したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

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人魚王子、お散歩する。

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 一度お城に戻ってクロエと身支度をすませてから、階段を降りると、既にヒースが門の前で馬車を用意して待ってくれていた。
 初めて見る馬に興奮していると、商人風の装いに着替えたオルクがやってきた。王様の格好をしたオルクも格好いいが、小洒落た黒い帽子を目深に被って悪戯そう笑うオルクも非常に魅力的だ。
 ドキドキしながら馬車に乗り込み、暫く揺られると段々と外が騒々しくなってきた。

「この辺りで降りよう。後は歩いて行く」 

 オルクがそう言って馬車を停めさせて扉から降りると、目に飛び込んで来たのは沢山の人、人、人。

「凄いっ。いっぱい人がいるっ」
「この国は小さな島国で北、南、東、西と、それぞれ四つの港町があるが、東に位置するこの市場は城下町と接しているので国一番の市場があるんだ。ほら、ちゃんと前を見ないとぶつかってしまうぞ」

 そんな事を言ったって、細長い建物の窓辺にも人が沢山いて、窓から色とりどりの布が垂らしてあるのがとても綺麗で目が離せない。

「あの布はなに?」
「あぁ、ラブィーノか。あれは漁に出ている主人が無事に帰ってくるよう、おまじないのような風習だ」
「なんか不思議な形してる」
「涙の形だな。恋人の涙が愛する者を家路につかせるということらしい。裏にはトリトン王への祈りのようなものが刺繍されている」
「へぇ」

 初めて知った。父上は知っているんだろうか。
 鮮やかな風景に見入ってしまい、忠告を聞かずに上ばかり見て歩いていると、前から来た大きな籠を持ったおじさんとぶつかってしまった。

「わっ」

 そのまま、人の波に流されてしまいそうになるのを、オルクが腕を掴んで救い出してくれる。

「ほら、ちゃんと前を見ろ」

 そう言って、オルクの大きな手がしっかりとオレの手を握る。

「あ……」
「なんだ?」
「いや……、手、あったかいと思って」

 海の中で感じたことのない感覚に思わず驚く。

「あぁ、なんだ。気持ち悪いか?」
「ううん、反対。なんか、気持ちいい」

 思わず呟いたオレに、オルクが眉を顰めて何とも言えない顔をする。

「……お前は、本当に」

 オルクが唸るように呟いた。また何か怒らせてしまったのだろうか。

「ごめん。また、何かダメな事言ってしまった?」
「いや、そんな事はない。お前という人魚の事が、少し分かったきた気がしただけだ」
「え、もう分かってきたの? 凄いね、オルク」
「あぁ……」

 少しだけオルクが呆れた顔をしたのは気のせいだろうか。深く考える前に、行くぞ、と促され、露天がズラリと立ち並ぶ場所までやってきた。
 果物や、装飾品。沢山の見たこともない品物が、絨毯の上に所狭しと並べられて、その周りには売り声をあげる人や、物色する人など、沢山の人間が行き交いしている。
 その光景を物珍しげに見ながら歩いていると、店主の一人に声を掛けられた。

「お嬢さん、貴方の白い肌にこれなんてピッタリじゃよ」
「お嬢さんってオレのこと?」
「まあ、そうだろうな」

 今のオレは昨日と同じような服に、頭には長いベールを付けている。どうやら、オレの髪と目の色は人間には珍しい色なので、目立たないようにということらしい。

「オレってお嬢さんに見えるのかな?」
「一応服は男物なんだが、ベールを付けるのは普通女性だからな。それにお前ほど肌が白い男は、まぁいない」 

 そう言われて見ると、オレの肌はまわりの人間より白いようだ。オルクも王様なのに、浅黒い肌をしている。ヒースの方が白いくらいだ。

「なんだ?」

 視線を感じたオルクが眉を上げてこちらを見たので、なんとなく照れくさくて、なんでもない、と商人が手に持った首飾りを眺めた。

「金色の首飾りだね。綺麗」
「この国は金属は取れない代わりに、装飾は得なんだ。飾りになる真珠と珊瑚は採れるからな。見事な細工だろ。付けてみるか」
「いいの?」

 オルクは頷くと、商人から首飾りを受け取って付けてくれた。首のラインにそって、綺麗な模様の彫られた細い金の鎖がひんやりと馴染んで心地いい。

「どう?」

 店主が鏡を持ちながら「お似合いですよ」と言ってくれたが、オレはオルクからその言葉を聞きたくて詰め寄った。

「どうって……そうだなぁ」
「うんうん」
「犬の首輪みたいだな」

 
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