【R18】堕ちた神父と血の接吻【完結済】

譚月遊生季

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第一章 彷徨の秋

第5話「我が身はさまよう」

 飯はいつも、神父様が作ってくれる。
 日が照ってるうちは辛いだろうに、いつの間にか先に起きていて、拠点にかまどがない時は焚き火でもして、それなりにちゃんとしたものを用意する。……っていうより、オレみたいに「何もない時は我慢する」とか、「食えそうな草を生でかじる」とか、そういう選択肢がハナからないらしい。……そのうち、オレも作るの覚えなきゃな。

 オレは、飯をテーブルで食うのが慣れないから床で食うんだけど……神父様はそれが信じられないみたいで、いつもドン引きした視線を向けられる。うーん、育ちの差。
 あの綺麗な顔で見下されるのも、嫌いじゃねぇんだけどさ。

「着席して食え。さもなくばパンすら与えんぞ」

 毎回コレ言われるけど、床のが楽なんだよなぁ。
 なんか慣れねぇんだよ。ちゃんとしたとこで座るの。

「神父様ぁー、憐れみの心ってのを忘れたんですか?」
「……妙な知識ばかりつけたな、貴様は……」
「弱き者を憐れみ施しを与える心は、どこに行っちまったんです?」
「貴様のどこが『弱き者』だ。毎晩の様子をかえりみてから言え」

 グラスに注いだ血を飲み干し、神父様は不機嫌そうにそっぽを向く。
 昔と比べて刺々しい態度は増えたけど、それはそれで悪くない。ベッドの上じゃ見る影もなくトロトロになってるから、余計にイイ。

「毎晩……確かに、神父様の方が組み敷かれて鳴かされ」
「な……っ、私の話は関係なかろう」
「えっ、どう考えても関係あるだろ!? 毎晩ヒィヒィ言わされてるのは神父様の方とか、そういう話の流れっしょ、今の」
「……この話はやめておくか」

 自分から墓穴を掘っておいて、神父様は咳払いをして誤魔化した。
 焼き付いた陵辱の記憶を、快楽で上書きして忘れてしまいたい。……いつかの晩に、そんな感じのことを言ってた気がする。傷を抉りたいわけじゃねぇし、下手に突っつくのはやめとこ。

「早く座るがいい。あと、スープを飲む時はさじを使え」
「へいへい……」

 意地を張っても仕方ないので、重い腰を持ち上げて椅子に座る。
 神父様の方を見ると、指を組んで祈りを捧げていた。……こういう習慣は、あんなことがあっても忘れていないらしい。
 そうやってボロボロに傷ついた心を無理やり隠して、平気なフリをしている。
 ほんとに、健気で愛らしい人だ。

「で、今んとこ……ほんとに無いんですか? 神罰」

 ちょっと気になったので、聞いてみる。

「心当たりはない」
「気付いてなかったりとかは?」
「かつての仕打ちに比べれば、何か『罰』を受けたとは一切感じない」
「……そう……っす、ね……」

 かつての神父様は、ただただ敬虔けいけんに神に仕えていたし、神の言葉を忠実に守っていたように思う。
 そんな神父様に降りかかった災難は、「試練」の域を大きく超えていた。
 ……それこそ、信仰自体が揺らいでしまってもおかしくないくらいには。

「いっそ、信じるのやめちまったらどうです?」
「黙れ」
「一蹴かぁ……」

 ずるいなぁ、神様は。
 何もしてねぇのに、むしろ酷いことばっかしやがったのに、神父様にこんだけ想ってもらっててさ。妬けちまうよ。

「あ、そうだ。そろそろ拠点変えないとかもです」
「……仕方あるまい」

 引越しの話を切り出すと、神父様は静かに頷く。
 ここに来てからもう三人も片付けたし、本人もよく分かっているんだろう。

「教会のある屋敷、また探しときますね」
「小規模な礼拝堂で構わな……いや、区別がつかないのか」
「とりあえず祈れるとこあったらいいんすよね?」
「……まあ、そうだな」

 色々と勉強したにはしたけど、細かいことはまだよく分からねぇ。
 骨董品店から像を盗んでくることも考えたけど、伝えたら怒られた。殺しは黙認するくせに、盗みはダメなのかよ。

「酒が残されてる屋敷、どっかにねぇかなぁ。神父様、ベロンベロンに酔うくせに酒好きだし」

 オレの言葉に、神父様は顔を赤くして反論する。

「ま、前はそこまで弱くなかったのだ……!!」
「それ、単に飲んでなかっただけっしょ」
「ち……違う! 聖餐せいさんの際に酔ったことなど一度もなかった……!」
「せいさん? あー、これは主がオレらのために流した血とか言ってワイン飲むやつか」

 そもそも、酒だろうが食い物だろうが家財道具だろうが、一切合切持ってかれた後だろうけどな。
 壊された屋敷から何か持ってくのなんて、盗賊じゃなくても気軽にできるだろうし。
 ……それはそうとして、酒は買うのも高いし盗むにも重いから、地下とかに残ってたら超助かる。

