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第10話 誓いの朝(Promise in the Morning)
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福岡に来て数日。
碧は退職を済ませ、フリーランスとしての新しい道を歩き出していた。
昼間は不動産会社を巡り、資料を抱えて街を歩く。知らない町並みに胸が高鳴り、そして少しだけ心細さも混じった。
涼介は碧が福岡に来ていることは知っていた。
けれど、退職したことや、部屋を探していることまではまだ伝えていない。
驚かせたかったのと、心配かけたくなかったのと、二つの理由がある。
夜になり、ようやく二人が合流したとき、碧は決心して口を開いた。
「……実は、仕事を辞めたんだ」
「え…聞いてないぞ」
涼介の顔が少しこわばる。
確かに、こんな大事なこと、言わなかったら不審に思うだろう。
「フリーランスになって、福岡に来ようと思ってる」
涼介の目が驚きに大きく見開かれる。
「この前、涼介“24時間監視していい”なんて言ってたろ? だったら福岡に来れば、それに近づけるかなって」
「なんで別々に住むんだ? 一緒に住めばいい」
思ってもみなかった言葉に、碧は一瞬、息を呑んだ。
「……いいの?」
震える声で問い返すと、涼介は迷いなく頷いた。
「むしろ安心だし、おまえの状況もちゃんと把握できる。俺はその方がいい」
堅く、誠実な言葉。
その響きに、胸の奥に張り付いていた不安がゆっくりと溶けていく。
「……じゃあ、これからは、一緒に」
碧の言葉に、涼介が力強く抱き寄せる。
その抱擁は、未来への約束そのものだった。
◆
夜の街は週末らしいざわめきに包まれていたが、二人きりになった部屋の中は不思議なほど静かだった。窓の外のネオンだけが、淡くシーツを染めている。
碧はベッドに腰を下ろし、隣にいる涼介を見上げる。
「これから一緒に暮らそう」――そう口にしたときの、彼の真剣な瞳が、まだ胸の奥で熱を放っていた。
涼介が碧の手を取り、指先にそっと口づける。それはまるで誓いのようで、碧の胸がじんわりと高鳴った。
「これからは、もう離れなくていい」
「……うん」
短い返事に、すべての想いを込める。
次の瞬間、唇が重なり、時間の感覚がゆっくりとほどけていった。
最初は、確かめるような優しい口づけだった。
けれど、離れていた時間と、これから共に過ごす未来への期待が、抑えきれない熱となって二人を包み込む。涼介の手が碧の背を辿り、シャツの中に滑り込むと、その指先の熱に碧の身体がびくりと震えた。
「……碧」
名前を呼ばれるだけで、身体の芯が蕩けていく。
その声に、どれほど待ちわびていたかが滲んでいて、胸がいっぱいになった。
服がはだけ、互いの素肌が触れ合う。激しさはない。けれど、涼介の指と唇は、まるで碧の身体の地図をなぞるように、ゆっくりと、執拗に進んでいく。耳朶を甘く噛み、首筋に吸い付き、鎖骨の窪みを舌でなぞる。その一つ一つの行為が、碧の身体に甘い痺れを広げていった。
「りょうすけ……っ、ん……」
焦らされるように、じっくりと快感を与え続けられる。碧がたまらず腰を揺らすと、涼介はそれを制するように囁いた。
「まだだ。おまえの全部、俺に教えて」
内腿をなぞられ、膝の裏を撫でられ、自分でも知らなかった場所が熱を持つ。思考が溶け、ただ涼介に与えられる快感だけがすべてになっていく。
やがて、準備が整った身体に、涼介の熱がゆっくりと沈み込んできた。隙間なく満たされる感覚に、碧は甲高い声を上げてシーツを握りしめる。
涼介の動きは、どこまでも丁寧だった。碧が最も感じる場所を確かめながら、深く、ゆっくりと突き上げる。その度に、碧の身体は弓なりにしなり、快感の波に溺れた。
遠距離の寂しさも、不安も、疑いも――そのすべてが、この熱に溶かされていく。一度果てても休ませてはもらえず、角度を変え、体勢を変え、夜が白み始めるまで、燃えるような切実さで何度も求め続けられた。
◆
翌朝。
