女海賊もつらいよ 〜ホレた方が負け!〜

高瀬コウ

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航海士を見つけた

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「父さん…姿が見えないと思ったら」
「ルイシーナ!そんな顔してると幸せが逃げるぞ」
 ルイシーナは父親との待ち合わせ場所で、約束の時間になっても現れない父親を苛立ちながら待っていた。

 その当の父親は、魔力で実体化した状態で遅れてきたにも関わらず陽気に手を振りながら──実体化していても足元は、ほんの少し浮いていて影もないが──遠目では透き通るほどに白く見える薄い銀色の、髪を短髪に切りそろえた体格のいい、清潔感のある青年を連れてやってきた。

「誰のせいで幸せから程遠くなってると?この人は誰よ」
「良くぞ聞いてくれた!彼はウチの船員希望のコリン・プレスコット君!あだ名はコットン君だ」
 ルイシーナが顔を引き攣らせながら質問すればレオカディオは機嫌よく、その青年の紹介をする。
「プレスコットだから…コットン…?まあいいや、それは後で話すとして。船員は私が集めるって言ってたのに」
 レオカディオの微妙なあだ名のセンスは置いておくとして、ルイシーナは首を傾げる。
 現在レインダックス号は新しい任務を引き受け、次の航海の準備の真っ只中。
 馴染みの船員で都合のつかない者が数名いたため、その抜けを補うために船員募集を船長であるルイシーナが担当していたのだが…。
 また勝手なことを、とルイシーナがため息をつくと。

 レオカディオはイタズラが成功した子供のような顔をして笑って言った。
「だって航海士、必要じゃねぇの?」

 ルイシーナは思いがけないことを言われ、目を開く。
「彼が…航海士?」

 船を出すために必要なのは主に、船長と船員。
 その他には船大工だったり料理人、医者とその船ごとに必要とする人物は様々あるが、どの船でも欠かせないのが船員のひとり“航海士“である。
 船の舵取りをし、船長と対等な位置づけで船長の片腕。船の中で2番目に偉い立場であり責任のある仕事。

 レオカディオの生前であればレオカディオが船長、一人前と認められてからはルイシーナが航海士をしていた。そして現在ではルイシーナが船長、レオカディオが航海士となっていたのだが…。
 問題はレオカディオが死んでいることだった。
 今のように実体化していればモノにも触れるし人にも認識されるのだが、魔力を抜いて精神体に戻ると肉親であるルイシーナにしか認識出来なくなるのだ。幽霊のように。
 レオカディオが実体化するためには、魔力を指輪に流す必要がある。実体化している間は魔力をレオカディオの指輪に常に流し続けなければならないのだ。そのため、供給元の魔法使いであるルイシーナが戦闘で一定以上魔力を多く使用したり、意識を失うことがあると、指輪に魔力が供給されずレオカディオは精神体に戻ってしまう。
 戦闘ではルイシーナの魔法は大事な戦力であるし、レオカディオの伝説的な卓越した剣の腕があると無いでは大きく戦局を左右する。また航海士であるレオカディオの姿が、戦闘中視界から突然消えてしまうのは船員のやる気モチベーションにも関わってくる。…それが1番の困り事ではあった。
 現状は解決策が見つからず、もしもそうなってしまったときには、状況によって臨機応変に対応しようという話になっていた。

「俺は、先月まで海軍で船に乗っていた。が、今は軍属を外され…クビになった。その上、家財全て差し押さえで一文無しだ。次の仕事を探して…酒場通りを歩いていたら、随分前に死んだはずのレオカディオ・コフィー二によく似た男を見かけて…思わず声をかけたんだ」
 青年──コリンは、驚くルイシーナの翡翠色の目を見つめながら、淡々と述べた。

「コットン君!何度も言うようだけど、キャプテン・レオカディオ・コフィー二、だ」
「分かった、うるさい。──いいよ続けて」
 どうしても自分の名前にキャプテンを付けたい前レインダックス号の船長レオカディオが口を出すが、現船長ルイシーナに景気よくどつかれて、たしなめられた。
「あ、ああ…。そしてキャプテン・コフィー二から話を聞いた。この世に甦ったということを。驚いた。それを聞いて思い出したんだ。ここらの船乗りなら知ってる、あんたらの船の噂を──あの世から甦った亡霊、大海賊キャプテン・レオカディオ・コフィー二とその娘で魔女ルイシーナのレインダックス号は、金さえ払えばどんな仕事でもこなす。報酬も多い危険な任務ばかりだが、船員は旅路の衣食住を保証され、その保証はどんな軍隊にも劣らない、という眉唾物の噂だ。──それは本当だったんだな」
 コリンは父娘のやり取りに顔を引き攣らせながら、つい先程レオカディオから聞いた話と、ここ最近よく耳にする噂が一致し、真実であったことを改めて確信した。
 蘇ったのは嘘ではなかった。そうなると恐らく、船員についての噂も…真実。

「いやだ、いつの間に私の名前まで知られてるの?」
 ルイシーナは噂の真偽はともかく、その噂に自分の名前が含まれていることに憤慨する。しかも海賊ではなく魔女として、というところが現船長としては複雑な気持ちだ。
 そんなルイシーナとは真逆に、意地の悪い笑みを浮かべるレオカディオ。
「これじゃ嫁の貰い手ないな」
「うるさい、元凶。フアナにチクるよ」
「あっそれだけはご勘弁を!ミス・ルイシーナ!」

「…俺は!もう、見掛け倒しの軍の船には乗りたくない。くそくらえだ。だが、海は好きなんだ。──あんたらの…噂に聞くレインダックス号に乗せてくれないか。軍では小さい輸送船の航海士をやっていたこともある。…なんだったら!給金はいらない。人を求めているなら弾薬運びだってなんだってやる、役目はきちんと果たす!乗せてくれ」
 コリンはあれよあれよとレオカディオに乗せられてこの場に来たと言っても過言ではなかったが…、この千載一遇の機会を逃してはならないと藁にもすがる思いで、目の前にいるレインダックス号の船長ルイシーナに願い求めた。
 酒場でレオカディオから話を聞き、彼らの世界がただの船乗りとは、全く別物の想像つかない世界である予想はできた。しかし、それは軍にいては経験出来ないことだろう。もう二度と船には乗れないと諦めていた…、コリンの本能がこの機会を逃してはいけないと言っていた。
 失うものは何も無い。この直感を信じたかった。

 ルイシーナはため息をついた。
 レオカディオが連れてきたということは、この大海賊レオカディオのお眼鏡に叶った人物。また、彼が船員となってくれればレオカディオがもし実体化が出来なくなったとしても、航海士がいない!だなんてことにはならないで済む。利点しかなかった。
 あんな亡霊レオカディオも伊達に大海賊と言われていない。

「ええと、コットン…コリンだっけ。この人レオカディオが言ったかもしれないけど、今ね、ウチは仕事を引き受けて船員を集めてた。結構集まってて、集めるとしてもあと1人ってとこ。で、その1人が航海士──決まりね。コリン」

「──よろしく頼む。キャプテン」

 コリンはこの瞬間、微笑んだルイシーナの顔は永遠に忘れないだろうと、感じた。
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