った。
「流石に、海鳥達ほど空高くはお連れ出来ませんね。ですが高いのがお好きなら城からの景色は、お気に召すと思いますよ。人魚殿には、海がよく見えるお部屋を用意しましょう」
「ヒース、いい奴だなっ。ありがとうっ。オレはシレーヌと言う。宜しく頼むっ」
ヒースの顔を覗き込むと、ニコリと笑った。
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