したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

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人魚王子、名誉挽回を頑張る。

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 急いで昨日食事をした場所に戻ったが、よく考えたらここで、スープを作っているわけではないのだ。
 困った、と思ったが、何やら隣の部屋からいい香りがする。匂いをたどって見れば、そこには沢山の鍋やら食材が置いてあり、白い格好をした人間達が、右へ左へとめまぐるしく働いていた。
 部屋の真ん中の方では、鍋をグルグルとかき混ぜている恰幅の良い人間がいる。ちょろんと、飛び出た前髪が少しチョウチンアンコウに似ていた。

「あれ、貴方は……人魚様ですか?」

 扉の所に立っていたら、先に声を掛けられた。  
 鍋の火を一端止め、緊張した面持ちで直ぐそばまで寄ってくる。

「ああ、やはり。お噂はかねがね。私は料理長のグィーノです。体調を崩されたと聞きましたが、大丈夫ですか?」
「うん、もういいんだ。昨日出してもらったジェラードもグィーノが作ったの?」
「左様です」
「凄く美味しかったっ。魔法のように口の中で溶けたぞっ。あれは、なんだったのだろう?」

 そこまで言って、グィーノがホッとしたように微笑んだ。

「果物を凍らせたものを削ったのです。よろしければ、またお作りしましょう。ただ、お風邪を召されたのなら、朝食はスープの方が」
「スープ! それなんだっ。オレがここに来たのは」
「はて……といいますと?」

 困惑しているグィーノに詰め寄り、ギュッと両手を握るとぎょっとした顔でこちらを見た。

「昨日、オルクにスープを飲ませて貰って、凄く嬉しかったんだっ。だから、オレもオルクにスープを作って飲ませてやりたいっ」
「は、はぁ」
「あそこにある鍋はスープなのか? オレも作りたいっ」

 ずかずかとスープの方まで行って、混ぜていた棒を掴む。
 すると、あまりの熱さに(これは熱いという事だと学んだ)思わず棒を放すと、勢いあまって、鍋にガコンと当たってしまった。
 そのまま、スローモーションのようにゆっくりと地面に落ち、ガシャーンと派手に辺り一面中身が飛び散ってしまった。

「あぁっ、人魚様っ。だいじょうぶですか」

 グィーノが慌てて駆け寄ってきた。大丈夫、ごめん、と謝ろうと顔を上げると、いつの間にか入り口にオルクが立っている。
 思わずギクリと動きを止めた。

「……またか」

 オルクが深いため息を付きながら、呆れたようにこちらを見ている。違うんだ、と言い訳したくても、何から説明したらいいのかも、何が違うのかも分からない。
 うぅ、と変な風に喘ぐことしか出来ないオレを、オルクが氷のような目で見た。

「まだ地上にいたいなら、せめて布団の中で大人しくしてくれませんかね。人魚様」

 オルクは冷たくそう言い放ち、すぐにその場を去った。呆然と後ろ姿を見つめることしか出来ないオレに、グィーノが心配したように声を掛けてくる。

「に、人魚さま、お怪我は?」
「……ううん、大丈夫。ごめんね、大事なスープを。せめて元に戻しておくね」

 そう言って人差し指を振ると、地面に落ちたスープは空中へ浮かび、丸い塊となって鍋に戻った。零れたスープは一滴残らず、元通りのはずだ。
 部屋中がざわつき、グィーノの口があんぐりと開けっぱなしになる。

「ま、魔法……?」

 呻くように言われて、人間は魔法を使わないことを思い出した。

「液体を操るくらいしか、出来ないけどね」
「凄いっ」

 グィーノは手を叩いて感動してくれたが、オレの気分はどん底のままだった。

「全然凄くないよ。オレは水を動かすだけだもん。水からスープを作ることが出来るグィーノの方が凄いに決まってる」

 自分で言っていて情けない。
 グィーノが心配そうな顔でこちらを見る。何か言いたそうにしていたが、オレはそのまま逃げるようにその場を後にした。
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