【R18】堕ちた神父と血の接吻【完結済】

譚月遊生季

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第二章 苦闘の冬

第3話「対話の中で……」

 神父様は起きてくるなり、オレを呼んでテーブルに地図を広げた。

「……現在地がここだ。エルザスの少し東辺りだな」
「アレですよね。エルザスらへんのが廃墟とか多いんすよね」

 ここら辺は一面の畑の中にぽつんと廃墟、もうちょっと進んでまた廃墟……そんな感じの景色だから、今までは雨風凌げそうな廃墟を渡り歩いてどうにか暮らしてきた。

「エルザスは土地も肥沃ひよくで、生活しやすい。……だからこそ……いや、この話はやめておくか」

 何でかわかんないけど、地理の話をする時、神父様はよく顔を曇らせる。何でだろう。

「……西に向かうとフルール・ド・コルボという町がある」
「ふるーる? 聞き覚えの無い響きっすね」
「フランス語だ。フランス領アルザスだった時代の地名がまだ使われている。おそらくは、曰くのある地名なのだろうな」
「ほーん……?」

 そういやオレが育ったとこも、フランスが近かった気がする。
 つっても、物心ついた頃でも最初の記憶は、死体の山の中だ。周りの誰だかわかんねぇ死体の中に、たぶん、オレの親父やお袋もいたんだろう。
 本名がヴィルフリートだかヴィルヘルムだかヴィルムだか忘れちまったけど、「ヴィル」ってつく名前で呼ばれたことは覚えてた。

「……ここからは、貴様には不愉快な話になるかもしれない」
「おう? 別にいいっすよ。大事なことなんでしょ?」

 神父様は相変わらず浮かない顔で、眉間のシワもいつもより深い。
 色々考えすぎちゃう人だしなぁ。

「フルール・ド・コルボは、条件としては悪くない。……ただ、フランスに近付きすぎることは避けたい。かの国は教会の権威が強まるうえ、我々ドイツ人に対する印象も悪かろう」
「了解っす」

 何が不愉快な話なのかはわかんねぇけど、とりあえずフランスの方に行くのは良くねぇってわかった。
 神父様は腕を組みつつ、地図を睨みつけている。

「……しかし、ドイツ方面は……ヘッセンの方に近付けば近付くほど、顔見知りが多い」
「助けてもらうのは厳しそうです?」

 神父様は元々、人に慕われるお方だ。
 溜め込む方ではあるけど、だからこそ外ヅラを良くできる。
 まあ、最近はオレ相手だとやたら冷たいんだけど……

「……。誰が『敵』になったかわからん以上は、厳しかろう」

 神父様は静かに首を振り、ぼやくように呟いた。

「うへぇ……人間かどうかって、そんな大事なんすか」
「大事、なのだろうな。……神は、自らの姿に似せて人を作ったとされている」
「でも、神父様も見てくれは一緒ですよ? ちょっと血飲むだけで」
「……ちょっと、か」

 オレの言葉に、神父様はふっと遠い目をする。
 ……何か、嫌なことを思い出しちまったのかな。

「……血を啜るから何だと言うのだ。人が、もっとも人を殺すではないか」
「オレのことっすか」
「違う。貴様でなくとも、兵役はある。また戦争が起これば、純朴な市民でさえも人を殺すだろう」

 ああ、そっか。
 オレは盗賊だし住民登録? みたいなのもできるわきゃねぇしで忘れてたけど……男はみんな、戦えなきゃダメなんだっけか。

「『国民』を殺せば大罪だが、隣国の人間を殺すのは手柄になる。……そういった情勢になることを、私の師は憂いておられた」
「えー……。みんな、オレのことは散々人殺しって罵るのに?」
「自ら……いや、『帝国』に危害が及ばぬよう、軍備によって国力を上げ、国民全ての力で統率の取れた軍事組織を作り上げる。……そういう時代なのだ、今は」

