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第百二十四話 さすが親子というか…
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その後は特に憲法改正についての話が出ることもなく、当たり障りのない話に終始して帰宅の途についた。
「あの…大丈夫ですか?」
帰りの馬車に乗り込んだ瞬間、私は心配になってラウル様に聞いた。
「カスパー公子の結婚式の件ですか?」
「はい…その、公子とは…」
「確かに昔酷い目に遭わされましたが、お互いに若い頃の話なので。向こうももう忘れているでしょう」
(たとえ公子の側が忘れていたとしても、ラウル様にとっては…)
「何か他に意図があるのかもしれませんが、その意図を確かめてみるのも良いかと思って」
「意図がありそうなら、なおさら心配です。やっぱり断りませんか?」
「大丈夫ですよ。確認してみたいこともあったので、ちょうど良かったです」
「でも…」
やっぱりどうしても不安が拭えなかった。
そんな私の不安を感じたのか、ラウル様の手が私の頬に触れてくる。
「心配いりません。本当に大丈夫です」
私は頬を撫でるラウル様の手に触れた。
「私、心配性過ぎますか?」
「心配してくれるその気持ちは、嬉しいですよ」
「何か計画があるのだとしても、無茶はしないでくださいね」
「もちろんです。あなたが側にいるのに、無茶なんてしません」
あまり不安になりすぎても仕方がない。
ラウル様には何か考えがあって受けたことだから、私は私に与えられた役割を果たそうと思った。
今日はカイルの今後の音楽教育のため、複数の演奏家たちが本邸に集められていた。
ラウル様と相談して、情操教育のために何か楽器を習わせることにしたのだ。
カイルはピアノを習いたいと言っていたのだけど、ピアノ以外にもさまざまな楽器があることを説明し、実際にその演奏を聴いてもらうことになった。
今日集まってくれた演奏家はラウル様が選んでくれた人たちで、楽器の指導も行える人たちばかり。
それぞれバイオリン、フルート、クラリネット、チェロを担当している。
楽器の中でカイルが興味を示したのは、一番大きなチェロだった。
カイルの体はまだ小さいのでチェロは無理かと思ったけれど、子ども用のサイズのものもあるので習うことができるそうだ。
(見た目ではチェロに興味を持ったみたいだけど、実際に演奏を聴いてもらうのが一番よね)
私は演奏家の人たちに、まず一人ずつ演奏してもらえるようにお願いした。
最初はフルートの女性が演奏した。
綺麗な音色に、カイルも聞き入っている。
次はクラリネットの男性が演奏する。
フルートとはまったく異なる音に、カイルも驚いたようだった。
そして、バイオリンの女性、チェロの男性が演奏を終えた。
私自身も、ピアノ以外の楽器の演奏をこんなに間近で聴くのは初めてだった。
「奥様、よろしければ、全員で演奏してみましょうか?」
チェロの男性演奏家がそう提案してくれた。
「はい、ぜひお願いします」
楽器は、他の楽器と一緒に演奏することで、また違った音が楽しめる。
ソロの時にはなかった魅力が、合奏することで感じられるようになるのだ。
4人の演奏家が演奏してくれたのは、前世で聴いた「ハレルヤ」に似た曲だった。
この曲は、帝国の教会でも賛美歌として演奏されており、年に数回だけ参加するミサで毎回聴いていたものだ。
カイルは目を丸くしながら、演奏に聴き入っている。
演奏を終えた後は、私もカイルも、そして演奏に釣られて集まっていた使用人達も拍手をしていた。
「即興の演奏なのに、皆さん息がぴったりでしたね」
「はい、実は私たちは同じ楽団に所属していますので」
「そうだったんですね。素敵な演奏をありがとうございました」
「すごいねー、みんなかっこよかった」
「そうだね、かっこよかったね」
カイルはこの日にはどの楽器を習うのかを選べず、後日返事をすることにした。
「そうですか、カイルはやはり、チェロを習うことにしたのですね」
ベッドで私の髪に触れながら、ラウル様は納得したように言った。
「はい。楽器の大きさに惹かれたみたいで。あとは実際に演奏を聴いて、さらに好奇心をそそられたようです」
カイルとしてはかなり悩んだようだったが、最終的に「チェロを習いたい」と私に告げてきた。
「実は、兄もチェロを習っていたんですよ」
「そうだったんですね。さすが親子というか…あ、だから教師候補にチェロの方も入れていたんですね」
「はい。カイルならひょっとして…という気持ちもあったので」
今回の楽器の教師候補たちは、ラウル様が手配してくれたものだった。
最初はどうしてチェロが入っているのだろうと不思議だったけど、理由を聞いて納得した。
やはり血は争えないということなのだろう。
「いつかカイルと一緒に演奏できるように、私もいろんな曲を練習しておかないと」
「楽譜を取り寄せておきますよ」
「ありがとうございます」
プロの演奏家から指導を受けることになったカイルに、出所を明かせない楽曲の演奏を聴かせるわけにもいかない。
これもラウル様と相談して決めたことだ。
私が余計な疑いをかけられないよう、ラウル様が方々に気を遣ってくれているので安心できる。
(やっぱり…思い切って前世の話をしてみて良かった…)
もし話していなかったら、私やラウル様を貶めようとする人たちによって、私の普通とは異なる部分が利用されていた可能性もある。
「シャーレットさんが過去に覚えた曲は、私だけが聴けるようになりますね」
