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第二章 さようなら過ぎ去った日よ
第8話「歯の丈夫な者にはパンはなく、パンのある者には歯がない」
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俺の予想通り、奴らは廃墟にて別の仲間と落ち合っていた。
手口の粗さを見る限り、背後に組織があるとは考えにくい。特に後ろ盾のない、そこら辺の賊と見て良いだろう。
「捕らえるぞ」
フェルディナンドは涼しい顔で言い切ると、「魔弾」の準備を始める。
そのまま俺の返事を待つことなく、廃墟の一室にて魔弾の猛攻が始まった。
「ぎゃあっ!!」
「なんだ!?」
「魔弾!? ど、どこか……らぁッ!」
5~6人いた賊のうち半数は初手の一発で倒れ、残りも体勢を立て直す間もなく次弾を食らって総崩れとなった。
威力も精度もキレッキレだ。さすがはエリート将校様ってところか………。
「新兵。捕縛を」
「おう……じゃなかった。『はい 』!」
くそ。良いとこ見せてやる気でいたのに、全然出る幕がなかった。
強すぎだろツバメちゃん……。
「……なぁ、見逃してくれよ。俺達にゃ金が必要なんだ……」
お縄につきながら、賊の一人が泣き出しそうな声で言う。
「貴様らが襲った飲食店とて、金が必要であることに変わりはない」
「ケッ、あれぐらいの高級店なら、ちょっとぐらい壊されたって痛くも痒くもねぇさ! 俺らは明日にも飢え死にするかもしれねぇ身だ。……育ちの良さそうな兄ちゃんにゃ、こんなこと分からねぇだろうがな!」
……ま、正直なところ、賊どもの気持ちも分からなくはねぇ。
奴らの服装は薄汚く、ところどころが継ぎ接ぎになっている。対して、フェルディナンドの服装は生地の質からして丸っきり違う。
この世界は理不尽だ。持つ者と、持たざる者が残酷なまでにハッキリしてる。
フェルディナンドは「持つ者」の側だ。
……少なくとも、何も知らねぇ奴が見ればそう見える。
フェルディナンドは黙って彼らを見下ろし、「そうか」とだけ呟いた。
「将校」の仮面に、一瞬だけ亀裂が入る。
「そうまでして、生きたいものか」
「はぁ!? 当たり前だろ!」
「生きることは、そんなにも魅力的か」
「あぁ? 何言ってやがんだ……?」
「……いや、何でもない」
賊たちは、揃って怪訝そうにフェルディナンドを睨みつける。
……確かに、奴らのギラギラした瞳には生への執着がある。酒や美味い飯が目の前にあれば、たとえ安物でも喜んで食らいつくだろう。
フェルディナンドは金や食うものって意味では生きることには困らないだろうが、生きる喜びを知ってるようには見えない。……むしろ、死に行くことに意味を見出している。
そういう意味では……フェルディナンドだって、別の意味で「持たざる者」……なの、か……?
……その瞬間だった。
賊のひとりが隙をつき、フェルディナンドの胸元に頭突きを食らわせる。辺りに何やら粉塵をまき散らし、縄から抜けようとするが、フェルディナンドは歯を食いしばって足を踏ん張り、相手の関節を外した。
ごきっ、と、嫌な音がする。
「うがぁああっ!!」
賊の絶叫がこだまする。
捕縛のために麻痺系の魔術を使おうとして、辺りに舞う粉塵が俺の「魔力」を吸っていることに気付いた。「裏」の方で時折見かけるブツだ。どっかの闇市で手に入れたんだろう。
「……魔術封じか。急襲の方に対応されてたら、厄介でしたね」
仕方がないので、縄の方を更に厳重にしておく。
「……ああ」
フェルディナンドは息を切らせつつ、青い顔で答えた。……さっきの頭突き、そんなに威力あったのか?
具合を尋ねるより前に、部屋の外から足音がする。……衛兵が駆け付けてきたんだろう。
「……ッ、あと、は……彼らに……任せる……」
右胸を押さえ、フェルディナンドは苦しげに呟く。
そのままふらつく足取りで、廃墟の外へと向かった。
嫌な予感がして、追いかける。
すれ違った衛兵に「あの部屋に捕まえてるんで!」とだけ伝え、フェルディナンドの方に走り寄った。
フェルディナンドはふらつく足取りでどうにか数歩だけ歩いたものの、やがて、右胸を押さえて蹲る。
慌てて助け起こし、「どうした!?」と声をかけた。
「……はぁ、は……っ、……ッ……」
「お、おい……」
苦しげな息を漏らし、顔色はさっきにも増して真っ青だ。
い、いったい、どうしちまったんだ……?
……あの頭突き……いや、もしかして粉塵の方……か……?
「あに……うえ、に……」
「兄貴……ってことは、フェデリコのところに連れてきゃ良いのか……!?」
俺の言葉に、フェルディナンドは弱々しく頷く。
何が何やら分からねぇが、急ぐ事態なのは間違いねぇ。血の気の失せた身体を担ぎ上げ、全力で走った。
……かつて、俺と俺の親父が「庭師」として勤めていた屋敷。
フェルディナンドの生家へと……
***
さようなら、過ぎ去った日よ。
楽しく美しい夢よ。
薔薇色の頬は青ざめた。
あなたの愛はここにない。疲れた魂の慰めであり、私の支えであったのに……
神よ。道を踏み外した私の願いを聞いてください。
どうか、赦しをください。
あなたの元へとお迎えください……
──歌劇「椿姫」。第三幕より抜粋。
手口の粗さを見る限り、背後に組織があるとは考えにくい。特に後ろ盾のない、そこら辺の賊と見て良いだろう。
「捕らえるぞ」
フェルディナンドは涼しい顔で言い切ると、「魔弾」の準備を始める。
そのまま俺の返事を待つことなく、廃墟の一室にて魔弾の猛攻が始まった。
「ぎゃあっ!!」
「なんだ!?」
「魔弾!? ど、どこか……らぁッ!」
5~6人いた賊のうち半数は初手の一発で倒れ、残りも体勢を立て直す間もなく次弾を食らって総崩れとなった。
威力も精度もキレッキレだ。さすがはエリート将校様ってところか………。
「新兵。捕縛を」
「おう……じゃなかった。『はい 』!」
くそ。良いとこ見せてやる気でいたのに、全然出る幕がなかった。
強すぎだろツバメちゃん……。
「……なぁ、見逃してくれよ。俺達にゃ金が必要なんだ……」
お縄につきながら、賊の一人が泣き出しそうな声で言う。
「貴様らが襲った飲食店とて、金が必要であることに変わりはない」
「ケッ、あれぐらいの高級店なら、ちょっとぐらい壊されたって痛くも痒くもねぇさ! 俺らは明日にも飢え死にするかもしれねぇ身だ。……育ちの良さそうな兄ちゃんにゃ、こんなこと分からねぇだろうがな!」
……ま、正直なところ、賊どもの気持ちも分からなくはねぇ。
奴らの服装は薄汚く、ところどころが継ぎ接ぎになっている。対して、フェルディナンドの服装は生地の質からして丸っきり違う。
この世界は理不尽だ。持つ者と、持たざる者が残酷なまでにハッキリしてる。
フェルディナンドは「持つ者」の側だ。
……少なくとも、何も知らねぇ奴が見ればそう見える。
フェルディナンドは黙って彼らを見下ろし、「そうか」とだけ呟いた。
「将校」の仮面に、一瞬だけ亀裂が入る。
「そうまでして、生きたいものか」
「はぁ!? 当たり前だろ!」
「生きることは、そんなにも魅力的か」
「あぁ? 何言ってやがんだ……?」
「……いや、何でもない」
賊たちは、揃って怪訝そうにフェルディナンドを睨みつける。
……確かに、奴らのギラギラした瞳には生への執着がある。酒や美味い飯が目の前にあれば、たとえ安物でも喜んで食らいつくだろう。
フェルディナンドは金や食うものって意味では生きることには困らないだろうが、生きる喜びを知ってるようには見えない。……むしろ、死に行くことに意味を見出している。
そういう意味では……フェルディナンドだって、別の意味で「持たざる者」……なの、か……?
……その瞬間だった。
賊のひとりが隙をつき、フェルディナンドの胸元に頭突きを食らわせる。辺りに何やら粉塵をまき散らし、縄から抜けようとするが、フェルディナンドは歯を食いしばって足を踏ん張り、相手の関節を外した。
ごきっ、と、嫌な音がする。
「うがぁああっ!!」
賊の絶叫がこだまする。
捕縛のために麻痺系の魔術を使おうとして、辺りに舞う粉塵が俺の「魔力」を吸っていることに気付いた。「裏」の方で時折見かけるブツだ。どっかの闇市で手に入れたんだろう。
「……魔術封じか。急襲の方に対応されてたら、厄介でしたね」
仕方がないので、縄の方を更に厳重にしておく。
「……ああ」
フェルディナンドは息を切らせつつ、青い顔で答えた。……さっきの頭突き、そんなに威力あったのか?
具合を尋ねるより前に、部屋の外から足音がする。……衛兵が駆け付けてきたんだろう。
「……ッ、あと、は……彼らに……任せる……」
右胸を押さえ、フェルディナンドは苦しげに呟く。
そのままふらつく足取りで、廃墟の外へと向かった。
嫌な予感がして、追いかける。
すれ違った衛兵に「あの部屋に捕まえてるんで!」とだけ伝え、フェルディナンドの方に走り寄った。
フェルディナンドはふらつく足取りでどうにか数歩だけ歩いたものの、やがて、右胸を押さえて蹲る。
慌てて助け起こし、「どうした!?」と声をかけた。
「……はぁ、は……っ、……ッ……」
「お、おい……」
苦しげな息を漏らし、顔色はさっきにも増して真っ青だ。
い、いったい、どうしちまったんだ……?
……あの頭突き……いや、もしかして粉塵の方……か……?
「あに……うえ、に……」
「兄貴……ってことは、フェデリコのところに連れてきゃ良いのか……!?」
俺の言葉に、フェルディナンドは弱々しく頷く。
何が何やら分からねぇが、急ぐ事態なのは間違いねぇ。血の気の失せた身体を担ぎ上げ、全力で走った。
……かつて、俺と俺の親父が「庭師」として勤めていた屋敷。
フェルディナンドの生家へと……
***
さようなら、過ぎ去った日よ。
楽しく美しい夢よ。
薔薇色の頬は青ざめた。
あなたの愛はここにない。疲れた魂の慰めであり、私の支えであったのに……
神よ。道を踏み外した私の願いを聞いてください。
どうか、赦しをください。
あなたの元へとお迎えください……
──歌劇「椿姫」。第三幕より抜粋。
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