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一章
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執務室の前に着くとノックをする。
「お父様、メルティアーラです、入ってもよろしいかしら?」
「ーー入りなさい。」
父の声の後ろで、まぁまぁとかあらあらとかどうしましと聞こえる中許可をもらい一礼しながらドアを開け中に入る。
重厚なドアの向こうには父がいつも書類と格闘している机と、領地に関する書類や経営の本の入った書棚、母がお茶をするためのテーブルセットが置かれている。
けれどテーブルセットにお母様の姿はなかった。
あれ?と思いながら目線を前にやるとーー執務室の机に座ったお父様と、何故かその膝の上に座ってお父様の首に手を回したお母様がいた。
月一くらいで見かける光景なので特段反応はせずお父様へ話しかける。
「お父様がお呼びだと言われたのですが、何のご用事ですか?」
「うむ、そ「婚約の打診ですのよ! しかもメルティが昔憧れていた王子様との!」
お父様が口を開いたその時、お母様がとてもはしゃいだ声でとんだ爆弾を投げてきた。
尚もお母様はうきうきと矢継ぎ早に話し続ける。
「しかもなんと! 第二王子殿下と第三王子殿下御二方ともからなのよ! 無骨な感じとすっきり細筋肉と、メルティはどっちが好みかしら?」
「お肉にするかお魚にするか、みたいな調子で聞いてこないでくださいますか、お母様」
「やあね、ほんの冗談よ。ケルヒが死にそうな顔色をしてるものだから、少し和ませたくって」
ぺろっと舌を出しながらでも声が面白そうで、お母様が冗談半分面白み半分で言ったのだなということが見てとれる。
わたくしが婚約となったら他人事ではないのにお母様ったら。
「フェリス、娘を揶揄うのはそれくらいにしてくれないか? 本題を告げたい」
「わかりましたわあなた。けれどあまり思い悩まないでくださいまし。メルティは大丈夫ですわ」
いや既に大丈夫じゃないですわ。
だなんて言えるわけもなく、お父様が続けようとしている言葉に耳を澄ます。
「フェリスが言ったように、今お前には王家から二件婚約の申し込みが来ている。異例のことだがーーマリオン殿下の方はほぼ婚約者が内定しているが色良い返事がまだのようでな。どうもーー」
「事情は何となくわかりますわ、わたくしはいいお出汁、といった所でしょうかしら?」
「…うむ、由々しきことだがお前の噂は王家にも伝わっている。父としては少々ーいや大分、うん、かなり! 滅茶苦茶!! 不本意だがー臣下として、使っていただける以上は不名誉にならぬ範囲で、尽力しなければならぬ」
「第二王子殿下については承知いたしましたわ」
つまりはわたくしの存在は、話のみで実動がない。
瑕疵にもならないので、話がいっとき出ても問題ないだろうと考える。
「そうか、ありがとう。こちらは少し考えるそぶりの後丁重にお断りしておくよ。ーー問題は、第三王子殿下の方だ」
「……何か、問題が?」
「うん、こちらも想い人がいるとそれとなく匂わされた上での話だったのだが、どうにもその人が誰なのか、内定が済んでいるのかすらわからず、少々気に入らな…………ごほん、きな臭い」
「あなた、本音がダダ漏れよ?」
「まぁとにかく。向こうがどのつもりで申し込んだのかわからぬ以上、父親としては娘の気持ちを尊重したい。全力で猶予を作るから、お前はどうしたいか、ゆっくり、ゆっっっくりと! 考えておくれ」
お父様はそう言うと、とても愛おしそうにわたくしに微笑んでくれた。
お母様がお膝に乗っている分、なんだか愛嬌度が高くてわたくしの頬が緩んだ。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、しっかり考えてみますわ、お父様」