「はい。聴いてくれるなら、いつでも弾きますよ」
「では、次の休日にでも…」
髪を触っていたラウル様の手が、私の体を強く引き寄せた。
「あの…大丈夫ですか?」
帰りの馬車に乗り込んだ瞬間、私は心配になってラウル様に聞いた。
「カスパー公子の結婚式の件ですか?」
「はい…その、公子とは…」
「確かに昔酷い目に遭わされましたが、お互いに若い頃の話なので。向こうももう忘れているでしょう」
(たとえ公子の側が忘れていたとしても、ラウル様にとっては…)
「何か他に意図があるのかもしれませんが、その意図を確かめてみるのも良いかと思って」
「意図がありそうなら、なおさら心配です。やっぱり断りませんか?」
「大丈夫ですよ。確認してみたいこともあったので、ちょうど良かったです」
「でも…」
やっぱりどうしても不安が拭えなかった。
そんな私の不安を感じたのか、ラウル様の手が私の頬に触れてくる。
「心配いりません。本当に大丈夫です」
私は頬を撫でるラウル様の手に触れた。
「私、心配性過ぎますか?」
「心配してくれるその気持ちは、嬉しいですよ」
「何か計画があるのだとしても、無茶はしないでくださいね」
「もちろんです。あなたが側にいるのに、無茶なんてしません」
あまり不安になりすぎても仕方がない。
ラウル様には何か考えがあって受けたことだから、私は私に与えられた役割を果たそうと思った。
今日はカイルの今後の音楽教育のため、複数の演奏家たちが本邸に集められていた。
ラウル様と相談して、情操教育のために何か楽器を習わせることにしたのだ。
カイルはピアノを習いたいと言っていたのだけど、ピアノ以外にもさまざまな楽器があることを説明し、実際にその演奏を聴いてもらうことになった。
今日集まってくれた演奏家はラウル様が選んでくれた人たちで、楽器の指導も行える人たちばかり。
それぞれバイオリン、フルート、クラリネット、チェロを担当している。
楽器の中でカイルが興味を示したのは、一番大きなチェロだった。
カイルの体はまだ小さいのでチェロは無理かと思ったけれど、子ども用のサイズのものもあるので習うことができるそうだ。
(見た目ではチェロに興味を持ったみたいだけど、実際に演奏を聴いてもらうのが一番よね)
私は演奏家の人たちに、まず一人ずつ演奏してもらえるようにお願いした。
最初はフルートの女性が演奏した。
綺麗な音色に、カイルも聞き入っている。
次はクラリネットの男性が演奏する。
フルートとはまったく異なる音に、カイルも驚いたようだった。
そして、バイオリンの女性、チェロの男性が演奏を終えた。
私自身も、ピアノ以外の楽器の演奏をこんなに間近で聴くのは初めてだった。
「奥様、よろしければ、全員で演奏してみましょうか?」
チェロの男性演奏家がそう提案してくれた。
「はい、ぜひお願いします」
楽器は、他の楽器と一緒に演奏することで、また違った音が楽しめる。
ソロの時にはなかった魅力が、合奏することで感じられるようになるのだ。
4人の演奏家が演奏してくれたのは、前世で聴いた「ハレルヤ」に似た曲だった。
この曲は、帝国の教会でも賛美歌として演奏されており、年に数回だけ参加するミサで毎回聴いていたものだ。
カイルは目を丸くしながら、演奏に聴き入っている。
演奏を終えた後は、私もカイルも、そして演奏に釣られて集まっていた使用人達も拍手をしていた。
「即興の演奏なのに、皆さん息がぴったりでしたね」
「はい、実は私たちは同じ楽団に所属していますので」
「そうだったんですね。素敵な演奏をありがとうございました」
「すごいねー、みんなかっこよかった」
「そうだね、かっこよかったね」
カイルはこの日にはどの楽器を習うのかを選べず、後日返事をすることにした。
「そうですか、カイルはやはり、チェロを習うことにしたのですね」
ベッドで私の髪に触れながら、ラウル様は納得したように言った。
「はい。楽器の大きさに惹かれたみたいで。あとは実際に演奏を聴いて、さらに好奇心をそそられたようです」
カイルとしてはかなり悩んだようだったが、最終的に「チェロを習いたい」と私に告げてきた。
「実は、兄もチェロを習っていたんですよ」
「そうだったんですね。さすが親子というか…あ、だから教師候補にチェロの方も入れていたんですね」
「はい。カイルならひょっとして…という気持ちもあったので」
今回の楽器の教師候補たちは、ラウル様が手配してくれたものだった。
最初はどうしてチェロが入っているのだろうと不思議だったけど、理由を聞いて納得した。
やはり血は争えないということなのだろう。
「いつかカイルと一緒に演奏できるように、私もいろんな曲を練習しておかないと」
「楽譜を取り寄せておきますよ」
「ありがとうございます」
プロの演奏家から指導を受けることになったカイルに、出所を明かせない楽曲の演奏を聴かせるわけにもいかない。
これもラウル様と相談して決めたことだ。
私が余計な疑いをかけられないよう、ラウル様が方々に気を遣ってくれているので安心できる。
(やっぱり…思い切って前世の話をしてみて良かった…)
もし話していなかったら、私やラウル様を貶めようとする人たちによって、私の普通とは異なる部分が利用されていた可能性もある。
「シャーレットさんが過去に覚えた曲は、私だけが聴けるようになりますね」
「はい。聴いてくれるなら、いつでも弾きますよ」
「では、次の休日にでも…」
髪を触っていたラウル様の手が、私の体を強く引き寄せた。
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