10 / 10
第10話 誓いの朝(Promise in the Morning)
しおりを挟む
福岡に来て数日。
碧は退職を済ませ、フリーランスとしての新しい道を歩き出していた。
昼間は不動産会社を巡り、資料を抱えて街を歩く。知らない町並みに胸が高鳴り、そして少しだけ心細さも混じった。
涼介は碧が福岡に来ていることは知っていた。
けれど、退職したことや、部屋を探していることまではまだ伝えていない。
驚かせたかったのと、心配かけたくなかったのと、二つの理由がある。
夜になり、ようやく二人が合流したとき、碧は決心して口を開いた。
「……実は、仕事を辞めたんだ」
「え…聞いてないぞ」
涼介の顔が少しこわばる。
確かに、こんな大事なこと、言わなかったら不審に思うだろう。
「フリーランスになって、福岡に来ようと思ってる」
涼介の目が驚きに大きく見開かれる。
「この前、涼介“24時間監視していい”なんて言ってたろ? だったら福岡に来れば、それに近づけるかなって」
「なんで別々に住むんだ? 一緒に住めばいい」
思ってもみなかった言葉に、碧は一瞬、息を呑んだ。
「……いいの?」
震える声で問い返すと、涼介は迷いなく頷いた。
「むしろ安心だし、おまえの状況もちゃんと把握できる。俺はその方がいい」
堅く、誠実な言葉。
その響きに、胸の奥に張り付いていた不安がゆっくりと溶けていく。
「……じゃあ、これからは、一緒に」
碧の言葉に、涼介が力強く抱き寄せる。
その抱擁は、未来への約束そのものだった。
◆
夜の街は週末らしいざわめきに包まれていたが、二人きりになった部屋の中は不思議なほど静かだった。窓の外のネオンだけが、淡くシーツを染めている。
碧はベッドに腰を下ろし、隣にいる涼介を見上げる。
「これから一緒に暮らそう」――そう口にしたときの、彼の真剣な瞳が、まだ胸の奥で熱を放っていた。
涼介が碧の手を取り、指先にそっと口づける。それはまるで誓いのようで、碧の胸がじんわりと高鳴った。
「これからは、もう離れなくていい」
「……うん」
短い返事に、すべての想いを込める。
次の瞬間、唇が重なり、時間の感覚がゆっくりとほどけていった。
最初は、確かめるような優しい口づけだった。
けれど、離れていた時間と、これから共に過ごす未来への期待が、抑えきれない熱となって二人を包み込む。涼介の手が碧の背を辿り、シャツの中に滑り込むと、その指先の熱に碧の身体がびくりと震えた。
「……碧」
名前を呼ばれるだけで、身体の芯が蕩けていく。
その声に、どれほど待ちわびていたかが滲んでいて、胸がいっぱいになった。
服がはだけ、互いの素肌が触れ合う。激しさはない。けれど、涼介の指と唇は、まるで碧の身体の地図をなぞるように、ゆっくりと、執拗に進んでいく。耳朶を甘く噛み、首筋に吸い付き、鎖骨の窪みを舌でなぞる。その一つ一つの行為が、碧の身体に甘い痺れを広げていった。
「りょうすけ……っ、ん……」
焦らされるように、じっくりと快感を与え続けられる。碧がたまらず腰を揺らすと、涼介はそれを制するように囁いた。
「まだだ。おまえの全部、俺に教えて」
内腿をなぞられ、膝の裏を撫でられ、自分でも知らなかった場所が熱を持つ。思考が溶け、ただ涼介に与えられる快感だけがすべてになっていく。
やがて、準備が整った身体に、涼介の熱がゆっくりと沈み込んできた。隙間なく満たされる感覚に、碧は甲高い声を上げてシーツを握りしめる。
涼介の動きは、どこまでも丁寧だった。碧が最も感じる場所を確かめながら、深く、ゆっくりと突き上げる。その度に、碧の身体は弓なりにしなり、快感の波に溺れた。
遠距離の寂しさも、不安も、疑いも――そのすべてが、この熱に溶かされていく。一度果てても休ませてはもらえず、角度を変え、体勢を変え、夜が白み始めるまで、燃えるような切実さで何度も求め続けられた。
◆
翌朝。
ぼんやりと意識が浮上する。涼介の姿は隣になく、代わりにキッチンから小さな音と香ばしい匂いが漂ってきた。
身体を起こそうとした、その瞬間。
「……っつ……」
全身が甘く痺れるように重くて、ベッドが離してくれない。昨夜の熱がまだ身体の奥に残っているようだった。
「……おはよう」
「おはよう。もう少し寝てていいのに」
かろうじてベッドから這い出し、壁を伝ってリビングへ向かうと、エプロンをかけた涼介が振り返って笑った。
テーブルにはパンとサラダ、フライパンからは卵を焼く音が聞こえる。
