19 / 57
序章 その物語について
0-14. クロード・ブラン著『文学における分岐点』より
しおりを挟む
……さて、次の作品の「分岐」は奇妙なものだ。
『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』
著者名は、ラルフ・アンドレア、シエル、ミシェル
編者名に、ミシェルとカーク
初版本とされるものは見つかっていないが、当時の音楽家セルジュ・グリューベル(執筆に参加していたという説もある)の日記の記述からそう推測されている。
異説としてラルフ・アンドレアでなくルディ・ミヒャルケ(聖ミヒャルケ修道院に残されたルイ=フランソワ伯爵の手紙にはそう書かれている)であったり、ミシェルではなくレヴィだのカルロスだのイヴァンであったり(もっとも彼の場合どの文献でも名前に整合性がなく、ある登場人物のモデルだと非常にわかりやすい)といったものもある。
初版の発売年が曖昧だが、当然ながら初の英訳版である1869年発売のジョージ・ハーネス版よりは少なくとも前だろう。
いまいち知られていない作品であるとかパッとしない文学としての評価はさておき、この作品はAndleta-Ⅲ以降、大きく「分岐」する。
先述のジョージ・ハーネス版と、1872年のアルマン・ベルナールド版(こちらはドイツ語訳)でそれ以降の物語が大きく異なるのだ。
先日、日本の古書店で赤松治五郎氏という聞き慣れない人物の日本語訳を目にしたが、何とAndleta-Ⅲまでで終了していた。さらに最後の1ページには原典不明の記述があり、読み取りにくい文字ではあったが、何とか解読してみた。
フランス語で、
「1848/2/24 パリより火急の報せあり」
赤松氏のオリジナルとも思われたが、どうにも無視はできない。そこで、一つの推論を立ててみた。
この物語は、本来は完成する前に、革命という大きな波に飲み込まれたのではないか、と。
赤松氏が訳した版の中には、アルマン・ベルナールド版にしかない「note-Palomarita」(もっとも、こちらは乱丁、または誤って挿入されたページの可能性が高い)の項目とジョージ・ハーネス版にしかない「Pause-Corvo」の項目がどちらも存在するため、分岐点で筆を放棄した可能性もないことにはないが……
何はともあれ、こうなってしまった以上気になるのは本来の作者たちがどのような結末を書こうとしていたか、という点である。
趣味でこうした本を執筆している身だが、一応物書きの端くれとしては気になって仕方がない。
知人の小説家、花野紗和氏もそうであったらしく、取材をするために悲願だったらしいパリへの滞在を決めたようだ。……大した気概であるため、彼女の本が出た時はぜひ、とここでごまをすっておこう。
『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』
著者名は、ラルフ・アンドレア、シエル、ミシェル
編者名に、ミシェルとカーク
初版本とされるものは見つかっていないが、当時の音楽家セルジュ・グリューベル(執筆に参加していたという説もある)の日記の記述からそう推測されている。
異説としてラルフ・アンドレアでなくルディ・ミヒャルケ(聖ミヒャルケ修道院に残されたルイ=フランソワ伯爵の手紙にはそう書かれている)であったり、ミシェルではなくレヴィだのカルロスだのイヴァンであったり(もっとも彼の場合どの文献でも名前に整合性がなく、ある登場人物のモデルだと非常にわかりやすい)といったものもある。
初版の発売年が曖昧だが、当然ながら初の英訳版である1869年発売のジョージ・ハーネス版よりは少なくとも前だろう。
いまいち知られていない作品であるとかパッとしない文学としての評価はさておき、この作品はAndleta-Ⅲ以降、大きく「分岐」する。
先述のジョージ・ハーネス版と、1872年のアルマン・ベルナールド版(こちらはドイツ語訳)でそれ以降の物語が大きく異なるのだ。
先日、日本の古書店で赤松治五郎氏という聞き慣れない人物の日本語訳を目にしたが、何とAndleta-Ⅲまでで終了していた。さらに最後の1ページには原典不明の記述があり、読み取りにくい文字ではあったが、何とか解読してみた。
フランス語で、
「1848/2/24 パリより火急の報せあり」
赤松氏のオリジナルとも思われたが、どうにも無視はできない。そこで、一つの推論を立ててみた。
この物語は、本来は完成する前に、革命という大きな波に飲み込まれたのではないか、と。
赤松氏が訳した版の中には、アルマン・ベルナールド版にしかない「note-Palomarita」(もっとも、こちらは乱丁、または誤って挿入されたページの可能性が高い)の項目とジョージ・ハーネス版にしかない「Pause-Corvo」の項目がどちらも存在するため、分岐点で筆を放棄した可能性もないことにはないが……
何はともあれ、こうなってしまった以上気になるのは本来の作者たちがどのような結末を書こうとしていたか、という点である。
趣味でこうした本を執筆している身だが、一応物書きの端くれとしては気になって仕方がない。
知人の小説家、花野紗和氏もそうであったらしく、取材をするために悲願だったらしいパリへの滞在を決めたようだ。……大した気概であるため、彼女の本が出た時はぜひ、とここでごまをすっておこう。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる