【R18】堕ちた神父と血の接吻【完結済】

譚月遊生季

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第一章 彷徨の秋

第4話「救いをください」

 教会の生き残りは、もう神父様だけだった。
 その神父様も胸と腹を何ヶ所も刺されていて、学のないオレが見ても致命傷だとわかった。

 必死で抱き上げて、医者に診せようと走って、こんな時間じゃどこも開いていないことに気が付いた。
 オレは医者になんてかかったことがないから、場所なんかも全然わからねぇし。
 半泣きになりながら、ねぐらにしてた廃墟に運んだ。革命や戦争が相次いだから廃墟はそこかしこにあって、オレがねぐらにしてたのも貴族の元別邸かなんかだったと思う。

「神父様……神父様、頑張ってください!」

 息も絶え絶えな神父様の手を握って、声をかけ続けた。
 神父様の顔はすっかり血の気が失せていて、途切れ途切れの吐息すら既に消えかけていた。

「とどめを……」

 やがて、神父様は、か細い声でそう願った。
 光を失った瞳は、虚空こくうを見つめていた。目の前にいるのがオレだってことも、たぶん、わかっていなかったと思う。
 身体も心も弄ばれた挙句、死を迎えるのも時間の問題で……いっそ楽にして欲しいって気持ちが、握った手から痛いほど伝わってくる。

 だけど、オレはできなかった。
 生きるためにあれだけ命を奪ってきたのに、神父様の首に手をかけた瞬間、震えが止まらなくなったんだ。



 夜が明けて来た頃、オレは医者を探しに外に飛び出した。結局見つからなくて、果物をいくつか盗んでねぐらに帰った。

 その時、神父様は、もう息をしていなかった。

 動かなくなった神父様の横で、どれだけの時間を過ごしたかは覚えていない。
 神父様は「死体」になっても相変わらず綺麗で……せきを切ったように感情が溢れ出して、涙が止まらなかった。

 ……そうだな。色んな感情が溢れ出したよ。
 好きだった、助けたかった、失いたくなかった。そういう綺麗な感情だけじゃなく……本当に今でも最低だと思うんだが……オレも神父様を抱きたかった、アイツらの汚ぇ精液を掻き出してオレのをぶち込みたいって感情も一緒に出てきた。

 まあ、うん、抱いたよ。その時のことは今でも罵られるし、罵られて当然だとオレも思う。
 屍姦ってやつだろうし……いや、仮死状態? だったのかもしれないんだけどさ。
 ピクリとも動かない神父様の上にまたがって、血とか精液とかで既に濡れていた穴に突っ込んだ。当然腰を振っても反応はなかったし、消えそうな温もりに涙を流しつつ、青ざめた唇にキスをした。
 初めて入った神父様のナカは、めちゃくちゃ気持ち良かった。……ごめんな、神父様。

 一通り出し終えたオレが自己嫌悪で沈んでた時、突然、神父様の指先が動いた。
 ……で、オレの腕を凄い力で掴んで、ガブッと噛み付いたんだ。

 正直、めちゃくちゃ興奮した。あの、落ち着いた綺麗な人が、髪を振り乱してオレの腕を噛んだんだぜ? 動物みたいに噛み付いて、血を啜ったんだ。なんか吸われたところもすごく気持ちよかったし、欲望を出し切ったはずなのにまた元気になりかけた。
 びっくりしていると、真っ赤に染まった瞳と目が合って、苦しそうに呻く神父様がまたもう……とんでもなく股間にキちまって……
 どうにも、その時の神父様は食欲に取り憑かれてたらしく、意識が朦朧もうろうとしてたっぽい。ちょっとだけ血を吸ってもらって、どさくさに紛れて下に溜まった方を口の中に出した。美味しそうに飲んでたから、別に血じゃなくても良いって知ったんだよな。

 ……で、日がちゃんと昇ってから医者に連れて行った。

「傷は浅かったようですね。コンラート神父だけでもご無事で、本当に良かったです」
「あ、浅い……?」
「ええ。もう、治りかけていますよ」

 医者の言葉がオレにゃちょっと信じられなくて、包帯の下を確認したら、あれだけ酷かった傷はほとんど「傷痕」になっていた。

 神父様はしばらく呆然としていて、心ここにあらずって感じだった。もちろん、オレの血を飲んだこととか、俺も含め色んなヤツらに犯されたこととかは医者には黙っておいた。
 教会に帰ろうとすると、神父様は太陽の光をやたらと嫌がった。後から確認すると、強い日光が当たった場所が火傷みたいに腫れてたのを覚えてる。
 本人はどうやら心当たりがあったらしく、「……祖父と、同じ……」とかなんとか呟いてた。
 太陽光が苦手になって、傷の治りが早くなって、人の血を欲するようになって……その症状、オレは知らなかったけど、「吸血鬼」って怪物と同じなんだってな。

 その後の神父様は、十字架を握り締めて「私は十字架を恐れません」だとか、鏡を眺めて「しっかり映っています」だとか、しきりに確認していた気がする。
 日に日にやつれていくのが心配で、毎日会いに行った。オレは盗みしかできねぇから、どうやったら元気になってもらえるのか分からなくて……吸血衝動に襲われる神父様を抱き締めたり、自分の血を飲ませたりすることしかできなかった。

 ……結論を言うと、神父様は襲撃に遭った教会を再興することも、別の教会に行くこともできなかった。
 事件をきっかけに、神父様は上手く人と関われなくなったし、その場にへたり込んだり吐いたりしてしまうことが頻繁に起こった。
 何より悲惨だったのは、吸血衝動だ。……そもそも身体の造りが変わってしまったのに、いつまでも隠し通せるわけがねぇ。
 以前のように振る舞えなくなった神父様を、周りの聖職者たちは憐れまず、怪しんだ。

 なんでも、神父様の祖父じいさんも「吸血鬼」だったんだと。

 そのせいで神父様は、自らの神を信じたまま、同じ神を信じる組織から追われる身となった。
「神父コンラート」ではなく、「血を啜る怪物」として。
 オレはそんな神父様の手を引いて、二人で逃げることを選んだ。

「大丈夫です。オレが護りますから!」

 オレがそう言うと、神父様は俯いて、小さく唇を噛んだ。

「……愚かな」

 ……それだけ、呟いたのを覚えてる。
 その時には、オレが笑いかけても、神父様は笑ってくれなくなっていた。



 オレは神父様の身体が怪物になってたとしても、神父様の心が傷ついて歪んでいたとしても構いはしない。
 かつてオレは、確かに「神父コンラート」に救われたんだから。

 元からどん底のオレには、今の神父様のがお似合いだしな。
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