「卵、どうする? スクランブルにする? それとも目玉焼き?」
「……目玉焼きで」
「了解。コーヒーとジュース、どっちがいい?」
「……コーヒーで」
まるでホテルのモーニングのようなやり取りに、思わず笑みがこぼれる。
「体力ありすぎだよ、涼介……。俺、もう指一本動かせないんだけど」
「碧は低血圧だし、無理しなくていい。今日は一日ゆっくりしてろ」
「低血圧以前の問題な気がする……」
苦笑しながらも、胸の奥は温かい幸福感で満たされていた。
これからも、きっとこうして甘やかされ続けるのだろう。
心配はある。主に体力的に。
(毎日、昨日みたいなのが続いたら…俺、体力持つかな…)
けれど――。
――こんなふうに甘やかされる日々が、これからも続いていく。そう思うと、少し照れくさいけれど、悪くない。
碧はそう思いながら、椅子に腰かけ、テーブルに並ぶ温かな朝食を幸せな気持ちで見つめた。
(涼介となら、どんな未来でもきっと大丈夫だ)
ーー完ーー
************
「君の声の残響で — Echoes of Your Voice」は今回で完結です。
ご愛読いただき、ありがとうございました!
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「誓いの朝(Promise in the Morning)」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
「誓いの朝(Promise in the Morning)」はこちら⇒ https://youtu.be/wN7ZcJDeMuk
碧は退職を済ませ、フリーランスとしての新しい道を歩き出していた。
昼間は不動産会社を巡り、資料を抱えて街を歩く。知らない町並みに胸が高鳴り、そして少しだけ心細さも混じった。
涼介は碧が福岡に来ていることは知っていた。
けれど、退職したことや、部屋を探していることまではまだ伝えていない。
驚かせたかったのと、心配かけたくなかったのと、二つの理由がある。
夜になり、ようやく二人が合流したとき、碧は決心して口を開いた。
「……実は、仕事を辞めたんだ」
「え…聞いてないぞ」
涼介の顔が少しこわばる。
確かに、こんな大事なこと、言わなかったら不審に思うだろう。
「フリーランスになって、福岡に来ようと思ってる」
涼介の目が驚きに大きく見開かれる。
「この前、涼介“24時間監視していい”なんて言ってたろ? だったら福岡に来れば、それに近づけるかなって」
「なんで別々に住むんだ? 一緒に住めばいい」
思ってもみなかった言葉に、碧は一瞬、息を呑んだ。
「……いいの?」
震える声で問い返すと、涼介は迷いなく頷いた。
「むしろ安心だし、おまえの状況もちゃんと把握できる。俺はその方がいい」
堅く、誠実な言葉。
その響きに、胸の奥に張り付いていた不安がゆっくりと溶けていく。
「……じゃあ、これからは、一緒に」
碧の言葉に、涼介が力強く抱き寄せる。
その抱擁は、未来への約束そのものだった。
◆
夜の街は週末らしいざわめきに包まれていたが、二人きりになった部屋の中は不思議なほど静かだった。窓の外のネオンだけが、淡くシーツを染めている。
碧はベッドに腰を下ろし、隣にいる涼介を見上げる。
「これから一緒に暮らそう」――そう口にしたときの、彼の真剣な瞳が、まだ胸の奥で熱を放っていた。
涼介が碧の手を取り、指先にそっと口づける。それはまるで誓いのようで、碧の胸がじんわりと高鳴った。
「これからは、もう離れなくていい」
「……うん」
短い返事に、すべての想いを込める。
次の瞬間、唇が重なり、時間の感覚がゆっくりとほどけていった。
最初は、確かめるような優しい口づけだった。
けれど、離れていた時間と、これから共に過ごす未来への期待が、抑えきれない熱となって二人を包み込む。涼介の手が碧の背を辿り、シャツの中に滑り込むと、その指先の熱に碧の身体がびくりと震えた。
「……碧」
名前を呼ばれるだけで、身体の芯が蕩けていく。
その声に、どれほど待ちわびていたかが滲んでいて、胸がいっぱいになった。
服がはだけ、互いの素肌が触れ合う。激しさはない。けれど、涼介の指と唇は、まるで碧の身体の地図をなぞるように、ゆっくりと、執拗に進んでいく。耳朶を甘く噛み、首筋に吸い付き、鎖骨の窪みを舌でなぞる。その一つ一つの行為が、碧の身体に甘い痺れを広げていった。
