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29. 報告するんです
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あれから授業に遅刻はしたもののなんとか午後の日程をこなし、今。
家路につく馬車の中で、私はこれまでに襲われたこと、またその内容を思い返していました。
水を落としたり、池にテキストを捨てたりは、学生にもできます。
命を取りに来るというよりかは、子供なりの警告、排除して自分が優位に立ちたいという可愛い我儘の部類です。
主犯は多分、コケット侯爵令嬢あたりでしょうか。
大穴で、最近謹慎のとけたアリアータ=ドムンスク公爵令嬢……けどこの筋はちょっと無理かもしれません、彼女はなんだか生気のない状態で復学しています。
ですが今日のは違います、トイレでの一件といい、こちらを確実に殺めに来ている。
殺めないまでも、何がしかを失わせようとしている気配がします。
「私、何に巻き込まれてるんでしょうかね……」
本当は、巻き込まれてるだなんてとっくに言えなくなっていることに気付きながら、でも認めたら苦しく、なる――私は勝手だと知っていて、呟きながら馬車の窓に額をつけます。
窓の外は嫌になるくらい、春の日差しに緑が青々ときらめいていました。
帰宅してすぐ、私は当主としてのお父様に報告をあげるべく、セルマンに予定を尋ね時間を作ってもらえるよう頼みました。
するとちょうど今時間があるようで、すぐに執務室に来るよう言われます。
トントン
「ルルーシアが参りました」
「ん、入りなさい」
「失礼します」
入室して片膝を突き言葉をかけられるのを待ちます。
「報告を聞こう」
「はい。現在皇子殿下との間柄は膠着状態にあります。悪戯は相変わらずですが一つ、気になることがありまして……何処からかは不明ですが刺客が私向けに放たれているようです」
「……刺客?」
「はい。時間がなく取り押さえその目的を吐かすまでにはいきませんでしたが……既に二度程」
「ふむ……ご令嬢の戯れにしては度が過ぎる、か」
当主として思案しながら、何事かの情報を張り巡らせているお父様の次の言葉を静かに待ちます。
「もしかしたら、シェリーナが追っている件と関係があるやもしれんな。……影を一人つける、無力化だけしてあとは任せなさい、こちらで調べよう」
「ありがとうございます」
「報告は以上かね?」
「はい」
「それなら今すぐ平時に戻るように」
「わかりました」
お父様に言われて、立ち上がります。
するとすぐさま抱きつかれました。
ペタペタ触って何やら確認もしています。
「お、お父様?」
「どこも怪我していないな? ……はぁーっ、頼むから、一件目ですぐにお父様を頼っておくれ。可愛い一人きりの娘に何かあったらシェリーナに怒られてしまうし、私もどうにかなってしまう」
確認して満足したのか、お父様は私から離れました。
本当は当主だってしきたりさえなければ男連中に任せるとこだったんだ、とか言っちゃってます。
待ってくださいお父様、弟達だって可愛い可愛いうちの家族ですよ。
「いや、息子達だって可愛いんだよ? けど男っていうものはいつか試練を超えて大きくならなくてはならないからね、少し厳しいくらいで丁度いいんだ、我が家は特にね」
私が考えたことが伝わったのか、お父様の弟達への思いを初めて知ります。
「では、お母様は?」
「……シェリーのあれは、うん、趣味を兼ねてて、ね。付き合いたての頃は家にいる条件で婚約したんだよ? その方が危なく無いし、私が動けばいいと思っていたから。けど、彼女に押し切られてしまって……」
お父様はなんだか遠い目をしました。
知りませんでした、家業だから従事している、そんな風にしか思っていなかったので少し驚きです。
そう言われてみれば、いつも自分で見つけてきては動いているような気がします……趣味と実益を兼ねていたのですね。
「お母様が楽しく過ごされてるなら、良かった? です」
「……そうだね」
お父様がとろけるように笑います。
