戦国Re:verse ― 織田信長編《紅蓮の覇者》

梵天丸

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第39話 金ヶ崎の棋譜

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 翌朝。
 金ヶ崎の空は鉛のように重く、海風が軍旗を揺らしていた。
 織田の陣では、兵たちが補給の荷を整え、次の進軍に備えている。

 僕は藤吉郎や利家と共に、兵站の確認に回っていた。
 浅井勢の陣も遠くに見えるが、その動きはどこか鈍い。

「……なんだか、浮き足立ってるな」

 利家が呟く。

「うん。昨夜までの勢いがない。何かあったのかも」

 藤吉郎も真顔になる。

 僕は首を振った。

「まだ決めつけるのは早い。でも……気配が変わっている」

 信長様の「目」として、些細な違和感も見逃せない。
 浅井の陣では、家臣たちが密かに集まり、何やら書状を回していた。
 その筆頭に、長政の側近・阿閉貞征の姿。

(……動きが早い。久秀の偽情報が、もう届いたか?)

 そう思った矢先、信長様の使いが駆けてきた。

「蓮殿! 金ヶ崎の北で、朝倉勢の一部が再集結しているとの報せ!」

 僕は息を詰めた。

(やはり――虚報だった。朝倉は退いていなかったのだ!)



 金ヶ崎城下の陣。
 織田軍は朝倉勢を追撃しながら、越前の奥へと進もうとしていた。
 前方には敦賀湾、背後には浅井領――つまり、織田軍の退路は北近江を経て美濃へと続く一本道しかない。

 その退路を守るのが、同盟軍・浅井長政の役目だった。
 信長様もその信頼あってこそ、安心して前線を押し上げていたのだ。

 だが――

「報告! 浅井勢が、背後の木ノ本方面で軍を動かしています!」

 伝令の声が響いた瞬間、陣中の空気が凍りついた。

 勝家さんが血相を変えて叫ぶ。

「何だと!? 浅井は味方のはず――!」

 僕は胸が締め付けられる思いで、慌てて地図を広げた。
 赤く描かれた織田の進軍線。その背後、木ノ本――まさに退路の要衝だ。
 そこに、青で示された浅井の軍勢が回り込む形で動いている。

「……史実通りだ。朝倉は囮。浅井が背後を断つ」

 声が震えた。
 味方に背を討たれる――それは、最も避けねばならない最悪の展開だった。
 信長様が低く問う。

「蓮、退くべき時は今か」

 僕は迷わなかった。

「はい。まだ間に合います。浅井軍は全軍を動かす準備の段階です。
 今なら北の山道――木ノ芽峠を越えれば、退路を確保できます!」

 信長様は鋭く命じた。

「全軍、金ヶ崎を離れ、木ノ芽峠へ退く! 殿は藤吉郎、先鋒は利家、光秀は右手を固めよ!」

 号令と同時に、陣営が騒然と動き出した。
 その中で僕は、かすかな違和感を覚える。

(……なぜ、浅井の動きがこんなに早い?
 まるで、僕の“目”の任務を読んでいたように――)

 頭の中に、久秀の笑みが過った。



 夕刻。
 織田軍は金ヶ崎を後にし、山道を進んでいた。
 兵は疲労し、足元は泥濘。雨が降り出し、視界が悪い。

 僕は先行して地図を確認しながら、信長様に報告を続けた。

「浅井軍、南から追撃の兆候。……朝倉の本隊も西から回り込もうとしています」

「包囲が迫っているか」
「はい。こちらの退路は、もってあと一日」

 信長様はしばらく黙り、それから静かに言った。

「蓮。そなたの“目”は確かだ。だが、この状況では、どんな策も追いつかぬ」

「……僕の采配が遅れたせいで」
「違う。そなたの報せがなければ、今ごろ金ヶ崎で全滅していた。
 そなたは己を責めるな。――この窮地を、共に抜けるのだ」

 その言葉に、胸の奥が熱くなる。
 僕は確かに未来を知っていた。
 だが、この世界では、史実とは似て非なる異なる未来が訪れることもあるのだ。
 まさに、今がそうだった。

(信長様……僕は、必ずこの人を死なせない。そして、織田軍も守ってみせる!)

 その瞬間、背後で爆音が響いた。

「殿の陣、攻撃を受けています!」

 藤吉郎の声が山中に響き渡る。
 浅井・朝倉連合軍が、ついに包囲を完成させたのだ。



 その頃、京。
 松永久秀は義昭の書状を手に取り、満足げに笑んでいた。

「“織田討つべし”……将軍の印があれば、浅井も朝倉も正義となる。
 さて、信長殿。逃げ場のない盤上で、どんな手を打つか」

 月明かりに照らされるその笑顔は、狂気にも似て静かだった。

***************

戦国Re:verse ― 織田信長編《紅蓮の覇者》は、各エピソードごとに YouTubeで公開されるオリジナル楽曲 が1曲ずつ連動しています。

今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「金ヶ崎の棋譜 — Gambit of Kanegasaki」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫

「金ヶ崎の棋譜 — Gambit of Kanegasaki」はこちら ⇒ https://youtu.be/pMUWSNpsUR4
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