「りょうすけ……っ、ん……」
焦らされるように、じっくりと快感を与え続けられる。碧がたまらず腰を揺らすと、涼介はそれを制するように囁いた。
「まだだ。おまえの全部、俺に教えて」
内腿をなぞられ、膝の裏を撫でられ、自分でも知らなかった場所が熱を持つ。思考が溶け、ただ涼介に与えられる快感だけがすべてになっていく。
やがて、準備が整った身体に、涼介の熱がゆっくりと沈み込んできた。隙間なく満たされる感覚に、碧は甲高い声を上げてシーツを握りしめる。
涼介の動きは、どこまでも丁寧だった。碧が最も感じる場所を確かめながら、深く、ゆっくりと突き上げる。その度に、碧の身体は弓なりにしなり、快感の波に溺れた。
遠距離の寂しさも、不安も、疑いも――そのすべてが、この熱に溶かされていく。一度果てても休ませてはもらえず、角度を変え、体勢を変え、夜が白み始めるまで、燃えるような切実さで何度も求め続けられた。
◆
翌朝。
ぼんやりと意識が浮上する。涼介の姿は隣になく、代わりにキッチンから小さな音と香ばしい匂いが漂ってきた。
身体を起こそうとした、その瞬間。
「……っつ……」
全身が甘く痺れるように重くて、ベッドが離してくれない。昨夜の熱がまだ身体の奥に残っているようだった。
「……おはよう」
「おはよう。もう少し寝てていいのに」
かろうじてベッドから這い出し、壁を伝ってリビングへ向かうと、エプロンをかけた涼介が振り返って笑った。
テーブルにはパンとサラダ、フライパンからは卵を焼く音が聞こえる。
「卵、どうする? スクランブルにする? それとも目玉焼き?」
「……目玉焼きで」
「了解。コーヒーとジュース、どっちがいい?」
「……コーヒーで」
まるでホテルのモーニングのようなやり取りに、思わず笑みがこぼれる。
「体力ありすぎだよ、涼介……。俺、もう指一本動かせないんだけど」
「碧は低血圧だし、無理しなくていい。今日は一日ゆっくりしてろ」
「低血圧以前の問題な気がする……」
苦笑しながらも、胸の奥は温かい幸福感で満たされていた。
これからも、きっとこうして甘やかされ続けるのだろう。
心配はある。主に体力的に。
(毎日、昨日みたいなのが続いたら…俺、体力持つかな…)
けれど――。
――こんなふうに甘やかされる日々が、これからも続いていく。そう思うと、少し照れくさいけれど、悪くない。
碧はそう思いながら、椅子に腰かけ、テーブルに並ぶ温かな朝食を幸せな気持ちで見つめた。
(涼介となら、どんな未来でもきっと大丈夫だ)
ーー完ーー
************
「君の声の残響で — Echoes of Your Voice」は今回で完結です。
ご愛読いただき、ありがとうございました!
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「誓いの朝(Promise in the Morning)」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
「誓いの朝(Promise in the Morning)」はこちら⇒ https://youtu.be/wN7ZcJDeMuk
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜
なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。
そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。
しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。
猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。
契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。
だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実
「君を守るためなら、俺は何でもする」
これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は?
猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