 神父様は険しい顔をし、指先で地図をトントンと叩く。



 ふと、ガキの頃のことを思い出した。
 抱き締められた記憶や、庇われた記憶がぼんやりとある。……とにかく生きなきゃって、思ったことも覚えてる。
 まばらな叫び声が記憶に残っている。

 死にたくない、誰か助けて……そういう声だ。

 殺すって、そういうことなんだろ。……だから、悪いことだってのはわかるんだ。
 まぁ、オレはうっかり殺っちまうんだけどさ……。



 テーブルを叩く音が次第に大きくなって、意識が現実に引き戻される。

「国のためをうたい、戯れに血を流すことは是で、祖父が殺しもせず血を啜ったことは非だと言うのか? ……ふざけた話だ」

 神父様の今の力だと、力を込めて叩きすぎればテーブルが壊れる。本人もそれは分かってるみたいで、どうにか抑えようとしてるのが見て取れた。
 同じ怪力なのに、神父様はオレより慣れるのが早い。やっぱり、賢いからかな?

「教会も、そんな感じなんすか」
「……教会は……そう、だな。帝国相手には長らく抵抗している。かの鉄血宰相てっけつさいしょうでさえ、弾圧を諦めたほどだ」
「あー。だから、神父様は教会が好きなんですね」

 鉄血宰相が誰だかわかんないけど、神父様があんまり良く思ってないのは伝わった。
 オレの言葉に、神父様はハッと目を見開き、テーブルを叩いていた指を止める。長い間黙りこくってから、ようやくまた口を開いた。

「そういう、わけでは……ないが……」

 苦しそうな表情が、複雑に絡んだ感情を伝えてくる。

「……希望を抱いていた、部分は……まあ、ある」

 教会は帝国の敵だけど、神父様の敵にもなっちまった。
 そういうことでいいのかな。

「何となくわかりました。『吸血鬼』になっちまった神父様は教会から逃げなきゃで、だからって教会と仲悪い帝国の方行くのもあんまり……って感じなんすね」
「相変わらず理解が早いな。結構なことだ」
「お? 今、褒めてくれました?」
「……褒め言葉でなければ何だというのだ」
「マジか!? よっしゃあ!」

 オレが身を乗り出すと、神父様は若干後ろに下がりつつ目を逸らす。

「キスしていいっすか」

 そう聞くと、べしっと頭を叩かれた。

「……調子に乗るな」

 あんまり痛くないあたりに、優しさを感じる。

「いっそ、南行っちゃいます?」
「南は教会の権威が更に強い。バチカンが近付くからな」
「ありゃあ、マジすか……じゃあ……北?」
「馴染みのない地域ではあるが、情勢を思えば悪くはない。ただ、気候が厳しくはなるが……」

 神父様は難しい顔で地図を睨む。
 コートとか盗むのは怒られそうだし……毛皮捕るの、頑張ろうかなぁ。神父様と二人なら、デカい動物もどうにか狩れるか……? 武器が心もとねぇけど……。
 なんて考えていると、神父様がまた口を開いた。

「この一帯はおそらく見張られている。どこを目指すにしろ、鉄道か何かで長距離の移動を考えるべきか……」
「おっ、オレ鉄道乗ったことないんすよ! どんな感じです?」
「……遊びではないのだぞ?」

 神父様は呆れたようにため息をつき、眉間を押さえる。
 神父様、ただでさえしんどい思いしてんだから、楽しんだっていいのに。

「しかし……鉄道を使うのならば、人目にはつくか……」

 淡々と語りつつ、神父様の肩がわずかに震える。
 冷えてきたもんな、と思いつつ背後から抱き締めた。

「……なんだ」
「あっためてます。そのまま続きどうぞ」
「…………。少し休む」
「それもアリっすね。ゆっくりしてください」

 神父様は無言でオレの腕を見つめる。
 振り払われるかと思ったけど、そのまま話し始めた。

「以前、怪力を気にしていたな」
「ん? もしかして痛いとか……?」
「いや……貴様が私に触れる時、痛みを感じた覚えはほとんどない」

 そっとオレの腕に触れ、神父様は続ける。

「純粋な腕力の強さ……というよりは、特定の状況において、力を一か所に集中できるのだろう。おそらくは後天的に身につけた……いわば、技術だ」
「……技術?」
「貴様は『力』そのものを原因と考えていたようだが……それでは解決にならない。そもそも、問題の根本が違うのだ」

