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13. 紹介するんです
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彼は慌てて走ってきたのか、髪は乱れ息も荒くなっています。
「……っルルがっ、水……かけられたっ、と、きいて――」
誰からとか、何処から走ってとか、いろいろ不思議に思って尋ねよう――と口を開く間もなく殿下の手に両頬を包まれました。
殿下は背が高いですし今私は椅子に座っているので、自然少し顔を上向けられる形になります。
「どこか、怪我は……っ?」
「い、いえどこも? 水だけだったので」
そう告げると、殿下はよほど心配していたのかとても緩んだ顔をした後、良かった…、と呟きました。
今はなんだか嬉しそうに、私の頬をすりすりと弄んでいます。
なんだか猫にでもなったかのようで、よくわからない気持ちになってきました。
「あの……他の方もいらっしゃるので、そういったことはご遠慮したいのですが」
「ん? ああ、すまないね。どうも……想う君から離れがたくて……」
熱っぽい瞳でそう言われ、思わず頬に赤みがさします。
ああ、これが物語の男性から主人公に言われた場面なら私は部屋でごろんごろんしてしまうところですよ!
と、あり得ない事が起こり過ぎて思考が明後日を向いている間に、少しぎらつく目をした殿下のお顔が近づいて――
バシン
「はーい、どさくさに紛れて襲わないの~」
可愛い後輩ちゃんが固まってるし? と言いながら先生が丸めた書類で殿下の頭を叩きました。
ふと見ると、ローゼリア様の表情が固くなっています。
私は先程の違和感の正体に合点がいくと、それを踏まえての今後の行動を頭の中で組み立てました。
その脇で殿下が叩かれた頭に手をやりながら、いや据え膳がだの、上目遣いがどうのだの、首筋の後毛がだのよくわからないことを言っては先生に手にしたままの書類で叩かれています。
殿下のエロ魔獣っぷりが酷い……。
取り敢えず椅子から立ち殿下から少し距離を取ります。
私もそうやすやすとパクッと食べられるわけにはいかないので!
というか、本当に、ここまで気持ちをもらう理由に全く思い当たらないので、いまいちピンと来ていないのが現状です。
殿下が婿とか非現実的ですし、ね……とっとと心移りしてもらえないでしょうか……。
そんな失礼なことを考えながら、私は殿下に声をかけます。
「無事だったのは彼女のおかげでもあるんですよ、気づいてここまで連れてきてくれて。ハンカチも貸していただいて……先程私たちお友達になったんです」
その言葉にまだ叩かれていた殿下はこちらを見やり、やっと先生は彼を叩かずに済むようになりました。
「そうか。私からもお礼を言うよ、ルルを世話してくれてありがとう。名はなんと?」
気持ちを切り替えたのか、エロを差し引いた皇族らしい雰囲気を纏い彼がローゼリア様に話しかけます。
「ローゼリア=アインバッハと申します皇子殿下。大したことはしておりませんので」
そう言って目を伏せ、少し頬を染めたローゼリア様のなんと可憐な事。
私は、この勝負いける! と思いながら出会いのお膳立てとしては上々だろうと思い、心の中で微笑みました。
「……っルルがっ、水……かけられたっ、と、きいて――」
誰からとか、何処から走ってとか、いろいろ不思議に思って尋ねよう――と口を開く間もなく殿下の手に両頬を包まれました。
殿下は背が高いですし今私は椅子に座っているので、自然少し顔を上向けられる形になります。
「どこか、怪我は……っ?」
「い、いえどこも? 水だけだったので」
そう告げると、殿下はよほど心配していたのかとても緩んだ顔をした後、良かった…、と呟きました。
今はなんだか嬉しそうに、私の頬をすりすりと弄んでいます。
なんだか猫にでもなったかのようで、よくわからない気持ちになってきました。
「あの……他の方もいらっしゃるので、そういったことはご遠慮したいのですが」
「ん? ああ、すまないね。どうも……想う君から離れがたくて……」
熱っぽい瞳でそう言われ、思わず頬に赤みがさします。
ああ、これが物語の男性から主人公に言われた場面なら私は部屋でごろんごろんしてしまうところですよ!
と、あり得ない事が起こり過ぎて思考が明後日を向いている間に、少しぎらつく目をした殿下のお顔が近づいて――
バシン
「はーい、どさくさに紛れて襲わないの~」
可愛い後輩ちゃんが固まってるし? と言いながら先生が丸めた書類で殿下の頭を叩きました。
ふと見ると、ローゼリア様の表情が固くなっています。
私は先程の違和感の正体に合点がいくと、それを踏まえての今後の行動を頭の中で組み立てました。
その脇で殿下が叩かれた頭に手をやりながら、いや据え膳がだの、上目遣いがどうのだの、首筋の後毛がだのよくわからないことを言っては先生に手にしたままの書類で叩かれています。
殿下のエロ魔獣っぷりが酷い……。
取り敢えず椅子から立ち殿下から少し距離を取ります。
私もそうやすやすとパクッと食べられるわけにはいかないので!
というか、本当に、ここまで気持ちをもらう理由に全く思い当たらないので、いまいちピンと来ていないのが現状です。
殿下が婿とか非現実的ですし、ね……とっとと心移りしてもらえないでしょうか……。
そんな失礼なことを考えながら、私は殿下に声をかけます。
「無事だったのは彼女のおかげでもあるんですよ、気づいてここまで連れてきてくれて。ハンカチも貸していただいて……先程私たちお友達になったんです」
その言葉にまだ叩かれていた殿下はこちらを見やり、やっと先生は彼を叩かずに済むようになりました。
「そうか。私からもお礼を言うよ、ルルを世話してくれてありがとう。名はなんと?」
気持ちを切り替えたのか、エロを差し引いた皇族らしい雰囲気を纏い彼がローゼリア様に話しかけます。
「ローゼリア=アインバッハと申します皇子殿下。大したことはしておりませんので」
そう言って目を伏せ、少し頬を染めたローゼリア様のなんと可憐な事。
私は、この勝負いける! と思いながら出会いのお膳立てとしては上々だろうと思い、心の中で微笑みました。
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