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80. するりと言葉が落ちたんです

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「これで準備は整った。ルル……俺とどうか、結婚してほしい」



 言うなりレイドリークス様は、私の手の甲にそっとキスを下ろしました。

 ピュィィイッ、とトルディ様あたりから口を鳴らす音も聞こえます。

 私は皆の前でとか、先ほど事件があったばかりなのにとか、思考がぐるぐるしながら、この場にいるお父様へ視線をやりました。
 お父様は……何だか嬉し涙を堪えながら口が許さんの形に歪んでいるようです。
 どうしましょう。

 こんな時なのに、どうしましょう。



 気持ちは打ち震えています。



「……は、い」

 思わず、抑えていた気持ちの中から言葉がするりと出てしまいました。
 両手で口を抑えましたがもう遅く。
 彼は、びっくりした後周りを見渡し、シュッと立ち上がると私を抱き締めます。
 複雑な気持ちから、今は手をその背中に回すことはできませんでした。



 どれくらい経ったでしょうか。



「……あー……レイドリークス、そろそろやめなさい」

 威厳のある国皇陛下の声がその場に通りました。

「なぜですか、もう少」
「もう夜も遅い、そこな彼女も疲れているであろう。結果はちゃんとお前達にも伝える。事後処理は大人に任せておきなさい」
「……わかりました」

 彼はそういうと、そっと私を離してくれました。
 ……少し悔しそうに見えるのは、きっと気のせいです。
 ドギマギしていると、お父様がこちらへ来るのが見えます。

「ルルーシア、恐らく後日陛下から説明がなされるだろうと思う、馬車を用意するから今日はもう帰って寝なさい。良いね?」
「はい、お父様」

 正直、何だかとても疲れていたのでお父様に言われた通りに、その日は家に帰って寝ることにしました。



 帰宅後、日記の続きは何だったんだろうと思い、読みかけだった所から最後まで目を通してみます。

 『私は訳がわからなかった。何故、赤茶なの、おばあちゃんは、あなたの何? 尋ねるとその人は言った。「私はかつて大魔法使いと呼ばれた者。リリアは私の最愛にして、聖女。寿命が違うのが苦しくなって彼女を手放した愚か者だ、だから私は世にはもう出ない。彼女も表に出るのをとうにやめていたと聞く。けれどせめて、我が子、我が孫たちの行く末くらいは、良きものにしたい。ま、つまりはただの好々爺なのさ」私はこの人の最後の願いを、この家に残すことに決めたけど、これで良かったのかと今でも思う。』

「この記述の人が、ウィッシュバーグ先生、だったんですね……」

 私は考えを巡らせました。
 ウィッシュバーグ先生の苗字、言われてみれば首都リッシュバージュととても似通った名前です。
 パズルの欠片がパチリパチリとはまる音が聞こえてくるよう。

 けど、何だかすごく体力を使った感じがして、本当に眠いです。
 私は一つあくびをすると最低限の寝る準備を済ませ、ベッドの中に入って目を閉じたのでした。
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