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人魚王子、怒られる。
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友好条約について記した羊紙皮は後で従者に持たせると言うと、アルバカス帝国の使者は逃げるように城を退出していった。
食料などの補給に今夜一晩は船着き場に留まることを許したが、夜明けとともにアルバカスに帰る筈だ。
オレはほっと息を吐いた。
自分で思っていたより緊張していたみたいだ。もう一度、覚えたばかりの肺での深呼吸をして、王座の方を振り返った。
別にオルクの為にやったんじゃないよ。人魚の敵ってだけだから、気にしないで。
そう言うつもりだったのに、オルクがあまりにも予想と違う顔をしていたので思わず動きを止めた。
え、めちゃくちゃ睨まれてる?
いや、感謝して貰いたくてやったわけじゃないけど。でも、あわよくば頭を撫でて貰ったりしたら幸せだな、くらいは正直思っていた。
何故睨まれているのか分からず混乱していると、オルクがすっくと立ち上がり、ずんずんとこちらに近づいてきた。
「な、なに?」
あまりの迫力に、思わず逃げ腰になったオレの手首を痛いほどの力で掴まれる。
「いいから。こっちに来い」
明らかに怒っている。こちらを見ようともせずに、引きずるようにして無理やりオレを謁見室から連れ出そうとするオルクに周りの人達が静止の声をかけた。
「陛下、お待ち下さいっ。どちらに?」
「俺の部屋だ。誰も付いてくるなっ」
ビリビリと空気が震えるような威圧感に、誰も逆らえずに遠巻きに見ることしか出来ない。振り返ると、玉座の側でヒースが心配そうにこちらを見ていた。大丈夫、と言いたかったが、そんな間もなく部屋から引きずりだされる。
「ね、ねぇ、オルク。自分で歩くから、離して……ねぇってば」
「……」
無言のまま、長い廊下を突き進むオルクの背中が怖くて、声をかけるが一向に返事がない。
本当に、腕が痛くて涙がでそうになったなったところで、やっとオルクの部屋に着いた。中に入り手を離され安心した途端、すぐにドンッと壁に体を押し付けられる。
「なぜ、あんな事をしたんだ?」
「え、あんな事って……」
「分かっているのか⁉ 自らアルバカスの馬鹿どもに自分が人魚だと名乗り出たのだぞっ。それが、どういうことなのか分かっているのか⁉」
「どう、いう、ことだろう……」
本当に分からなくて首を傾げるオレに、ますます肩を怒らせた。
「不老長寿の為に、人魚を殺戮した民族だぞ。どうしてまた自分も同じことされないと思わないのか」
「でも、まやかしくらいの魔法しか使えない人間に、オレは殺されないよ」
「海ならそうかもしれない。でも、ここは陸だシレーヌ。大体、お前の先祖はなぜその人間に攫われたのだ」
「……親しくなって、陸のパーティーに誘われたところを、不意を付かれたって聞いた」
もごもごと答えると、オルクは出来損ないの生徒を見るような目で、ほら見ろとばかりに顎をしゃくった。
「人間は、お前思っている以上に獰猛で狡猾で欲深い。ましてや、あの使者は相当な野心家のようだ。お前の事が本物の人魚だと分かって、そのままアルバカスにのこのこと帰るとはとても思えん。下手をすれば、攫われて永遠に監禁されるぞ」
「カンキン? 殺されるんじゃなくて? カンキンって何?」
「……お前のような純粋な生き物には想像もつかないほど、人間の欲望は醜く歪んでいるということだ」
オルクが呻くように呟く。でも正直言って、オルクがそこまで心配してくれているのが嬉しかった。だって、自分の国が大変なときにオレの心配してくれるなんて。駄目だと思っても思わず口元が緩んでしまう。オルクは呆れたように溜息をついた。
「お前は本当に分かったのか? 死ぬより辛い目にあうかもしれないと言っているんだぞ」
「あ、いやだって……」
どうせ、明日泡になって消えちゃうし……とは言いづらい。
父上にナイフを渡されたときから、悩む余地はなかった。オレはオルクを絶対刺せない。
だから、自分が泡になって消えるしか無い。
泡になっちゃうのはちょっと怖いけど、多分痛いことはないと思うし。
オルクを殺すより全然いい。
だから、正直オルクの心配は杞憂なんだけど。本当のことを言ったら優しいオルクはきっと傷ついちゃうだろうなぁ。なんと言えばいいか分からず、曖昧に笑うしかないオレを見て、オルクはもう一度大きな溜息をついた。きっと何も分かっていない馬鹿な犬だと思われたんだ。嫌われてしまっただろうか。心配になって、オルクの腕の裾をキュッとつまんだ。
「ごめん……嫌いにならないで」
食料などの補給に今夜一晩は船着き場に留まることを許したが、夜明けとともにアルバカスに帰る筈だ。
オレはほっと息を吐いた。
自分で思っていたより緊張していたみたいだ。もう一度、覚えたばかりの肺での深呼吸をして、王座の方を振り返った。
別にオルクの為にやったんじゃないよ。人魚の敵ってだけだから、気にしないで。
そう言うつもりだったのに、オルクがあまりにも予想と違う顔をしていたので思わず動きを止めた。
え、めちゃくちゃ睨まれてる?
