したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

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人魚王子、スープを飲む。

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「陛下が情に厚い方なのは知っておりますが、国を統べる方が短気なのはいただけません。本当に津波が起こったらどうなさるおつもりか」
「……分かっている。だから、こうしてやってきたんだろうが」

 誰かが耳元で喋っている。なんだか、今朝も同じような事があったな、と思ったが頭がうまく働かない。
 それどころが、どこもかしかもギシギシ痛む。ゾクゾクするような感じと、熱いような感じが身体を交互に襲ってきて、息を吸うのが凄く苦しい。知らず、開けた瞳から熱い水滴がこぼれ落ちた。

「お、起きたか。ほら、食堂でジンジャースープを貰ってきたぞ。今度こそちゃんと飲め。まったく。水風呂に入ったあげく、冷たいものばかり食べるから、熱なんか出すんだ」
「スー、プ……」
「そうだ、今度は我が儘言うんじゃないぞ。ちゃんと飲むんだ」

 抱きかかえるように、背中をおこされ目の前にスプーンを差し出された。
 チラリと上を見上げると、オルクが怒ったような顔でこちらを見ていたが、さっきよりも怖くない。
 オレは思い切ってハフッとスプーンごと食べる勢いでスープを飲んだ。
 自分が熱いせいか、今度は全然痛くない。ゴクンと飲み込むと、温かいものが喉を通って、お腹の方がポカポカしていくのが分かる。
 ゾクゾクする感じが少し楽になった気がして、ホッと思わず息を吐く。
 もう一度オルクを見ると、何とも言えない顔でオレを見守っている。

「お、いしい……」

 ニコッと笑ったつもりだが、うまく笑えたかは分からない。
 今度こそ笑い合いながらスープを飲みたかったけど、オルクは一瞬びっくりした顔をして、すぐにオレから離れて行ってしまった。 

 ぬくもりが消えて、なんだか残念な気持ちになる。

「後はクロエとエマに世話は頼んである。ゆっくり休んで早く直せ」

 そう言って、さっさと部屋から出て行ってしまった。ヒースは何か言いたげにしていたけど、結局「ゆっくりお休み下さい」とだけ言って、オルクの後を追いかけて行った。

 お腹のポカポカは続いていたけど、なんだか冷たい岩場に一人取り残されたような気持ちだ。思わず布団をぐるぐる身体に巻き付けた。

「あら、お寒いのですか?」

 ハリセンボンおばさん……じゃなくて、クロエが心配そうに声を掛けてきた。

「分かんない。ゾクゾクする」
「それは寒いのでしょう。暖炉の薪を増やしましょう」

 そう言って、出て行こうとするクロエの洋服を摘まんで止めた。クロエが驚いた顔でこちらを見る。

「なにか?」
「分かんないけど……お腹はポカポカなのに、なんか、泣きたくなる気持ちになる。側にいて……」

 クロエは目をまんまるにしたが、すぐに笑ってオレの手を握ってくれた。

「それは、寂しいという気持ちでしょう。海の方は、そういう事はないのですか?」
「海の国では、絶対誰か側にいて。ほっといて欲しいって、いつも思ってたから」
「それはそれは。みなさんに、愛されてお育ちになったのですね」
「愛……?」
「愛されて、寂しくないのを知っているから、寂しいと感じるんですよ」

 そうなんだろうか。
 難しくてよくわかない。
 オレの姉たちは全員母親が違うし、父上が誰かを愛したなんて話も聞いたことない。
 みんなオレのことを美しいとは言うけど「愛してる」なんて言われたこともない。
 それでも、オレは本当は愛されていたんだろうか。

 魔法使いの家の本の中で、人間たちは年中「愛してる」って言い合っていた。
 
 本の中に書かれていた「愛」はパンケーキみたいにふわふわしていて、太陽みたいにあったかいもの。
 それがどういうものなのか、人間のことを知れば分かるのかもしれないと思った。
 だから人間のものを集めたり、魔法使いに聞いたり。
 なのに、オレは。
 人間の名前さえも知ろうともしないで──。

「クロエ……」
「あら、なんでしょう」
「オレ、津波なんて、起こさないよ」

 一瞬、息を飲んだ気配がした。
 だがすぐに、クロエは微笑みながら手に力を込めてきた。

「分かっております。貴方様が、そんなことをする方ではないのを陛下も分かっておいでですよ。大丈夫。お熱が下がったら、また陛下とお話になれます」

 そう言って手を擦ってもらうと、少しだけ、悲しいのが減った気がした。と、同時に目蓋がどんどん重くなって、開けているのが辛くなる。

「クロエ、ごめんね」
「何がでしょう?」
「いろいろ……いろいろ……ごめ……ん」

 言いたいことが、言えたか分からない。
 だけど、大丈夫ですよ、という優しい声ををどこか遠くで聞いた気がした。
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