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第一章 彷徨の秋
第8話「罪深い想い」
力の抜けた身体を抱きかかえ、ベッドへと運ぶ。
引っ越すならまた解体しなきゃな。向こうのベッドが使えるとは限らないし。
「済まない……」
運んでいる途中、神父様が静かに呟いた。
「……なんで、謝るんですか」
オレは元から罪人だ。神父様に教わらなきゃ、まともな話し方も、読み書きも、買い物の仕方すら分からなかったクズみてぇな男だ。
そんなオレが大好きな人を外敵から護れて、傍にいられて、セックスまでさせてもらえる。……めちゃくちゃ有難いことだと思う。
「便利に使ってくれていいんすよ。オレ、ほんとにバカでろくでなしだし……神父様のお役に立てるってだけで嬉しいんです」
「……愚か者が」
どれだけ邪険にされても、構うもんか。
オレは神父様を愛してる。……もう誰にも、それこそ神様にだって、このお方を傷付けさせやしない。
オレだけは、絶対に神父様を見放さない。
「私は……」
神父様は何かを言いかけて、黙り込んだ。
よくあることだ。神父様はオレよりずっと賢いから、色んなことを考えちまうんだろう。
「私は、罪深い」
「……オレとセックスしてることです? もう良いじゃないすか。今更でしょ」
話しつつ、ベッドのへりに座らせる。
板戸から漏れる月明かりが、灰色に戻った瞳を照らす。
「違う。そうではない」
今にも泣き出しそうな表情が、目の前に現れる。
「私は、貴様に罪を犯させているではないか」
……ああ、ほんとに、神父様は綺麗な人だ。
そういうところが、愛しくて仕方ない。
「……血、ほんとに足りてます? 我慢してるんじゃ?」
「…………」
「食い物、毎回オレがほとんど食ってるじゃないですか。血が食事になるんなら、ちゃんと飲まねぇと」
貴様の場合は、代用できる糧がなかろう……なーんて言ってたことを思い出す。それでも、体液を啜って生きることの抵抗は消えていないらしい。
……まだ「戻れる」って、どこかで思ってるのかもな。
「だが……」
「無理すんなって、ほら……」
神父様の後ろに移動し、抱き締めるようにしてベッドのへりに座る。口元に手を持っていくと、神父様は躊躇いつつも親指の付け根を噛んだ。
「ふ……っ」
赤く染った瞳が、煌々と光る。神父様の喉がゆっくりと上下し、噛まれた指に心地よい痺れが残る。
ロザリオを握りしめ、葛藤する横顔がいじらしい。
「今度から、無理せず言ってください。精液も全然出せますし。つか、どうせ出さなきゃいけないんで、血よりそっちのがお得でしょ」
「……ケダモノが……」
「そうです。オレはケダモノです。なので、また明日もヤりましょ」
耳元で囁きつつ、抱き締める。返事は来なかったが、今日は振り払われない……と思ったら、時間差で振り払われた。
ちょっと抵抗してみたけど、やっぱり力じゃ適わねぇな。
「…………鍋に朝のスープの残りがある。温め直して食え。あと、昼間の老婦人から卵を貰った。焼いておいたから、早めに食え」
神父様はさっきの乱れようとは打って変わって、冷静に伝えてくる。
あー、そういや夕飯まだだったな。忘れてた……。
「神父様は? 食べました?」
尋ねると、ふいっと顔を逸らされた。
やっぱり、痩せてたのは気のせいじゃなさそうだ。
「貴様が気にすることではない」
「ちゃんと食わなきゃダメですよ。子供もできるかもだし」
「だから私は男だ」
「神父様ならできそうじゃん」
「できるわけがなかろう」
問答の末、神父様は呆れたようにため息をついた。
……ほんとに、産めそうな顔してんだけどなぁ。
「神父様、オレ、神父様のこと大好きです。心の底から、護りたいんです」
ベッドから降り、座ったままの神父様に視線を合わせる。
再び灰色に戻った瞳が、ちらとオレの方を見る。
いつものように冷静な表情で、神父様は小さく呟いた。
「私は……。……」
そのまま、続きの言葉は紡がれずに飲み込まれる。
「……悔い改めるがいい」
代わりに、突き放すような返事が吐き出される。思わず、身体が動いた。ここで黙ってたらダメだって……何となく思った。
「嫌です」
ベッドに押し倒せば、銀の髪とロザリオが月光に煌めく。絶望の淵に沈んだ灰色の瞳も、銀色に輝いて見えた。泣いている気がして、頬にかかった髪をかき分ける。左目の下の泣きぼくろがそう見せているだけだった。
固く引き結ばれた唇に、触れるだけのキスをする。神父様は特に抵抗することなく、口付けを受け入れた。