いや、感謝して貰いたくてやったわけじゃないけど。でも、あわよくば頭を撫でて貰ったりしたら幸せだな、くらいは正直思っていた。
何故睨まれているのか分からず混乱していると、オルクがすっくと立ち上がり、ずんずんとこちらに近づいてきた。
「な、なに?」
あまりの迫力に、思わず逃げ腰になったオレの手首を痛いほどの力で掴まれる。
「いいから。こっちに来い」
明らかに怒っている。こちらを見ようともせずに、引きずるようにして無理やりオレを謁見室から連れ出そうとするオルクに周りの人達が静止の声をかけた。
「陛下、お待ち下さいっ。どちらに?」
「俺の部屋だ。誰も付いてくるなっ」
ビリビリと空気が震えるような威圧感に、誰も逆らえずに遠巻きに見ることしか出来ない。振り返ると、玉座の側でヒースが心配そうにこちらを見ていた。大丈夫、と言いたかったが、そんな間もなく部屋から引きずりだされる。
「ね、ねぇ、オルク。自分で歩くから、離して……ねぇってば」
「……」
無言のまま、長い廊下を突き進むオルクの背中が怖くて、声をかけるが一向に返事がない。
本当に、腕が痛くて涙がでそうになったなったところで、やっとオルクの部屋に着いた。中に入り手を離され安心した途端、すぐにドンッと壁に体を押し付けられる。
「なぜ、あんな事をしたんだ?」
「え、あんな事って……」
「分かっているのか⁉ 自らアルバカスの馬鹿どもに自分が人魚だと名乗り出たのだぞっ。それが、どういうことなのか分かっているのか⁉」
「どう、いう、ことだろう……」
本当に分からなくて首を傾げるオレに、ますます肩を怒らせた。
「不老長寿の為に、人魚を殺戮した民族だぞ。どうしてまた自分も同じことされないと思わないのか」
「でも、まやかしくらいの魔法しか使えない人間に、オレは殺されないよ」
「海ならそうかもしれない。でも、ここは陸だシレーヌ。大体、お前の先祖はなぜその人間に攫われたのだ」
「……親しくなって、陸のパーティーに誘われたところを、不意を付かれたって聞いた」
もごもごと答えると、オルクは出来損ないの生徒を見るような目で、ほら見ろとばかりに顎をしゃくった。
「人間は、お前思っている以上に獰猛で狡猾で欲深い。ましてや、あの使者は相当な野心家のようだ。お前の事が本物の人魚だと分かって、そのままアルバカスにのこのこと帰るとはとても思えん。下手をすれば、攫われて永遠に監禁されるぞ」
「カンキン? 殺されるんじゃなくて? カンキンって何?」
「……お前のような純粋な生き物には想像もつかないほど、人間の欲望は醜く歪んでいるということだ」
オルクが呻くように呟く。でも正直言って、オルクがそこまで心配してくれているのが嬉しかった。だって、自分の国が大変なときにオレの心配してくれるなんて。駄目だと思っても思わず口元が緩んでしまう。オルクは呆れたように溜息をついた。
「お前は本当に分かったのか? 死ぬより辛い目にあうかもしれないと言っているんだぞ」
「あ、いやだって……」
どうせ、明日泡になって消えちゃうし……とは言いづらい。
父上にナイフを渡されたときから、悩む余地はなかった。オレはオルクを絶対刺せない。
だから、自分が泡になって消えるしか無い。
泡になっちゃうのはちょっと怖いけど、多分痛いことはないと思うし。
オルクを殺すより全然いい。
だから、正直オルクの心配は杞憂なんだけど。本当のことを言ったら優しいオルクはきっと傷ついちゃうだろうなぁ。なんと言えばいいか分からず、曖昧に笑うしかないオレを見て、オルクはもう一度大きな溜息をついた。きっと何も分かっていない馬鹿な犬だと思われたんだ。嫌われてしまっただろうか。心配になって、オルクの腕の裾をキュッとつまんだ。
「ごめん……嫌いにならないで」
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