それでは失礼しますとにっこりしながら声をかけ執務室を後にすると、遠くで「メルティたんまじ天使」とか言う声がした気がしたけど無視をした。
「お父様、メルティアーラです、入ってもよろしいかしら?」
「ーー入りなさい。」
父の声の後ろで、まぁまぁとかあらあらとかどうしましと聞こえる中許可をもらい一礼しながらドアを開け中に入る。
重厚なドアの向こうには父がいつも書類と格闘している机と、領地に関する書類や経営の本の入った書棚、母がお茶をするためのテーブルセットが置かれている。
けれどテーブルセットにお母様の姿はなかった。
あれ?と思いながら目線を前にやるとーー執務室の机に座ったお父様と、何故かその膝の上に座ってお父様の首に手を回したお母様がいた。
月一くらいで見かける光景なので特段反応はせずお父様へ話しかける。
「お父様がお呼びだと言われたのですが、何のご用事ですか?」
「うむ、そ「婚約の打診ですのよ! しかもメルティが昔憧れていた王子様との!」
お父様が口を開いたその時、お母様がとてもはしゃいだ声でとんだ爆弾を投げてきた。
尚もお母様はうきうきと矢継ぎ早に話し続ける。
「しかもなんと! 第二王子殿下と第三王子殿下御二方ともからなのよ! 無骨な感じとすっきり細筋肉と、メルティはどっちが好みかしら?」
「お肉にするかお魚にするか、みたいな調子で聞いてこないでくださいますか、お母様」
「やあね、ほんの冗談よ。ケルヒが死にそうな顔色をしてるものだから、少し和ませたくって」
ぺろっと舌を出しながらでも声が面白そうで、お母様が冗談半分面白み半分で言ったのだなということが見てとれる。
わたくしが婚約となったら他人事ではないのにお母様ったら。
「フェリス、娘を揶揄うのはそれくらいにしてくれないか? 本題を告げたい」
「わかりましたわあなた。けれどあまり思い悩まないでくださいまし。メルティは大丈夫ですわ」
いや既に大丈夫じゃないですわ。
だなんて言えるわけもなく、お父様が続けようとしている言葉に耳を澄ます。
「フェリスが言ったように、今お前には王家から二件婚約の申し込みが来ている。異例のことだがーーマリオン殿下の方はほぼ婚約者が内定しているが色良い返事がまだのようでな。どうもーー」
「事情は何となくわかりますわ、わたくしはいいお出汁、といった所でしょうかしら?」
「…うむ、由々しきことだがお前の噂は王家にも伝わっている。父としては少々ーいや大分、うん、かなり! 滅茶苦茶!! 不本意だがー臣下として、使っていただける以上は不名誉にならぬ範囲で、尽力しなければならぬ」
「第二王子殿下については承知いたしましたわ」
つまりはわたくしの存在は、話のみで実動がない。
瑕疵にもならないので、話がいっとき出ても問題ないだろうと考える。
「そうか、ありがとう。こちらは少し考えるそぶりの後丁重にお断りしておくよ。ーー問題は、第三王子殿下の方だ」
「……何か、問題が?」
「うん、こちらも想い人がいるとそれとなく匂わされた上での話だったのだが、どうにもその人が誰なのか、内定が済んでいるのかすらわからず、少々気に入らな…………ごほん、きな臭い」
「あなた、本音がダダ漏れよ?」
「まぁとにかく。向こうがどのつもりで申し込んだのかわからぬ以上、父親としては娘の気持ちを尊重したい。全力で猶予を作るから、お前はどうしたいか、ゆっくり、ゆっっっくりと! 考えておくれ」
お父様はそう言うと、とても愛おしそうにわたくしに微笑んでくれた。
お母様がお膝に乗っている分、なんだか愛嬌度が高くてわたくしの頬が緩んだ。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、しっかり考えてみますわ、お父様」
それでは失礼しますとにっこりしながら声をかけ執務室を後にすると、遠くで「メルティたんまじ天使」とか言う声がした気がしたけど無視をした。
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