なんだかんだ言ってとっても仲のいい両親なのです。
私は胸があったかくなったそのままに、執務室を後にしました。
家路につく馬車の中で、私はこれまでに襲われたこと、またその内容を思い返していました。
水を落としたり、池にテキストを捨てたりは、学生にもできます。
命を取りに来るというよりかは、子供なりの警告、排除して自分が優位に立ちたいという可愛い我儘の部類です。
主犯は多分、コケット侯爵令嬢あたりでしょうか。
大穴で、最近謹慎のとけたアリアータ=ドムンスク公爵令嬢……けどこの筋はちょっと無理かもしれません、彼女はなんだか生気のない状態で復学しています。
ですが今日のは違います、トイレでの一件といい、こちらを確実に殺めに来ている。
殺めないまでも、何がしかを失わせようとしている気配がします。
「私、何に巻き込まれてるんでしょうかね……」
本当は、巻き込まれてるだなんてとっくに言えなくなっていることに気付きながら、でも認めたら苦しく、なる――私は勝手だと知っていて、呟きながら馬車の窓に額をつけます。
窓の外は嫌になるくらい、春の日差しに緑が青々ときらめいていました。
帰宅してすぐ、私は当主としてのお父様に報告をあげるべく、セルマンに予定を尋ね時間を作ってもらえるよう頼みました。
するとちょうど今時間があるようで、すぐに執務室に来るよう言われます。
トントン
「ルルーシアが参りました」
「ん、入りなさい」
「失礼します」
入室して片膝を突き言葉をかけられるのを待ちます。
「報告を聞こう」
「はい。現在皇子殿下との間柄は膠着状態にあります。悪戯は相変わらずですが一つ、気になることがありまして……何処からかは不明ですが刺客が私向けに放たれているようです」
「……刺客?」
「はい。時間がなく取り押さえその目的を吐かすまでにはいきませんでしたが……既に二度程」
「ふむ……ご令嬢の戯れにしては度が過ぎる、か」
当主として思案しながら、何事かの情報を張り巡らせているお父様の次の言葉を静かに待ちます。
「もしかしたら、シェリーナが追っている件と関係があるやもしれんな。……影を一人つける、無力化だけしてあとは任せなさい、こちらで調べよう」
「ありがとうございます」
「報告は以上かね?」
「はい」
「それなら今すぐ平時に戻るように」
「わかりました」
お父様に言われて、立ち上がります。
するとすぐさま抱きつかれました。
ペタペタ触って何やら確認もしています。
「お、お父様?」
「どこも怪我していないな? ……はぁーっ、頼むから、一件目ですぐにお父様を頼っておくれ。可愛い一人きりの娘に何かあったらシェリーナに怒られてしまうし、私もどうにかなってしまう」
確認して満足したのか、お父様は私から離れました。
本当は当主だってしきたりさえなければ男連中に任せるとこだったんだ、とか言っちゃってます。
待ってくださいお父様、弟達だって可愛い可愛いうちの家族ですよ。
「いや、息子達だって可愛いんだよ? けど男っていうものはいつか試練を超えて大きくならなくてはならないからね、少し厳しいくらいで丁度いいんだ、我が家は特にね」
私が考えたことが伝わったのか、お父様の弟達への思いを初めて知ります。
「では、お母様は?」
「……シェリーのあれは、うん、趣味を兼ねてて、ね。付き合いたての頃は家にいる条件で婚約したんだよ? その方が危なく無いし、私が動けばいいと思っていたから。けど、彼女に押し切られてしまって……」
お父様はなんだか遠い目をしました。
知りませんでした、家業だから従事している、そんな風にしか思っていなかったので少し驚きです。
そう言われてみれば、いつも自分で見つけてきては動いているような気がします……趣味と実益を兼ねていたのですね。
「お母様が楽しく過ごされてるなら、良かった? です」
「……そうだね」
お父様がとろけるように笑います。
なんだかんだ言ってとっても仲のいい両親なのです。
私は胸があったかくなったそのままに、執務室を後にしました。
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