したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

文字の大きさ
9 / 44

人魚王子、反省する。

しおりを挟む
 波の音がする。
 なんで海の中なのに、波の音がするんだろう。
 それに、ギィが起こしに来ない。「いい加減に起きないと、またトリトン王に怒られますよ」って、そろそろ身体を締め付けにくるはずなのに。
 そしたら、魔法使いの家に行く前に、オレの秘密の洞窟の様子を見に行って。海に沈んだスプーンや靴を眺めながら、地上がどんな所か妄想して──。


「って、違う。いるんじゃん、地上に」

 ガバッと、起き上がった。
 すぐ近くにいたヒースがびっくりした顔でこちらを見ている。

「起きられましたか。体調はいかがですか?」
「体調?」
「熱を出して、そのまま寝込まれたのですよ。熱は下がったようですが、お加減は?」

 そうだ。食事をした後、そのまま熱を出して倒れて──。
 その時になってやっと自分が柔らかな寝台の上に寝かされていたことに気が付いた。誰かがここに運んでくれたらしい。
 あたりを見渡すと白を基調とした、温かみのある壁には大きな窓がついており、窓の外には一面海が広がっていた。
 波の音が聞こえたのは、ヒースが窓を開けたからのようだ。

「うん。なんかスッキリしてる。大丈夫みたい。昨日、ヒースがこの部屋まで運んでくれたの?」
「ええ、陛下もいらっしゃって心配しておりました。覚えておりますか?」
「……うん」

 覚えている。覚えているからこそ、オルクがオレのことを心配というよりもやっかい者、と思っている事は分かっていた。
 昨晩の事を思い出すと、なぜか目の奥がじわりと熱くなる。
 そんなオレをヒースが心配そうに見てくるので、あえて違う話題を振った。

「なんかさ。人魚を怒らせると津波が、とか言ってなかった?」
「あぁ、聞いてらっしゃったんですか。えぇ、まあ、そのように言われています」

 ばつが悪そうに言うヒースに、オレは首を傾げる。

「オレそんな事しないよ。ってか、普通の人魚なら、そんな事出来ないけど」
「しかし、私の祖父の代に訪れた人魚の方は、帰られる時大層機嫌が悪かったそうで……。その直後、大きな津波が襲ったそうです。小さい頃、何度もその話をされましたので、よく覚えています」

──なんだか、嫌な予感がする。

「その人魚が、どんな人魚だったかもお祖父さんに聞いた?」
「ええ。なんでも金の髪と瞳で、大層美しい人魚だったそうです。あっ。勿論、シレーヌ様も充分お美しいですが」

 黙り込んだオレに、何を勘違いしたのかヒースがフォローを入れてきた。

 間違いない。
 津波を起こした人魚って、父上のことだ。
 そもそも金髪の人魚って珍しいし、父上なら怒って津波を起こすくらい、矛を軽く振れば簡単に出来てしまう。

「なんか、ごめん……」
「いえ、シレーヌ様がやったわけではないので」

 恐縮するヒースに「いや、それオレの父上だから」とは、とてもじゃないけど言えなかった。

「じゃあ、やっぱりみんなオレに怯えてたんだな」
「まあ、そうですね。しかし、クロエはシレーヌ様は、大丈夫だろうと言っていましたよ。僭越ながら、私もそう思います」
「クロエが?」

 昨夜、手を握ってもらいながら眠ったのを思い出した。手の平に、まだクロエの感触が残っているような気がして両手をさする。
 ああいうのを、『ぬくもり』というのかもしれない。

「オレさ、人魚の国では一応王子なんだよね」
「成る程。なんとなく分かります」

 どういう意味で分かるのか、少しひっかかったが話を続ける。

「オレのまわりにも、侍女みたいな人達がいたんだ。朝、ギィ……ギィってのは、オレのお付きのウミヘビなんだけど。ギィに起こされた後は、侍女みたいな人魚達が、オレの髪を梳かしたり、尾びれを手入れしたりしてくれてたわけ。でも、オレさ。その子達の名前なんて、気にした事もなかったんだよ」
「……」
「昨日、オルクがオレのことをつまらない人魚って言ったけど。本当そうだな、って思ったんだ。オレ、色々欲しがるくせに、目の前の物には全然気付いてなかったなぁって」

 また、じわりと瞳が熱くなる。人間って、こんな簡単に泣いてしまうものなんだろうか。
 ヒースが、寝台の前に跪いた。
 どうしたのかと驚いていると、オレと目線があうように覗き込んで微笑んだ。

「シレーヌ様は、おそらく誰かに何かをして差し上げた事がないのではないですか」
「何かを……?」
「だから、分からないだけだと思いますよ。例えば、仲良くしたい相手に何かをしてあげてみてはどうでしょう。色々と見えてくるものがあるかもしれません」
「仲良くしたい相手……」

 一番に、昨日の怒ったオルクの顔が浮かんだ。

「何を、すればいいんだろう?」
「そうですね。自分がして貰って嬉しかった事を、して差し上げるとかはいかがでしょう」

 自分がして貰って、嬉しかったこと。
 なるほど。それなら分かりやすい。

「分かった。じゃあ、ちょっと行ってくるっ」
「えっ、どちらに⁉︎」

 オレは寝台から飛び降りると、ヒースが後ろから引き留めるのも気にせず、一目散に階段へと向かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる

水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」 人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。 ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。 「俺が、貴方の剣となり盾となる」 国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。 シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。

処理中です...