「オレはさぁ、神父様が酒飲むの、むしろ良いことだと思ってんですよ。酔ってる神父様、めちゃくちゃエロいんで」
「………………。まあ……量が増えたのも……事実だったか……」

 オレが舌なめずりをすると、神父様は冷や汗をかきつつ視線を逸らす。
 控えようって顔に書いてあるけど、無理なのはわかってる。
 だって神父様、酒とセックス以外に発散方法知らなさそうだし。しかもセックスできる相手、オレしかいねぇし。

「控えなくて良いんすよ? 積極的な神父様、超イイです」
「……これだから貴様はケダモノなのだ。悔い改めるがいい」
「えー、神父様がド淫乱になっても、誰にも迷惑かからねぇじゃん」
「ド……っ!? つつしみを覚えろ! 恥を知れ! 愚か者が!」

 素直な気持ちを伝えたら、神父様は真っ赤になって怒鳴ってきた。うーん、これも育ちの差?
 ……と、玄関の方でノックの音がする。オレが立ち上がると、神父様は手で制した。

「構えるな。近隣住民ならば困る」
「……あー……そうでしたね」

 物心ついた時、周りは死体だらけだった。
 その中を生きてきたからか、「躊躇ためらったら死ぬ」って感覚が身体に染み付いてる。
 ……だから、うっかり加減を誤って殺しちまう。当然、それは良くないことだ。……分かってるはずなんだけどなぁ……。



***



 神父様の後に続いて玄関に出て、突貫工事で作ったかんぬきを外す。普段は板を打ち付けてあるんだけど、昨日の刺客に壊されちまった。
 扉を開くと午後の光が差し込んで、神父様は眩しそうに目を細める。よっぽど長時間当たらなきゃ、体調を崩すこともねぇらしいけど……苦手なもんは苦手らしい。
 ノックの主は、老夫婦とその息子っぽい三人だった。神父様の言う通り、近隣住民だろうか。

「ここは廃墟だと思っていたんですが……」

 老婦人が不安そうに尋ねてくる。
 神父様はにこりと優しげな笑顔を作り、少し前に歩み出た。
 笑顔はまだちょっとだけ引きつってるけど、前に比べりゃ上手くなった方だ。

「驚かせて申し訳ありません。我々は、戦乱により奪われた尊い命に祈りを捧げるため、各地を回っております」

 ……まあ、あながち間違ってはねぇんだけどな。
 神父様は今も、祈りだけは一日たりと忘れたことがない。

「おお……そうでしたか。神に仕える方々だったのですね」
「……ええ」

 老夫婦の息子らしき、中年の男は神父様をまじまじと観察した後、じろりとオレを睨む。

「……こいつもですか」

 聖職者には見えねぇってか。悪かったな。
 別にそこまで悪人ヅラでもねぇだろ。傷あるだけで。むしろテメェのが強面だっつの……とか、色々言いたかったけど我慢する。
 神父様はこちらを振り返り、どう言い訳しようか考えているらしかった。今まではこんな時、なんて言ってたっけなぁ。
 オレは口が汚ぇから、なんか言うとボロが出そうで嫌なんだよ。

「彼は……その、兄弟です」
「似ていませんが……?」
「もちろん、実の兄弟ではありません。同じ神の家で育った……という意味です」
「……なるほど」

 中年の男は訝しみつつも、納得した様子だった。
 老夫婦は「何かあったら頼ってくださいねぇ」なんて呑気に言いつつ、去っていく。
 扉のかんぬきをかけ直すと、神父様は何を思ったか、その場に佇んだまま閉じた扉を見つめていた。

「聞いたか。何かあれば頼れ、とのことだ」
「良かったっすね」
「……ハッ。皆、似たようなことを言っていた。……私が吸血鬼になる前はな」

 漏れ出た嘲笑は、誰に向けてだろうか。オレ? 老夫婦達? かつての仕事仲間や隣人? ……それとも、自分自身?

「んじゃあ、オレに頼ってください」

 そう伝えると、神父様はちらりとオレの方を一瞥し、また視線を逸らした。
 唇が何か言葉を紡ごうと動く。「……すまない」って動きだけは見えたけど、そのまま吐き出されることなく飲み込まれてしまった。
 可愛いなぁ。ほんとに。

「……なるべく早く、次の拠点を探せ。今はまだ『対処』が可能だが……見つからないに越したことはない」
「へーい。あ、明日までに探したら、なんかご褒美くれます?」

 ダメもとで聞くと、神父様はしばし考え込む。
 扉の隙間から空模様を確認してから、オレの方にくるりと振り返った。

接吻せっぷんをくれてやる」 
「頬に? あ、もしかしてチンコに?」

 オレが聞き返すと、神父様は呆れたようにため息をついた。

「……唇にだ」

 マジか。そりゃあ、頑張んなきゃな。
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