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第百八話 自重するべきでした
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翌日は、ラウル様も少し時間があったようで、私が目を覚ましてもまだベッドの中にいた。
私はラウル様の顔に手をのばし、そっと触れてみる。
疲れているのか、少し触れたぐらいでは目を覚ましそうになかった。
(疲れるはずよね…帰りの馬車の中でもずっと仕事をしているような状態だったし…)
ラウル様だけではなく、それをさサポートするエルンスト卿も大変だ。
(でも、ラウル様は本当に人に恵まれていると思う…)
どんな状況になっても支えようという気持ちが、どの騎士たちからも伝わってくる。
まだそんなにたくさんの人を知っているわけでもないけれど、皇宮警察の人たちからも同じような雰囲気を感じた。
それはラウル様の人柄にもよると思う。
私に対してもそうだし、部下に対しても気遣いのできる人だから。
(それでラウル様自身が疲弊してしまわないか、いつも心配になってしまうけど…)
でも私が側にいても、安心して眠ってくれているのは嬉しかった。
「あ……」
気がつくとラウル様は起きていたようで、顔に触れていた私の手をつかむ。
そしてそのまま唇に押し当ててキスをした。
「今日は早く起きていたんですね」
いつもは私のほうが目を覚ますのが遅い。
確かに、私が先に目を覚ますのは珍しかった。
「少しだけ、です。今さっき、起きたところだから。今日はゆっくりしていて大丈夫なんですか?」
「昨夜話をして、今日の午前中は休みにしようということになりました。皆も疲れているでしょうから」
「良かった…ラウル様は働き過ぎだから、少し心配していたんです」
そう言ってから、ラウル様は私の手をつかんだまま、少し考えるように首をかしげた。
「手が熱いです」
「え……?」
ラウル様の手が、私の額に伸びてきた。
そして申し訳なさそうな顔をした。
「熱があると思います」
「え…そうかな…」
自分ではよく分からなかった。
前に高熱を出したときのような酷い状況ではないけれど、確かに少し頭はくらくらするような気はする。
それは単に疲れているからだと思っていたけれど。
「すみません……」
「ど、どうしてラウル様が謝るんですか?」
「疲れているのが分かっていたのに…自重するべきでした」
昨夜の行為のことを言っているのだと思うと、少し恥ずかしくなった。
「そ、それは…あの…私も同意したことなので、そういうふうに思わないでください…」
「ですが…」
「そ、それに、前ほど酷い状態じゃないですし。たぶん、体も少し丈夫になってる…のかも。今日はゆっくりしてますから、心配しないでください」
私は明るめの声でそう言ったのだけど、ラウル様は少し落ち込んでいるようだった。
主治医の診断でも、前ほど酷い熱ではないので少し休めば大丈夫ということだった。
ただ念のために、熱が下がるまではカイルとの接触は避けることにした。
カイルも慣れない首都の滞在や長旅で疲れているだろうし、万が一のことを考えてしまう。
(今日はゆっくりしよう…本当なら引越の準備をしないといけなかったけど…)
首都に戻るまで2週間しかないので、引っ越しの準備も悠長にしている時間がなかった。
ただ、考えてみると、首都へ行く前からずっと忙しかったし、首都では毎日が慌ただしかったし…。
(熱が下がるまでは、ちゃんと休んだほうが良いのかも…)
シャーレットの体はそれほど丈夫なほうではないし、無理をするとどうなるのか私も心配だった。
(皇女様からいただいた腕輪を使う手もあるけど、いざという時のために温存しておくほうが良いかも…)
以前にいただいた腕輪は、エルザさんの事件の際に使って壊れてしまった。
新しいものをいただいたけど、本当に必要な時に使おうと思って全く使っていない状態だった。
(やっぱり寝て治そう…)
そう決めて首まで布団に潜り込んだとき、仕事のために出て行ったはずのラウル様が戻ってきた。
「今日は休んでいいと言われました」
「ええ?」
「今日は私がいなくても大丈夫だからと…」
たぶん大丈夫ではないと思うけど、マルティン卿たちが気を遣ってくれたのかもしれないと思った。
