したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

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番外編

嘘つきな魔法使いは、真実を愛したい(3)

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 トリトンちゃんが訝しげにこちらを見た。

「お前の魔法か?」

 トリトンちゃんの鋭い視線に思わず息を飲んだ。返答次第では今後の好感度に関わる気がする。トリトンちゃんの地雷を探りながら慎重に答えた。

「あー、一応。と言っても魔法ってほどでもないかな。僕の場合、少し予知っぽいことが出来る感じで。占いみたいなものなんですけど」
「占い?」
「なんていうかな、風景が絵みたいに頭の中に浮かぶんです。僕はそれをそのままキャンパスに写すだけ。そうすると、それと同じことが実際に起きる」
「それは、逆に起こしたい未来を絵に描いて起こすことが出来るのではないか?」

 さすがトリトンちゃん。理解が早い。

「実は、出来なくはないんだけど。実際に起こりそうじゃないと出来ないかな。こうなるといいなぁ、くらいな感じで。例えば今すぐトリトンちゃんと僕が口付けする、とかは出来ないんだけど。もう少し親しくなって僕がトリトンちゃんと具体的に口付けする風景を思い浮かべて描いたら、口付け出来るかも知れないくらい。な感じです」

 トリトンちゃんが眉を上げた。

「それは……よくわからないが、そうなれば別に絵に描かなくても出来るんじゃないか?」
「そうなんですよね。だから、あんまり役に立たないんです。予知も滅多に出来ないし。最弱の魔法ですよ」
「──人魚の肉を食べたわけではないのか?」

 その問いで、何故厳しい視線を送られたのか理解した。
 確か西の大国で人魚を騙し捕らえて蹂躙し、人魚の逆鱗に触れたという噂があった。  
 中には人魚の肉を食べた者もいると聞いたことはあったが、トリトンちゃんの様子をみると噂は本当なのかもしれない。

「まさか。食べたなら、もっと強い魔法使いになれると思いますよ」
 トリトンちゃんの目尻がきつくなるのを見て、自分の失言に気付いた。取り繕うように話を続ける。

「僕は先祖帰りみたいです。曽祖父が人魚の方との合いの子らしいですよ。それでリューン王国と人魚の方は昔はよく親交があったと聞きましたが違うんですか」
「知らんな。先代から陸の話はあまり聞いたことはない。聞く前に人間に殺されたからな」

 驚いて今度は僕が目を見張ったが、トリトンちゃんは特にそのことについて特別な感情を抱いているようには見えなかった。

「なんだ。私が悲しんでいないのが不満か。人魚は感情が薄いのだ。だが、同胞を殺されたという事実には憤っている。父を食べたものは私が殺した。私が恐ろしいか陸の王子?」

 皮肉気に笑うトリトンちゃんに見惚れて思わず息を飲んだ。彼が笑ったのを見たのはこれが初めてだった。

「いいえ。美しいです」

 思ったことをそのまま口に出す。
 トリトンちゃんの拍子抜けした顔が可愛らしい。多分本人が思っているより顔に出るタイプのようだ。

「……人間はみなそうなのか? お前が変なのか?」
「よく変わっているとは言われますよ。だからこそ王子としてはなんの期待もされていませんが」
「なるほど。理解した。ならばお前は特別ということか」

 トリトンちゃんから特別と呼ばれるとは。嬉しくて舞い上がってしまう。

「なぜ喜ぶ?」
「貴方に特別と呼ばれたからですよ」
「……お前と話していると頭が混乱してくる。変な奴だ。だがこの絵は美しいな」

 そっとトリトンちゃんが白く長い指先でキャンパスに触れた。僕はまるで自分が撫でられるような錯覚を覚え、ゾクリと震える。

「私はいままで海を外からは見たことがなかったが、美しいものなのだな。陽の光で、波が金色に光っている」
「……それは、トリトンちゃんを描いたんですよ」
「なに?」
「その光景は今朝トリトンちゃんと会ったときの海そのものですよ。その絵が美しいなら、貴方が美しいんです」

 トリトンちゃんにゆっくりと近づき、その金色に煌めく長い髪を一房手に取る。抵抗はされず、僕はそのままそっと金の絹糸のような髪に口づけた。

「ずっと貴方に会いたかった」
「……私が来るのを予知していたというのか?」
「具体的には分からなかった。でも、僕の運命を揺るがすような。そんなものがあの海にあるって確信はしていました。そして、それは合っていた」
「でも、この絵に私は描かれていないように見えるが」
「その海に浮かぶお日様が貴方そのものですよ。実際僕にはそう見えた。海の中の太陽。それが貴方だ」

 煌めく黄金の瞳が僕を見る。僕は思わず衝動的に唇を合わせた。
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