ぼんやりと意識が浮上する。涼介の姿は隣になく、代わりにキッチンから小さな音と香ばしい匂いが漂ってきた。
身体を起こそうとした、その瞬間。
「……っつ……」
全身が甘く痺れるように重くて、ベッドが離してくれない。昨夜の熱がまだ身体の奥に残っているようだった。
「……おはよう」
「おはよう。もう少し寝てていいのに」
かろうじてベッドから這い出し、壁を伝ってリビングへ向かうと、エプロンをかけた涼介が振り返って笑った。
テーブルにはパンとサラダ、フライパンからは卵を焼く音が聞こえる。
「卵、どうする? スクランブルにする? それとも目玉焼き?」
「……目玉焼きで」
「了解。コーヒーとジュース、どっちがいい?」
「……コーヒーで」
まるでホテルのモーニングのようなやり取りに、思わず笑みがこぼれる。
「体力ありすぎだよ、涼介……。俺、もう指一本動かせないんだけど」
「碧は低血圧だし、無理しなくていい。今日は一日ゆっくりしてろ」
「低血圧以前の問題な気がする……」
苦笑しながらも、胸の奥は温かい幸福感で満たされていた。
これからも、きっとこうして甘やかされ続けるのだろう。
心配はある。主に体力的に。
(毎日、昨日みたいなのが続いたら…俺、体力持つかな…)
けれど――。
――こんなふうに甘やかされる日々が、これからも続いていく。そう思うと、少し照れくさいけれど、悪くない。
碧はそう思いながら、椅子に腰かけ、テーブルに並ぶ温かな朝食を幸せな気持ちで見つめた。
(涼介となら、どんな未来でもきっと大丈夫だ)
ーー完ーー
************
「君の声の残響で — Echoes of Your Voice」は今回で完結です。
ご愛読いただき、ありがとうございました!
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「誓いの朝(Promise in the Morning)」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
「誓いの朝(Promise in the Morning)」はこちら⇒ https://youtu.be/wN7ZcJDeMuk
碧は退職を済ませ、フリーランスとしての新しい道を歩き出していた。
昼間は不動産会社を巡り、資料を抱えて街を歩く。知らない町並みに胸が高鳴り、そして少しだけ心細さも混じった。
涼介は碧が福岡に来ていることは知っていた。
けれど、退職したことや、部屋を探していることまではまだ伝えていない。
驚かせたかったのと、心配かけたくなかったのと、二つの理由がある。
夜になり、ようやく二人が合流したとき、碧は決心して口を開いた。
「……実は、仕事を辞めたんだ」
「え…聞いてないぞ」
涼介の顔が少しこわばる。
確かに、こんな大事なこと、言わなかったら不審に思うだろう。
「フリーランスになって、福岡に来ようと思ってる」
涼介の目が驚きに大きく見開かれる。
「この前、涼介“24時間監視していい”なんて言ってたろ? だったら福岡に来れば、それに近づけるかなって」
「なんで別々に住むんだ? 一緒に住めばいい」
思ってもみなかった言葉に、碧は一瞬、息を呑んだ。
「……いいの?」
震える声で問い返すと、涼介は迷いなく頷いた。
「むしろ安心だし、おまえの状況もちゃんと把握できる。俺はその方がいい」
堅く、誠実な言葉。
その響きに、胸の奥に張り付いていた不安がゆっくりと溶けていく。
「……じゃあ、これからは、一緒に」
碧の言葉に、涼介が力強く抱き寄せる。
その抱擁は、未来への約束そのものだった。
◆
夜の街は週末らしいざわめきに包まれていたが、二人きりになった部屋の中は不思議なほど静かだった。窓の外のネオンだけが、淡くシーツを染めている。
碧はベッドに腰を下ろし、隣にいる涼介を見上げる。
「これから一緒に暮らそう」――そう口にしたときの、彼の真剣な瞳が、まだ胸の奥で熱を放っていた。
涼介が碧の手を取り、指先にそっと口づける。それはまるで誓いのようで、碧の胸がじんわりと高鳴った。
「これからは、もう離れなくていい」
「……うん」
短い返事に、すべての想いを込める。
