殿下、私は困ります!!

三屋城衣智子

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68. 風戦ぐ音は

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 夢の中で、風が、私の頬を撫ぜたような気がしました。



「今度は、俺がきっと頑張るから……」

 眠るルルの頬を撫ぜ、その温もりに安堵しながら俺は呟いた。
 小細工なんてする時間があるなら、もっと側にいる努力をしなくちゃいけなかった。
 ――次こそは、間違えない。



 風はその金の髪をサラリと揺らし。



「……っ、今度の件、っふ……手筈は整えてくれてまして……?」
「ああ、すでに……皇宮地下への入り口は、見つけているよ」

 可哀想な人、利用されていることなどちっとも考えていなくて。
 ほんと、哀れだわ。
 こんなに愛に飢えている……私達は、ほんと、哀れだわ。



 この世界のどこかで、風と共にひどく薄暗い衣擦れの音が静かに響き。



 夜の帳は、ゆっくりとゆっくりと、人の感情を呑み込むかのように、おろされていったのでした。












 ふわふわと、良い心地がします。
 なんだか、とても暖かい。



 うっすらと目を開けると、カーテン越しの窓の外から、明るく爽やかな陽の光が入ってきているのがわかりました。
 朝か、昼でしょうか。
 眠る前よりかはだいぶスッキリした感じがして、ゆっくりと辺りを見渡します。
 私はどうやら、医務室に寝かされているようです。
 腕には、点滴の管がつながっていました。
 ただ一回目に寝かされていたベッドの場所とは、位置が違って部屋の角へと移動していました。
 医務室で過ごすことになったので、どなたかが配慮して運んでくれたようです。
 衝立による囲いも、なされていました。
 あれから、何日経ったんでしょうか?

「あ、目が覚めた? よく寝てたよ~、今日であれから二日目だからね。動かすのは体に負担だから、医師常駐の元ここでの療養になったんだ。どう? 体の方は」

 ちょうどその時、衝立の脇から顔を覗かせ、医務のウィッシュバーグ先生が声をかけてきました。

「だいぶ、スッキリしています。お腹が……空いているかもしれません」
「医者の先生から食べて良いって言われてるから、何か持ってくるね~。あ、動く許可は出てるから足元の机、出しといて~」
「はい。ありがとうございます、よろしくお願いします」

 言うなり先生はまた顔を引っ込め、私は上体を起こすと、足元でベッドと一体となっている机を用意しにかかったのでした。

 その間にコンコンという音がして、誰かの入ってくる靴音が室内に響きます。
 音はだんだんと近づきこちらへとやってきているようでした。
 コツコツ、と衝立を拳で叩く音がします。

「はい?」
「ルル、俺だけど今いいかな?」

 レイドリークス様です。
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