「そういうわけで、今日はずっと側にいますが、構いませんか?」
「それは…嬉しいですけど、でも、いいんですか?」
「今日は、あなたを甘やかすのが仕事です。何か必要なものがあれば言ってください」
その言葉通り、ラウル様は食事や水を運んでくれたり、額を冷やす布を取り替えてくれたりと、こちらが申し訳なくなるぐらいに世話を焼いてくれた。
オフモードだからか、シャツの首元のボタンを開けているのがセクシーに感じられて、つい見とれてしまう。
(なにを考えて…)
自分の不埒な考えを振り払うように首を振る。
こんなことを考えてしまうのも、熱のせいかもしれない…。
(ラウル様だって、疲れてるはずなのに…)
せっかく仕事が休みになったのに、私の看病をしてくれるのが申し訳なさすぎた。
(あ、そうだ…)
私は、ふとあることを思いついた。
「一つお願いしたいことがあるのですが…」
「何でも言ってください」
「あの…一緒にお昼寝がしたいです…」
「そんなことでいいんですか?」
拍子抜けしたように、ラウル様は言った。
「はい…だめですか?」
「そんなことはありません」
ラウル様は笑うと、すぐに布団の中に潜り込んでくる。
そして、自分の腕の中に私を引き寄せた。
「ゆっくり休んでください」
「ラウル様も…」
「はい…実はとても眠いです」
「おやすみなさい」
返事の代わりに、軽く口づけをされる。
ラウル様の腕の温もりに包まれていると、すぐにまぶたが重くなってきた。
今回の発熱は、2日間でおさまった。
2日目もラウル様が仕事の合間に様子を見に来てくれるなど、甘やかされっぱなしの2日間だった。
おかげで体が休まったのはもちろん、気持ちにもゆとりができた。
ラウル様から本当に大切に想ってもらえているということを、感じさせてもらった2日間でもあった。
「とりあえず、カイルの荷物をまとめるのを手伝いに行こう」
私はここへ来て半年程度しか過ごしていないが、カイルは5年間、ここで育ってきた。
きっと荷物もたくさんあって、取捨選択が必要だろうと思う。
私がカイルの部屋に到着すると、アリスが手伝って荷物の整理をしているところだった。
「お母さん!!」
私の顔を見るなり、カイルが嬉しそうに駆け寄ってきた。
私はラウル様の顔に手をのばし、そっと触れてみる。
疲れているのか、少し触れたぐらいでは目を覚ましそうになかった。
(疲れるはずよね…帰りの馬車の中でもずっと仕事をしているような状態だったし…)
ラウル様だけではなく、それをさサポートするエルンスト卿も大変だ。
(でも、ラウル様は本当に人に恵まれていると思う…)
どんな状況になっても支えようという気持ちが、どの騎士たちからも伝わってくる。
まだそんなにたくさんの人を知っているわけでもないけれど、皇宮警察の人たちからも同じような雰囲気を感じた。
それはラウル様の人柄にもよると思う。
私に対してもそうだし、部下に対しても気遣いのできる人だから。
(それでラウル様自身が疲弊してしまわないか、いつも心配になってしまうけど…)
でも私が側にいても、安心して眠ってくれているのは嬉しかった。
「あ……」
気がつくとラウル様は起きていたようで、顔に触れていた私の手をつかむ。
そしてそのまま唇に押し当ててキスをした。
「今日は早く起きていたんですね」
いつもは私のほうが目を覚ますのが遅い。
確かに、私が先に目を覚ますのは珍しかった。
「少しだけ、です。今さっき、起きたところだから。今日はゆっくりしていて大丈夫なんですか?」
「昨夜話をして、今日の午前中は休みにしようということになりました。皆も疲れているでしょうから」
「良かった…ラウル様は働き過ぎだから、少し心配していたんです」
そう言ってから、ラウル様は私の手をつかんだまま、少し考えるように首をかしげた。
「手が熱いです」
「え……?」
ラウル様の手が、私の額に伸びてきた。
そして申し訳なさそうな顔をした。
「熱があると思います」
「え…そうかな…」
自分ではよく分からなかった。
前に高熱を出したときのような酷い状況ではないけれど、確かに少し頭はくらくらするような気はする。
それは単に疲れているからだと思っていたけれど。
「すみません……」
「ど、どうしてラウル様が謝るんですか?」
