38 / 44
番外編
嘘つきな魔法使いは、真実を愛したい(3)
しおりを挟む
トリトンちゃんが訝しげにこちらを見た。
「お前の魔法か?」
トリトンちゃんの鋭い視線に思わず息を飲んだ。返答次第では今後の好感度に関わる気がする。トリトンちゃんの地雷を探りながら慎重に答えた。
「あー、一応。と言っても魔法ってほどでもないかな。僕の場合、少し予知っぽいことが出来る感じで。占いみたいなものなんですけど」
「占い?」
「なんていうかな、風景が絵みたいに頭の中に浮かぶんです。僕はそれをそのままキャンパスに写すだけ。そうすると、それと同じことが実際に起きる」
「それは、逆に起こしたい未来を絵に描いて起こすことが出来るのではないか?」
さすがトリトンちゃん。理解が早い。
「実は、出来なくはないんだけど。実際に起こりそうじゃないと出来ないかな。こうなるといいなぁ、くらいな感じで。例えば今すぐトリトンちゃんと僕が口付けする、とかは出来ないんだけど。もう少し親しくなって僕がトリトンちゃんと具体的に口付けする風景を思い浮かべて描いたら、口付け出来るかも知れないくらい。な感じです」
トリトンちゃんが眉を上げた。
「それは……よくわからないが、そうなれば別に絵に描かなくても出来るんじゃないか?」
「そうなんですよね。だから、あんまり役に立たないんです。予知も滅多に出来ないし。最弱の魔法ですよ」
「──人魚の肉を食べたわけではないのか?」
その問いで、何故厳しい視線を送られたのか理解した。
確か西の大国で人魚を騙し捕らえて蹂躙し、人魚の逆鱗に触れたという噂があった。
中には人魚の肉を食べた者もいると聞いたことはあったが、トリトンちゃんの様子をみると噂は本当なのかもしれない。
「まさか。食べたなら、もっと強い魔法使いになれると思いますよ」
トリトンちゃんの目尻がきつくなるのを見て、自分の失言に気付いた。取り繕うように話を続ける。
「僕は先祖帰りみたいです。曽祖父が人魚の方との合いの子らしいですよ。それでリューン王国と人魚の方は昔はよく親交があったと聞きましたが違うんですか」
「知らんな。先代から陸の話はあまり聞いたことはない。聞く前に人間に殺されたからな」
驚いて今度は僕が目を見張ったが、トリトンちゃんは特にそのことについて特別な感情を抱いているようには見えなかった。
「なんだ。私が悲しんでいないのが不満か。人魚は感情が薄いのだ。だが、同胞を殺されたという事実には憤っている。父を食べたものは私が殺した。私が恐ろしいか陸の王子?」
皮肉気に笑うトリトンちゃんに見惚れて思わず息を飲んだ。彼が笑ったのを見たのはこれが初めてだった。
「いいえ。美しいです」
思ったことをそのまま口に出す。
トリトンちゃんの拍子抜けした顔が可愛らしい。多分本人が思っているより顔に出るタイプのようだ。
「……人間はみなそうなのか? お前が変なのか?」
「よく変わっているとは言われますよ。だからこそ王子としてはなんの期待もされていませんが」
「なるほど。理解した。ならばお前は特別ということか」
トリトンちゃんから特別と呼ばれるとは。嬉しくて舞い上がってしまう。
「なぜ喜ぶ?」
「貴方に特別と呼ばれたからですよ」
「……お前と話していると頭が混乱してくる。変な奴だ。だがこの絵は美しいな」
そっとトリトンちゃんが白く長い指先でキャンパスに触れた。僕はまるで自分が撫でられるような錯覚を覚え、ゾクリと震える。
「私はいままで海を外からは見たことがなかったが、美しいものなのだな。陽の光で、波が金色に光っている」
「……それは、トリトンちゃんを描いたんですよ」
「なに?」
「その光景は今朝トリトンちゃんと会ったときの海そのものですよ。その絵が美しいなら、貴方が美しいんです」
トリトンちゃんにゆっくりと近づき、その金色に煌めく長い髪を一房手に取る。抵抗はされず、僕はそのままそっと金の絹糸のような髪に口づけた。
「ずっと貴方に会いたかった」
「……私が来るのを予知していたというのか?」
「具体的には分からなかった。でも、僕の運命を揺るがすような。そんなものがあの海にあるって確信はしていました。そして、それは合っていた」
「でも、この絵に私は描かれていないように見えるが」
「その海に浮かぶお日様が貴方そのものですよ。実際僕にはそう見えた。海の中の太陽。それが貴方だ」
煌めく黄金の瞳が僕を見る。僕は思わず衝動的に唇を合わせた。
「お前の魔法か?」
トリトンちゃんの鋭い視線に思わず息を飲んだ。返答次第では今後の好感度に関わる気がする。トリトンちゃんの地雷を探りながら慎重に答えた。
「あー、一応。と言っても魔法ってほどでもないかな。僕の場合、少し予知っぽいことが出来る感じで。占いみたいなものなんですけど」
「占い?」
