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一章

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「……っ、……ぁ」



 ドゴッ!

「最低ですわ!! ここここんな公衆の面前で!!!」

 真っ赤になってわたくしは叫ぶ。
 今のは盛大な本音ですわ!

 わたくしがお見舞いした華麗な右ボディフックは、しっかりと脇腹に入ったようで殿下は左斜め後方に吹っ飛んで尻餅をついていた。



「ケチなやつだ、婚約者なら良いだろう減るもんでもない」

 少しよろけながらも立ち上がりつつ殿下が言う。

「あれだけ婚約者を取っ替え引っ替えしていたんだ、俺も踏み台としてつまみ食いくらいしたって良いだろう?」

 ……殿下も一緒に、泥を被ってくださっている。
 わたくしも応戦した。

「お生憎様、わたくしこれでもなんですの! どこぞの手の早いすっとこどっこいとは雲と泥ほども違いましてよ! こんな方じゃマルガレーテ様がお可哀想だわ……想い合うお二人だと思えばこそ、嫉妬心をあおりたいという殿下にお手を貸そうと考えましたのに!!」

「ちっ、面倒臭い女だ。流石に本命に手を出すわけがないだろう、宝石は宝箱にしまっておくものだ。……興がめた。殴った詫びに、精々せいぜいいるがいい!!」

 そう捨て台詞を吐くと、殿下は教室を出て行った。

 周りの級友のざわめきは最高潮となっている。
 廊下には他クラスの生徒が鈴なりで、窓越しにこちらを覗いているのが見てとれた。

 これならーーーー考えを巡らせていると、ケンウィットがこちらへやってきた。

「……出遅れたか?」

 どうやら自分の出番を心配したらしい。

「……いいえ、今で大丈夫ですわ。見守ってくれたんですのね、ありがとう」
「……例には及ばない。…………殿下とのアレは、どうする。」
「あー……。お父様は噴飯ふんぱんものでしょうね……。バレるかもしれないけど、ケンウィットはそこ以外を報告しといてくれる?」

 わたくしは人差し指を唇にあてながら内緒にして欲しいとお願いした。
 お父様もそこそこお強いからーーこの幼馴染なら大丈夫かもしれないけどーー、ケンウィットにとばっちりが行くのは避けたい。

「……わかった。」

 わたくしは返事をもらいながら、今日はメメットが登院していたら一緒にどこで昼食をとるのが良いかと、どこまで話して良いかに考えを巡らすのだった。
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