引っ越すならまた解体しなきゃな。向こうのベッドが使えるとは限らないし。
「済まない……」
運んでいる途中、神父様が静かに呟いた。
「……なんで、謝るんですか」
オレは元から罪人だ。神父様に教わらなきゃ、まともな話し方も、読み書きも、買い物の仕方すら分からなかったクズみてぇな男だ。
そんなオレが大好きな人を外敵から護れて、傍にいられて、セックスまでさせてもらえる。……めちゃくちゃ有難いことだと思う。
「便利に使ってくれていいんすよ。オレ、ほんとにバカでろくでなしだし……神父様のお役に立てるってだけで嬉しいんです」
「……愚か者が」
どれだけ邪険にされても、構うもんか。
オレは神父様を愛してる。……もう誰にも、それこそ神様にだって、このお方を傷付けさせやしない。
オレだけは、絶対に神父様を見放さない。
「私は……」
神父様は何かを言いかけて、黙り込んだ。
よくあることだ。神父様はオレよりずっと賢いから、色んなことを考えちまうんだろう。
「私は、罪深い」
「……オレとセックスしてることです? もう良いじゃないすか。今更でしょ」
話しつつ、ベッドのへりに座らせる。
板戸から漏れる月明かりが、灰色に戻った瞳を照らす。
「違う。そうではない」
今にも泣き出しそうな表情が、目の前に現れる。
「私は、貴様に罪を犯させているではないか」
……ああ、ほんとに、神父様は綺麗な人だ。
そういうところが、愛しくて仕方ない。
「……血、ほんとに足りてます? 我慢してるんじゃ?」
「…………」
「食い物、毎回オレがほとんど食ってるじゃないですか。血が食事になるんなら、ちゃんと飲まねぇと」
貴様の場合は、代用できる糧がなかろう……なーんて言ってたことを思い出す。それでも、体液を啜って生きることの抵抗は消えていないらしい。
……まだ「戻れる」って、どこかで思ってるのかもな。
「だが……」
「無理すんなって、ほら……」
神父様の後ろに移動し、抱き締めるようにしてベッドのへりに座る。口元に手を持っていくと、神父様は躊躇いつつも親指の付け根を噛んだ。
「ふ……っ」
赤く染った瞳が、煌々と光る。神父様の喉がゆっくりと上下し、噛まれた指に心地よい痺れが残る。
ロザリオを握りしめ、葛藤する横顔がいじらしい。
「今度から、無理せず言ってください。精液も全然出せますし。つか、どうせ出さなきゃいけないんで、血よりそっちのがお得でしょ」
「……ケダモノが……」
「そうです。オレはケダモノです。なので、また明日もヤりましょ」
耳元で囁きつつ、抱き締める。返事は来なかったが、今日は振り払われない……と思ったら、時間差で振り払われた。
ちょっと抵抗してみたけど、やっぱり力じゃ適わねぇな。
「…………鍋に朝のスープの残りがある。温め直して食え。あと、昼間の老婦人から卵を貰った。焼いておいたから、早めに食え」
神父様はさっきの乱れようとは打って変わって、冷静に伝えてくる。
あー、そういや夕飯まだだったな。忘れてた……。
「神父様は? 食べました?」
尋ねると、ふいっと顔を逸らされた。
やっぱり、痩せてたのは気のせいじゃなさそうだ。
「貴様が気にすることではない」
「ちゃんと食わなきゃダメですよ。子供もできるかもだし」
「だから私は男だ」
「神父様ならできそうじゃん」
「できるわけがなかろう」
問答の末、神父様は呆れたようにため息をついた。
……ほんとに、産めそうな顔してんだけどなぁ。
「神父様、オレ、神父様のこと大好きです。心の底から、護りたいんです」
ベッドから降り、座ったままの神父様に視線を合わせる。
再び灰色に戻った瞳が、ちらとオレの方を見る。
いつものように冷静な表情で、神父様は小さく呟いた。
「私は……。……」
そのまま、続きの言葉は紡がれずに飲み込まれる。
「……悔い改めるがいい」
代わりに、突き放すような返事が吐き出される。思わず、身体が動いた。ここで黙ってたらダメだって……何となく思った。
「嫌です」
ベッドに押し倒せば、銀の髪とロザリオが月光に煌めく。絶望の淵に沈んだ灰色の瞳も、銀色に輝いて見えた。泣いている気がして、頬にかかった髪をかき分ける。左目の下の泣きぼくろがそう見せているだけだった。
固く引き結ばれた唇に、触れるだけのキスをする。神父様は特に抵抗することなく、口付けを受け入れた。
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