踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子

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一章

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「あわわ、お、おいどうしたんだ? 腹でも痛いのか?!」

 男の子を慌てさせていることにすら悲しくなってしまって、私はわんわん泣きながらいつの間にかぽろぽろと自分の気持ちややってしまった事を口に出していた。

「ひっく。ごめんなさい……初めて会ったのに、こんななさけないはなし、して……」
「あやまんなよ! オレがたずねたんだし」
「こんなになさけなくちゃ、お母様にもきらわれてしまうわ」
「……おまえの母上は、そんなことできらいになるなら、きっとすげぇイジワルだな」

いきなりお母様の悪口を言われカッとなる。

「私のお母様は、そんな方ではないわ!! お兄様がこっそり勉強がんばってたらさしいれしているし、弟に毎日夜絵本を読んであげているし、イタズラしたらどういう悪いことなのか説明して、きちんと抱きしめてあげてる、もの……」
「……そうだろ?じゃあお前がやっちまったことだってさ、一回おしりぺんしてきっと抱きしめて終わりだと思うぞ? オレ」

 そうだった。
 お母様がお兄様のためにとやっていることも弟にとやっていることも、私も当然のように、してもらってきた。
 今だって、やってもらっている、のだ。
 それにしても――

「あなた、まるで見てきたことのように言うのね。確かにうちのお母様、弟がとんでもないイタズラをしておしりをぺちん!ってしていたわ。男の子って、よくあることなのかしら」

 くすくすしながら、最近あった出来事を思い出す。

「あ゛、えーと、その、そう! オレもあるかもしれん? うん。」

 しどろもどろがおかしくて、私はつい大笑いしてしまった。
 男の子はそんな私を優しげに見つめながら言葉を続ける。

「自分の立場をあやうく思うことは、多々あるさ。オレも昔は気に病んでた……だけど言われた事がある、自分が相手をどう思っていてどう行動してみせるかっていうのが大事だって。お前、家族のこと大好きだろ?」
「うん、大好き!」
「…お、おう。ならさ、自分の気持ち押し付けたらいけねぇけど。自分の気持ちを元にして相手を下支えするのは、いつだって自由じゃねぇのかなって、オレ最近思うんだ。も、もちろん! 気持ちを同じだけ返してもらえたら嬉しいけど」

 言葉を区切って、彼は愛おしそうに丘に咲いた桃色のイブリスの花を眺めながらなおも続ける。

「オレたちは一人と一人で思いあいたくて、だけどたとえばオレの母上なら五人産んでっから、どうしてもこどもってったら五つに気持ちが別れちまう。しかもオレも妹いるし、ちっちゃい方がやっぱ優先なんだよな~」

 彼も思うところが以前あったのか、少しぶーたれた顔をした。
 くるくるかわる表情が面白くて、つい魅入ってしまう。
 ――なぜだかギョッとされてしまった、なんでだろう?
 ともあれ、まだ話は続くらしい。

「けどさ、よおく見てると、変わんないんだよ行動は。時間はどうしても減っていくけど……ああああ、愛?してくれちゃってんのはさ、しっかり態度であらわしてくれてるって、……わかる」

 それによくよくかんさつしてると、三つ下の妹が何を思って行動しているかがなんとなくわかって、今めちゃくちゃかわいーのオレもうメロメロ。
 と、いつの間にやら私の相談から妹自慢が始まった。

 その話がまた面白くて。
 私はめそめそしていたのも忘れて、その話に聞き入ってしまったのだった。

 そうして、どれくらい経っただろう?
 遠くから私を呼ぶ声が段々大きくなるのが聞こえてきた。

「そろそろお開き、かな?」
「そうね、呼んでるからもどらなくちゃ。楽しかったし、その、とてもためになったというか……大事なお話をしてくれて、どうもありがとう」

 私はここでできる最大限のお礼がしたくて、ぺっこりとしっかりお辞儀をした。
 後日しっかりお礼がしたくて、彼に訊ねる。

「また、会えるかしら?名前を聞きたいわ」
「ん~、今はまだ内緒だ! また会えたらな!! 話は、まぁなんか役に立ったんなら嬉しい。オレも帰んなくちゃだから、またなメルティ!!」

 照れたのか鼻の下を擦りながら男の子は足早に駆けって去っていった。

 私名前教えたかしら?

 不思議に思ったけれどすぐにお父様とお母様と合流して、叱られたり泣かれたり抱きしめられたりするうちにその疑問は消えていった。
 多分呼ぶ声の名前が耳に入ったのかもしれない、そうも思ったからーー。
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