次の瞬間、唇が重なり、時間の感覚がゆっくりとほどけていった。
最初は、確かめるような優しい口づけだった。
けれど、離れていた時間と、これから共に過ごす未来への期待が、抑えきれない熱となって二人を包み込む。涼介の手が碧の背を辿り、シャツの中に滑り込むと、その指先の熱に碧の身体がびくりと震えた。
「……碧」
名前を呼ばれるだけで、身体の芯が蕩けていく。
その声に、どれほど待ちわびていたかが滲んでいて、胸がいっぱいになった。
服がはだけ、互いの素肌が触れ合う。激しさはない。けれど、涼介の指と唇は、まるで碧の身体の地図をなぞるように、ゆっくりと、執拗に進んでいく。耳朶を甘く噛み、首筋に吸い付き、鎖骨の窪みを舌でなぞる。その一つ一つの行為が、碧の身体に甘い痺れを広げていった。
「りょうすけ……っ、ん……」
焦らされるように、じっくりと快感を与え続けられる。碧がたまらず腰を揺らすと、涼介はそれを制するように囁いた。
「まだだ。おまえの全部、俺に教えて」
内腿をなぞられ、膝の裏を撫でられ、自分でも知らなかった場所が熱を持つ。思考が溶け、ただ涼介に与えられる快感だけがすべてになっていく。
やがて、準備が整った身体に、涼介の熱がゆっくりと沈み込んできた。隙間なく満たされる感覚に、碧は甲高い声を上げてシーツを握りしめる。
涼介の動きは、どこまでも丁寧だった。碧が最も感じる場所を確かめながら、深く、ゆっくりと突き上げる。その度に、碧の身体は弓なりにしなり、快感の波に溺れた。
遠距離の寂しさも、不安も、疑いも――そのすべてが、この熱に溶かされていく。一度果てても休ませてはもらえず、角度を変え、体勢を変え、夜が白み始めるまで、燃えるような切実さで何度も求め続けられた。
◆
翌朝。
ぼんやりと意識が浮上する。涼介の姿は隣になく、代わりにキッチンから小さな音と香ばしい匂いが漂ってきた。
身体を起こそうとした、その瞬間。
「……っつ……」
全身が甘く痺れるように重くて、ベッドが離してくれない。昨夜の熱がまだ身体の奥に残っているようだった。
「……おはよう」
「おはよう。もう少し寝てていいのに」
かろうじてベッドから這い出し、壁を伝ってリビングへ向かうと、エプロンをかけた涼介が振り返って笑った。
テーブルにはパンとサラダ、フライパンからは卵を焼く音が聞こえる。
「卵、どうする? スクランブルにする? それとも目玉焼き?」
「……目玉焼きで」
「了解。コーヒーとジュース、どっちがいい?」
「……コーヒーで」
まるでホテルのモーニングのようなやり取りに、思わず笑みがこぼれる。
「体力ありすぎだよ、涼介……。俺、もう指一本動かせないんだけど」
「碧は低血圧だし、無理しなくていい。今日は一日ゆっくりしてろ」
「低血圧以前の問題な気がする……」
苦笑しながらも、胸の奥は温かい幸福感で満たされていた。
これからも、きっとこうして甘やかされ続けるのだろう。
心配はある。主に体力的に。
(毎日、昨日みたいなのが続いたら…俺、体力持つかな…)
けれど――。
――こんなふうに甘やかされる日々が、これからも続いていく。そう思うと、少し照れくさいけれど、悪くない。
碧はそう思いながら、椅子に腰かけ、テーブルに並ぶ温かな朝食を幸せな気持ちで見つめた。
(涼介となら、どんな未来でもきっと大丈夫だ)
ーー完ーー
************
「君の声の残響で — Echoes of Your Voice」は今回で完結です。
ご愛読いただき、ありがとうございました!
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「誓いの朝(Promise in the Morning)」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
「誓いの朝(Promise in the Morning)」はこちら⇒ https://youtu.be/wN7ZcJDeMuk
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