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人魚王子、犬になる。
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犬……。
犬というと、魔法使いの家の本で見た捨てられていたのを人間に拾われる、あの毛むくじゃらの生き物のことだろうか。
その首輪というと。首に付けてたアレのことか。それって……。
「嬉しいっ」
「──は?」
オルクがびっくりした顔でこちらを見る。
「犬って、あの可愛い生き物だよな。オレって犬みたいに見える? 嬉しいなぁ」
鏡を見てニコニコしてしまう。えへへ、確かに犬みたいだ。あんな可愛い生き物と一緒なんて、嬉しすぎる。
と、突然オルクが吹き出した。
「……オルク?」
「ダメだ……ククッ、ハハハッ」
声を出して大笑いし始めたオルクに、店主も「旦那、人が悪いですよ」と困っている。それでもオルクは笑いやまず、ヒーヒー言いながら、ずっと笑い転げていた。オレがポカンとしているに気付き、やっと笑うのを止めてくれた。
「いやぁ、すまんすまん」
「あの、オレ。また、おかしな事言った?」
「いや、違う。おかしかったのは俺だ。自分の馬鹿さ加減に笑っていたんだ」
「オルクは馬鹿じゃないと思うけど」
「いいや。お前という生き物が、悪い者かと疑うなど……。オレもまだまだだな、と思ったのだ」
オルクは目尻に堪った涙を拭うと、オレの首飾りをそっとなぞった。ゾクっとした感覚が走り思わずぶるりと震える。
「とても可愛いよ」
ドキリとするほど優しい笑みでそう囁かれて、首元がカーッと熱くなる。
「く、首飾りが、だよな?」
「ふふっ、勿論そうだ」
おかしそうに、また笑うと店主に何やら渡している。店主が「まいどありっ」と言っているので、首飾りを買ってくれたようだった。
「い、いいの? 人間の買い物には『お金』がいるんでしょう?」
「よく知っているな」
「コインもよく海の底に落ちてくるから。ギィが教えてくれた。『お金』は人間にとっての『対価』なんだって」
「人魚は『対価』で買い物をするのか?」
「うん。欲しい物があるときは、何か自分の物を差し出すんだ。鱗でも、声でも、貝殻の胸当てでも」
「胸当て?」
「あとは、その人がして欲しい事をしてあげたりとか……色々」
でも、オレはオルクが『して欲しい』事も結局分からなかったし、スープ一つも満足に作れなかったらから、渡せる対価なんてひとつもない。
よっぽど情けない顔をしていたのか、オルクはポンとオレの頭を叩くと、強制的に上を向かせた。
「俺はお前にそんな顔をして欲しくて首飾りを買ったわけではないぞ。お前に笑って欲しくて買ったんだ。『対価』というなら、それが『対価』だな」
「オレが……笑うことが?」
「そうだ」
「そんな……」
だって、それじゃあ、オルクにとってオレの『笑顔』が『欲しい』ものみたいだ──。
そう考えただけで、胸も頬もポッポと熱くなる。
「で、でも、そんなんじゃぁっ。対価にならないっ」
恥ずかし紛れに言い返すと、オルクがそうだなぁと、演技めいた仕草で首を傾げてみせた。
「それじゃあ、お前が俺の犬になるか?」
「えぇっ」
「そしたら、充分な『対価』になるんじゃないか?」
「そ、そんなのっ」
なりたすぎるっ。本に書いてあった犬みたいに、わしゃわしゃ撫でてくれたり、散歩に連れて行ってくれるのだろうか。
「なるっ」
勢い込んで即答したオレに、オルクがまた吹き出した。
「いいのか、お前は一応、人魚の王子様なんだろう? ヒースに聞いたぞ。それが俺の犬になるのか?」
「うんっ。嬉しいっ。毎日散歩に連れてってくれるか?」
「アッハッハッ」
また大口を開けて笑うオルクに、オレも何だか嬉しくなってしまう。出会ってから怒られてばかりだったオルクが、こんなに笑い上戸だったなんて驚きだ。
「では、そろそろ帰るか、シレーヌ」
「名前……」
「ん? 俺の犬なら呼び捨てしてもいいだろう?」
「うんっ、勿論っ」
オレの名前をちゃんと覚えていてくれたことが嬉しくて、弾んだ声で返事した。
「あ、でも」
「なんだ?」
「じゃあ、オレはオルクの事、ご主人様って呼んだ方がいいか?」
確か本では、犬の主人公が飼い主に向かって『ご主人様』と呼んでいた。
「……それは、今は、止めておこう」
引きつった顔で、絞ったような声で言うとオルクは「教えることが沢山あるな」とぶつぶつ呟いた。
「まあ、いい。ほら」
そういって大きな手を差し出してくれたので、その手をぎゅっと握る。オルクの犬は、幸せな気分で散歩の帰路についたのだった。
犬というと、魔法使いの家の本で見た捨てられていたのを人間に拾われる、あの毛むくじゃらの生き物のことだろうか。
その首輪というと。首に付けてたアレのことか。それって……。
「嬉しいっ」
「──は?」
オルクがびっくりした顔でこちらを見る。
「犬って、あの可愛い生き物だよな。オレって犬みたいに見える? 嬉しいなぁ」
鏡を見てニコニコしてしまう。えへへ、確かに犬みたいだ。あんな可愛い生き物と一緒なんて、嬉しすぎる。
と、突然オルクが吹き出した。
「……オルク?」
「ダメだ……ククッ、ハハハッ」
声を出して大笑いし始めたオルクに、店主も「旦那、人が悪いですよ」と困っている。それでもオルクは笑いやまず、ヒーヒー言いながら、ずっと笑い転げていた。オレがポカンとしているに気付き、やっと笑うのを止めてくれた。
「いやぁ、すまんすまん」
「あの、オレ。また、おかしな事言った?」
「いや、違う。おかしかったのは俺だ。自分の馬鹿さ加減に笑っていたんだ」
「オルクは馬鹿じゃないと思うけど」
「いいや。お前という生き物が、悪い者かと疑うなど……。オレもまだまだだな、と思ったのだ」
オルクは目尻に堪った涙を拭うと、オレの首飾りをそっとなぞった。ゾクっとした感覚が走り思わずぶるりと震える。
「とても可愛いよ」
ドキリとするほど優しい笑みでそう囁かれて、首元がカーッと熱くなる。
「く、首飾りが、だよな?」
「ふふっ、勿論そうだ」
おかしそうに、また笑うと店主に何やら渡している。店主が「まいどありっ」と言っているので、首飾りを買ってくれたようだった。
「い、いいの? 人間の買い物には『お金』がいるんでしょう?」
「よく知っているな」
「コインもよく海の底に落ちてくるから。ギィが教えてくれた。『お金』は人間にとっての『対価』なんだって」
「人魚は『対価』で買い物をするのか?」
「うん。欲しい物があるときは、何か自分の物を差し出すんだ。鱗でも、声でも、貝殻の胸当てでも」
「胸当て?」
「あとは、その人がして欲しい事をしてあげたりとか……色々」
でも、オレはオルクが『して欲しい』事も結局分からなかったし、スープ一つも満足に作れなかったらから、渡せる対価なんてひとつもない。
よっぽど情けない顔をしていたのか、オルクはポンとオレの頭を叩くと、強制的に上を向かせた。
「俺はお前にそんな顔をして欲しくて首飾りを買ったわけではないぞ。お前に笑って欲しくて買ったんだ。『対価』というなら、それが『対価』だな」
「オレが……笑うことが?」
「そうだ」
「そんな……」
だって、それじゃあ、オルクにとってオレの『笑顔』が『欲しい』ものみたいだ──。
そう考えただけで、胸も頬もポッポと熱くなる。
「で、でも、そんなんじゃぁっ。対価にならないっ」
恥ずかし紛れに言い返すと、オルクがそうだなぁと、演技めいた仕草で首を傾げてみせた。
「それじゃあ、お前が俺の犬になるか?」
「えぇっ」
「そしたら、充分な『対価』になるんじゃないか?」
「そ、そんなのっ」
なりたすぎるっ。本に書いてあった犬みたいに、わしゃわしゃ撫でてくれたり、散歩に連れて行ってくれるのだろうか。
「なるっ」
勢い込んで即答したオレに、オルクがまた吹き出した。
「いいのか、お前は一応、人魚の王子様なんだろう? ヒースに聞いたぞ。それが俺の犬になるのか?」
「うんっ。嬉しいっ。毎日散歩に連れてってくれるか?」
「アッハッハッ」
また大口を開けて笑うオルクに、オレも何だか嬉しくなってしまう。出会ってから怒られてばかりだったオルクが、こんなに笑い上戸だったなんて驚きだ。
「では、そろそろ帰るか、シレーヌ」
「名前……」
「ん? 俺の犬なら呼び捨てしてもいいだろう?」
「うんっ、勿論っ」
オレの名前をちゃんと覚えていてくれたことが嬉しくて、弾んだ声で返事した。
「あ、でも」
「なんだ?」
「じゃあ、オレはオルクの事、ご主人様って呼んだ方がいいか?」
確か本では、犬の主人公が飼い主に向かって『ご主人様』と呼んでいた。
「……それは、今は、止めておこう」
引きつった顔で、絞ったような声で言うとオルクは「教えることが沢山あるな」とぶつぶつ呟いた。
「まあ、いい。ほら」
そういって大きな手を差し出してくれたので、その手をぎゅっと握る。オルクの犬は、幸せな気分で散歩の帰路についたのだった。
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