「なんていうかな、風景が絵みたいに頭の中に浮かぶんです。僕はそれをそのままキャンパスに写すだけ。そうすると、それと同じことが実際に起きる」
「それは、逆に起こしたい未来を絵に描いて起こすことが出来るのではないか?」
さすがトリトンちゃん。理解が早い。
「実は、出来なくはないんだけど。実際に起こりそうじゃないと出来ないかな。こうなるといいなぁ、くらいな感じで。例えば今すぐトリトンちゃんと僕が口付けする、とかは出来ないんだけど。もう少し親しくなって僕がトリトンちゃんと具体的に口付けする風景を思い浮かべて描いたら、口付け出来るかも知れないくらい。な感じです」
トリトンちゃんが眉を上げた。
「それは……よくわからないが、そうなれば別に絵に描かなくても出来るんじゃないか?」
「そうなんですよね。だから、あんまり役に立たないんです。予知も滅多に出来ないし。最弱の魔法ですよ」
「──人魚の肉を食べたわけではないのか?」
その問いで、何故厳しい視線を送られたのか理解した。
確か西の大国で人魚を騙し捕らえて蹂躙し、人魚の逆鱗に触れたという噂があった。
中には人魚の肉を食べた者もいると聞いたことはあったが、トリトンちゃんの様子をみると噂は本当なのかもしれない。
「まさか。食べたなら、もっと強い魔法使いになれると思いますよ」
トリトンちゃんの目尻がきつくなるのを見て、自分の失言に気付いた。取り繕うように話を続ける。
「僕は先祖帰りみたいです。曽祖父が人魚の方との合いの子らしいですよ。それでリューン王国と人魚の方は昔はよく親交があったと聞きましたが違うんですか」
「知らんな。先代から陸の話はあまり聞いたことはない。聞く前に人間に殺されたからな」
驚いて今度は僕が目を見張ったが、トリトンちゃんは特にそのことについて特別な感情を抱いているようには見えなかった。
「なんだ。私が悲しんでいないのが不満か。人魚は感情が薄いのだ。だが、同胞を殺されたという事実には憤っている。父を食べたものは私が殺した。私が恐ろしいか陸の王子?」
皮肉気に笑うトリトンちゃんに見惚れて思わず息を飲んだ。彼が笑ったのを見たのはこれが初めてだった。
「いいえ。美しいです」
思ったことをそのまま口に出す。
トリトンちゃんの拍子抜けした顔が可愛らしい。多分本人が思っているより顔に出るタイプのようだ。
「……人間はみなそうなのか? お前が変なのか?」
「よく変わっているとは言われますよ。だからこそ王子としてはなんの期待もされていませんが」
「なるほど。理解した。ならばお前は特別ということか」
トリトンちゃんから特別と呼ばれるとは。嬉しくて舞い上がってしまう。
「なぜ喜ぶ?」
「貴方に特別と呼ばれたからですよ」
「……お前と話していると頭が混乱してくる。変な奴だ。だがこの絵は美しいな」
そっとトリトンちゃんが白く長い指先でキャンパスに触れた。僕はまるで自分が撫でられるような錯覚を覚え、ゾクリと震える。
「私はいままで海を外からは見たことがなかったが、美しいものなのだな。陽の光で、波が金色に光っている」
「……それは、トリトンちゃんを描いたんですよ」
「なに?」
「その光景は今朝トリトンちゃんと会ったときの海そのものですよ。その絵が美しいなら、貴方が美しいんです」
トリトンちゃんにゆっくりと近づき、その金色に煌めく長い髪を一房手に取る。抵抗はされず、僕はそのままそっと金の絹糸のような髪に口づけた。
「ずっと貴方に会いたかった」
「……私が来るのを予知していたというのか?」
「具体的には分からなかった。でも、僕の運命を揺るがすような。そんなものがあの海にあるって確信はしていました。そして、それは合っていた」
「でも、この絵に私は描かれていないように見えるが」
「その海に浮かぶお日様が貴方そのものですよ。実際僕にはそう見えた。海の中の太陽。それが貴方だ」
煌めく黄金の瞳が僕を見る。僕は思わず衝動的に唇を合わせた。
11
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる
水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」
人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。
ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。
「俺が、貴方の剣となり盾となる」
国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。
シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる