【完結済】『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』

譚月遊生季

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第一章 少年の日々

0-16.『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』より「Strivia-Ⅲ」

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ジョージ・ハーネス版



***



 その日は朝から騒がしかった。
 城門にもたれかけるように棄てられていた「それ」を見下ろしながら、賢者は静かに佇んでいる。表情は伺えない。

「……お前が「そっち」側になるたぁ、運命ってのはわからねぇもんだ」

 血に濡れた髪は、亜麻色。
 既に光を失った瞳は、翠色。

「…………で、どうすんだ参謀さん?」
「本来なら、私が関与すべきことではない。……今回は事情が少し違う。野次馬は疾くと去れ」

 淡々と告げつつ、黒髪の青年は死体の目を閉じる。

「……王政府への挑発だろう。……「裏切り者」……か……」

 ずたずたに切り裂かれた喉笛の下、刻みつけるようにその文字は彫られていた。

「やり口からしてチンピラのやりそうなこった。もっと上手くやりゃあ、お前さんあたりの仕業にもできたろうにな?」

「自分ならそうする」と言わんばかりの口調に憤ったのか、銀の瞳がきつく相手を睨みつける。

「……ダチだと今でも思ってるよ。つっても、俺のダチは何人も死んできたけど?」

 軽い口調でも、そこには確かな悲哀があった。

「…………身元は分かっている。アンドレータ家の放蕩息子……ルシオだろう」
「へぇ、本名そんな感じか。ま、確かに育ちは良さそうだったわな」

 押し寄せる野次馬を必死に制するカークの泣き言が、大衆の噂話にかき消されていく。
 ルマンダは溜息をつきながら立ち上がった。

「……どちらを選ぶ?」
「何の話だよ? 俺は単に王様に気に入られただけのーー」
「王か、かつての仲間か、という意味だ」

 凍てついた声色は、返答を間違えた先の末路を如実に示していた。
 それでも平然と、レヴィは笑う。

「さぁ? その時によるんじゃねぇの?」
「…………気楽な男だな」

 無論、ルマンダも気づいているだろう。
 それが本気であることに。

 彼の刹那的……いや、無責任な生き方を、とうに彼も知っている。
 何も背負わず、だからこそ何も得ず、己の死すらも厭わない。

 それでも、自分の好きなように生きられる男だと、
 私も、ルマンダも知っている。

「……さて、死体の処理は他の者に任せる。……キサマも、どこで手に入れたか知らんが盗品なら返しておけ」
「あぁこの甲冑? そこらの女優さん口説いて借りた小道具だよ。ちゃっちいけど、遠目からなら分かんねぇだろ?」
「……本当に自由な男だ」
「そう見えてんなら光栄です」

 チェロは、ソーラは、悲しむだろうか。
 感傷を塗り替えていくかのように、強い懸念がじわりじわりと広がっていく。

 嗚呼、あの戦士を止める者は、もうあの場に存在しない。
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