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人魚王子、パンケーキを食べる。
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その後ヒースは退席し、代わりにクロエとエマが双六を持ってきて相手をしてくれた。どうやらオルクが、オレが飽きないように指示をしてくれたらしい。
エマはクロエと一緒に初めからオレの世話をしてくれた、若く棒切れみたいに痩せている少女だ。赤髪のおさげを横にたらし、チャーミングなそばかすがある。だが、オドオドと落ち着かない様子だったので、オレの方から声をかけた。
「昨日はごめんな。オレ、エマの気持ちとかそういうの考えてなかったけど、これから気を付けるから仲良くしてな」
「え、あ、いえ、はい…」
なおもソワソワした素振りを見せるエマに、オレは気になっていることを聞いてみた。
「なあ、エマってヒースの妹?」
「えっ!? なんで分かったんですか!?」
「だって、そっくりじゃん」
「そ、そんなこと言われたの初めてです」
なんでも、容姿端麗なヒースに比べて妹は凡庸だと、散々言われ続けてきたらしい。
「家族の中で私だけ出来損ないの赤髪なんです。せめて、兄と反対なら良かったと両親にもずっと言われていて」
「えぇっ、なんで⁉︎ せっかく赤髪に生まれたのに⁉︎」
「なんでって……金髪の方がいいでしょう? 赤髪なんて、日に焼けたみたいな色で」
「嘘おっ⁉︎ 地上ってそういう価値観なんだ。人魚の国では、赤色の髪は凄いモテるよ。娘が赤色の髪に生まれて喜ばない親はいないね」
「え、本当──?」
「本当本当。だって珊瑚の色だよ。美しいに決まってるじゃないか。海の中で見る赤色は凄く綺麗なんだ。モテたかったら、エマは人魚になるといいよ。顔もチャーミングだし、絶対人気者になる」
「凄い……」
エマは惚けるように呟いた後、笑顔になって色々話してくれた。クロエも話に加わって、みんなでお喋りして過ごしたら、あっという間に夕食の時間になる。
呼ばれて食堂に下りると、そこには驚くべき物が食卓の上に並んでいた。
「パンケーキだっ」
そこには、目にも鮮やかな色とりどりのフルーツがたっぷり乗った、何段も山のように積み重なった黄金色のパンケーキが置いてあった。
「凄いっ。これって……」
「気に入ったか? グィーノに言って作って貰った。何やらパンケーキを食べたいと言っていただろう」
「うんっ。まさか本当に用意してくれるなんてっ。オルクありがとうっ」
「礼なら後でグィーノに言ってやれ。お前のことを心配していたぞ。さあ、冷めないうちに食べてみろ。スープほどは熱くないはずだ」
促されて、フォークを手に取る。どうやって食べるか迷っていると、横からクロエが食べやすい大きさに切ってくれた。
オレはそれをフォークでとって、たっぷりかかっている茶色いシロップと一緒に口に運ぶ。
「美味しいっ」
「それは良かった」
クッと目尻に皺を寄せて笑うオルクに、胸がキューンとなる。パンケーキの甘いシロップが胸の奥まで染み込んでいくような不思議な感覚に、なんだかもうお腹いっぱいになっしまったような気持ちになった。
「オ、オルクは食べないの⁉︎」
なんとなく落ち着かなくて聞いてみると、オルクが今度は眉根に皺を寄せ、首を振る。
うぅっ。なんでオルクの一挙一動でキューンとしちゃうんだろう。どんな仕草もめちゃくちゃ格好良く見えてしまう。
「甘い物は苦手なんだ」
「そ、そっか」
そう言うオルクに、思わずシュンとしてしまったのがバレバレだったのだろう。じゃなければ、オレの手首を直接掴んで、フォークをそのまま口に運ぶなんでしない筈だ。
「ふん、やはり甘い」
渋い顔のままワインで、パンケーキを流し込むオルクの顔の近さに、心臓が飛び出るかと思った。
「まあ、食べられるだけ、シレーヌが食べろ。余ったら後で侍従たちが食べるだろう」
「あ、じゃあさ。今、一緒に食べちゃだめ? オレ、みんなで美味しいって言いながらパンケーキ食べるのが夢だったんだ」
絵本の中ではそうだったから。オルクはちょっとだけ片眉を上げると、快活に笑って両手を二度大きく叩いた。
「俺の可愛い犬が、晩餐会をご所望だ。手が空いているものはテーブルにつけ。今日ばかりは犬も王も、子供も老人も、同じテーブルを囲む無礼講だ」
オルクの張りのある声が食堂に響き、周りの人達がワッと声を上げた。テーブルには更に沢山の食べ物やお酒が運び込まれ、エマ達がパンケーキをお皿にとって色んな人に渡している。受け取った人々は「美味しいです」とか「シレーヌ様、ありがとうございます」とか声をかけてきて、中には小さな子供もいて嬉しそうにパンケーキを頬張った。
賑やか雰囲気の中で、オルクの方をチラッと覗き見ると、びっくりするくらい優しい笑みと目があった。
「シレーヌ様、こんなに美味しいパンケーキ初めて食べました。ありがとうございます」
オルクに見惚れて呆けていたが、エマの声で我に返る。
「う、うん。本当に美味しいね」
返事をしながら、あの絵本と同じ台詞を言っていることに気づいた。本当に夢が叶ったんだ。オルクのおかげで。オルクが、オレの為に──。
また、胸がギューッと痛んだ。
昨日会ったばかりなのに、オルクがオレの夢を叶えてくれた。
優しいオルク。
オレを自分の犬にしてくれたオルク。
子供の頃、人魚姫を幸せにする事が夢だったオルク。
もし、オレが人魚姫なら──。オレの幸せは──。
……オルクの側にいる事だ。
エマはクロエと一緒に初めからオレの世話をしてくれた、若く棒切れみたいに痩せている少女だ。赤髪のおさげを横にたらし、チャーミングなそばかすがある。だが、オドオドと落ち着かない様子だったので、オレの方から声をかけた。
「昨日はごめんな。オレ、エマの気持ちとかそういうの考えてなかったけど、これから気を付けるから仲良くしてな」
「え、あ、いえ、はい…」
なおもソワソワした素振りを見せるエマに、オレは気になっていることを聞いてみた。
「なあ、エマってヒースの妹?」
「えっ!? なんで分かったんですか!?」
「だって、そっくりじゃん」
「そ、そんなこと言われたの初めてです」
なんでも、容姿端麗なヒースに比べて妹は凡庸だと、散々言われ続けてきたらしい。
「家族の中で私だけ出来損ないの赤髪なんです。せめて、兄と反対なら良かったと両親にもずっと言われていて」
「えぇっ、なんで⁉︎ せっかく赤髪に生まれたのに⁉︎」
「なんでって……金髪の方がいいでしょう? 赤髪なんて、日に焼けたみたいな色で」
「嘘おっ⁉︎ 地上ってそういう価値観なんだ。人魚の国では、赤色の髪は凄いモテるよ。娘が赤色の髪に生まれて喜ばない親はいないね」
「え、本当──?」
「本当本当。だって珊瑚の色だよ。美しいに決まってるじゃないか。海の中で見る赤色は凄く綺麗なんだ。モテたかったら、エマは人魚になるといいよ。顔もチャーミングだし、絶対人気者になる」
「凄い……」
エマは惚けるように呟いた後、笑顔になって色々話してくれた。クロエも話に加わって、みんなでお喋りして過ごしたら、あっという間に夕食の時間になる。
呼ばれて食堂に下りると、そこには驚くべき物が食卓の上に並んでいた。
「パンケーキだっ」
そこには、目にも鮮やかな色とりどりのフルーツがたっぷり乗った、何段も山のように積み重なった黄金色のパンケーキが置いてあった。
「凄いっ。これって……」
「気に入ったか? グィーノに言って作って貰った。何やらパンケーキを食べたいと言っていただろう」
「うんっ。まさか本当に用意してくれるなんてっ。オルクありがとうっ」
「礼なら後でグィーノに言ってやれ。お前のことを心配していたぞ。さあ、冷めないうちに食べてみろ。スープほどは熱くないはずだ」
促されて、フォークを手に取る。どうやって食べるか迷っていると、横からクロエが食べやすい大きさに切ってくれた。
オレはそれをフォークでとって、たっぷりかかっている茶色いシロップと一緒に口に運ぶ。
「美味しいっ」
「それは良かった」
クッと目尻に皺を寄せて笑うオルクに、胸がキューンとなる。パンケーキの甘いシロップが胸の奥まで染み込んでいくような不思議な感覚に、なんだかもうお腹いっぱいになっしまったような気持ちになった。
「オ、オルクは食べないの⁉︎」
なんとなく落ち着かなくて聞いてみると、オルクが今度は眉根に皺を寄せ、首を振る。
うぅっ。なんでオルクの一挙一動でキューンとしちゃうんだろう。どんな仕草もめちゃくちゃ格好良く見えてしまう。
「甘い物は苦手なんだ」
「そ、そっか」
そう言うオルクに、思わずシュンとしてしまったのがバレバレだったのだろう。じゃなければ、オレの手首を直接掴んで、フォークをそのまま口に運ぶなんでしない筈だ。
「ふん、やはり甘い」
渋い顔のままワインで、パンケーキを流し込むオルクの顔の近さに、心臓が飛び出るかと思った。
「まあ、食べられるだけ、シレーヌが食べろ。余ったら後で侍従たちが食べるだろう」
「あ、じゃあさ。今、一緒に食べちゃだめ? オレ、みんなで美味しいって言いながらパンケーキ食べるのが夢だったんだ」
絵本の中ではそうだったから。オルクはちょっとだけ片眉を上げると、快活に笑って両手を二度大きく叩いた。
「俺の可愛い犬が、晩餐会をご所望だ。手が空いているものはテーブルにつけ。今日ばかりは犬も王も、子供も老人も、同じテーブルを囲む無礼講だ」
オルクの張りのある声が食堂に響き、周りの人達がワッと声を上げた。テーブルには更に沢山の食べ物やお酒が運び込まれ、エマ達がパンケーキをお皿にとって色んな人に渡している。受け取った人々は「美味しいです」とか「シレーヌ様、ありがとうございます」とか声をかけてきて、中には小さな子供もいて嬉しそうにパンケーキを頬張った。
賑やか雰囲気の中で、オルクの方をチラッと覗き見ると、びっくりするくらい優しい笑みと目があった。
「シレーヌ様、こんなに美味しいパンケーキ初めて食べました。ありがとうございます」
オルクに見惚れて呆けていたが、エマの声で我に返る。
「う、うん。本当に美味しいね」
返事をしながら、あの絵本と同じ台詞を言っていることに気づいた。本当に夢が叶ったんだ。オルクのおかげで。オルクが、オレの為に──。
また、胸がギューッと痛んだ。
昨日会ったばかりなのに、オルクがオレの夢を叶えてくれた。
優しいオルク。
オレを自分の犬にしてくれたオルク。
子供の頃、人魚姫を幸せにする事が夢だったオルク。
もし、オレが人魚姫なら──。オレの幸せは──。
……オルクの側にいる事だ。
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