「疲れているのが分かっていたのに…自重するべきでした」
昨夜の行為のことを言っているのだと思うと、少し恥ずかしくなった。
「そ、それは…あの…私も同意したことなので、そういうふうに思わないでください…」
「ですが…」
「そ、それに、前ほど酷い状態じゃないですし。たぶん、体も少し丈夫になってる…のかも。今日はゆっくりしてますから、心配しないでください」
私は明るめの声でそう言ったのだけど、ラウル様は少し落ち込んでいるようだった。
主治医の診断でも、前ほど酷い熱ではないので少し休めば大丈夫ということだった。
ただ念のために、熱が下がるまではカイルとの接触は避けることにした。
カイルも慣れない首都の滞在や長旅で疲れているだろうし、万が一のことを考えてしまう。
(今日はゆっくりしよう…本当なら引越の準備をしないといけなかったけど…)
首都に戻るまで2週間しかないので、引っ越しの準備も悠長にしている時間がなかった。
ただ、考えてみると、首都へ行く前からずっと忙しかったし、首都では毎日が慌ただしかったし…。
(熱が下がるまでは、ちゃんと休んだほうが良いのかも…)
シャーレットの体はそれほど丈夫なほうではないし、無理をするとどうなるのか私も心配だった。
(皇女様からいただいた腕輪を使う手もあるけど、いざという時のために温存しておくほうが良いかも…)
以前にいただいた腕輪は、エルザさんの事件の際に使って壊れてしまった。
新しいものをいただいたけど、本当に必要な時に使おうと思って全く使っていない状態だった。
(やっぱり寝て治そう…)
そう決めて首まで布団に潜り込んだとき、仕事のために出て行ったはずのラウル様が戻ってきた。
「今日は休んでいいと言われました」
「ええ?」
「今日は私がいなくても大丈夫だからと…」
たぶん大丈夫ではないと思うけど、マルティン卿たちが気を遣ってくれたのかもしれないと思った。
「そういうわけで、今日はずっと側にいますが、構いませんか?」
「それは…嬉しいですけど、でも、いいんですか?」
「今日は、あなたを甘やかすのが仕事です。何か必要なものがあれば言ってください」
その言葉通り、ラウル様は食事や水を運んでくれたり、額を冷やす布を取り替えてくれたりと、こちらが申し訳なくなるぐらいに世話を焼いてくれた。
オフモードだからか、シャツの首元のボタンを開けているのがセクシーに感じられて、つい見とれてしまう。
(なにを考えて…)
自分の不埒な考えを振り払うように首を振る。
こんなことを考えてしまうのも、熱のせいかもしれない…。
(ラウル様だって、疲れてるはずなのに…)
せっかく仕事が休みになったのに、私の看病をしてくれるのが申し訳なさすぎた。
(あ、そうだ…)
私は、ふとあることを思いついた。
「一つお願いしたいことがあるのですが…」
「何でも言ってください」
「あの…一緒にお昼寝がしたいです…」
「そんなことでいいんですか?」
拍子抜けしたように、ラウル様は言った。
「はい…だめですか?」
「そんなことはありません」
ラウル様は笑うと、すぐに布団の中に潜り込んでくる。
そして、自分の腕の中に私を引き寄せた。
「ゆっくり休んでください」
「ラウル様も…」
「はい…実はとても眠いです」
「おやすみなさい」
返事の代わりに、軽く口づけをされる。
ラウル様の腕の温もりに包まれていると、すぐにまぶたが重くなってきた。
今回の発熱は、2日間でおさまった。
2日目もラウル様が仕事の合間に様子を見に来てくれるなど、甘やかされっぱなしの2日間だった。
おかげで体が休まったのはもちろん、気持ちにもゆとりができた。
ラウル様から本当に大切に想ってもらえているということを、感じさせてもらった2日間でもあった。
「とりあえず、カイルの荷物をまとめるのを手伝いに行こう」
私はここへ来て半年程度しか過ごしていないが、カイルは5年間、ここで育ってきた。
きっと荷物もたくさんあって、取捨選択が必要だろうと思う。
私がカイルの部屋に到着すると、アリスが手伝って荷物の整理をしているところだった。
「お母さん!!」
私の顔を見るなり、カイルが嬉しそうに駆け寄ってきた。
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