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一章

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「殿下、先触れもなくこちらにきたのには、何か訳でもございますの?」
「メルティともっと話したくて。一緒に登院したら、その間ずっとおしゃべりできるだろう? 思い立ったのが今朝だったものだから、つい気がせいてこうしてやってきてしまって……怒って、いるかい?」

 少しきゅるんとした感じで、殿下がきいてくる。
 子犬と殿下の姿がやはりどこか重なって、これ以上文句を言うのが躊躇われてしまった。
 思わずため息と共に許し、けれどしっかり釘は刺しておくことにした。

「お約束もなしにこちらへきたのは感心しませんが、仕方ありません。一緒に学院へ参りましょう」

 殿下のお顔がわかりやすくきらめいたのを見ないふりして、続ける。

「ですが、わたくしたちは仮初めの婚約者です。周りの目があるところではともかく、こう言った場では節度を守りたく存じますわ」

「…………へ?!」

 私がそう告げると、殿下が何故か素っ頓狂な声を出して口をあんぐり開けたままになった。

「……殿下? 殿下? ……クリスフォード殿下?」

 固まったままうんともすんとも言わない殿下に、目の前で手をひらひらしてみたりしてみた。
が、一向になんともならない。
 登院時間が迫っていたので、お付きの方をお呼びして馬車に押し込み、私も同乗させて頂いて学院へと向かった。
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