 神父様は、あくまで冷静に語る。
 難しい話だけど、何となくは理解できた。
 オレが「うっかり」人を殺しちまう理由を、神父様なりに考えてくれているんだ。

「できる限り、力を込めてみるがいい」
「えっ、でも……」
「知っているだろう。私の肉体はもう、ヒトではない」

 その提案に、簡単には乗れなかった。
 大丈夫って言われても、潰しちまうかもしれねぇって思うと……怖い。

「案ずるな。貴様の力では、私は壊れない」
「……うぃっす」

 ありったけの力を込めて、ぎゅうと抱き締めた。
 骨が折れる音が聞こえないか心配で、心臓が高鳴る。
 神父様の表情は見えない。……痛がってたり、苦しんでたりしないか、余計に心配になる。

「……やはりな」

 神父様の彫刻みたいな指先が、オレの左腕を掴む。
 見惚れていると、青白い指先が肉にくい込んだ。

「いっ!?」

 左腕を激しい痛みが襲う。その瞬間、力がほとばしった。
 神父様の肋骨が、みし、と音を立てたのがわかる。

「ぐっ……」
「大丈夫っすか!?」

 神父様の喉から、苦しそうな吐息が漏れる。
「やべ」と思ったけど、掴まれてる方の腕には力が入らないから、片腕ぶんだけの力で絞めた……ってことに、なんのかな、これ……?

「……怪力とは、こういうことだ」

 手を離した神父様が、オレの、掴まれた方の腕を指し示す。
 真っ赤な手形が、くっきりと浮かび上がっているのが見えた。

「済まない、強く掴みすぎたな」

 神父様は申し訳なさそうに、赤くなった痕を撫でる。
 そういえば、盗賊をやってた時も、立ちんぼ娼婦を殺しちまった時も、身の危険を感じたから殺しちまった……気が、する。武器を向けられたり、……

 ……あれ、待てよ。それを神父様が気付いたってことはさ、オレの動きや、状況を観察してたってことにならねぇか……?

「神父様。……そんなに、オレのこと見ててくれてたんすね」
「な……っ! い、いや、貴様を導くのは聖職者としての責務であったし、現在も共同生活において必要だからと……おい、聞いているのか」

 神父様の耳が赤くなっているのが、背後からでもわかる。
 いや、でもマジかぁ。それ、オレが神父様の具合とか機嫌とか、ついでに性感帯を見分けてんのと同じ理屈だろ……?

「好きです、神父様。抱いていいっすか」
「やめ……っ、乳首をまさぐるな! ……あっ、き、傷痕はやめろ……! そこは……んッ」
「振り払わないならイイってことっすね。抱きます」
「ま、まだ準備が……ぁあっ」
「上着は汚さないように脱がすんで!」
「……ッ、せめて私が脱ぐのを待て……! さかりのついた犬か貴様は!」
「えっ、自分で脱いでくれるんすか」
「……あっ」

 横顔を覗くと、神父様は真っ赤になってわなわなと唇を震わせていた。
 その唇にキスをして、ボタンに手をかける。
 神父様は抵抗することなく、大人しく脱がされた。

「考えるの疲れたんで、気持ちいいコトしましょ」

 舌なめずりしつつ、傷のある腹筋に手を這わせる。
 神父様はピクっと反応し、オレの背中に手を回した。
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