【R18】堕ちた神父と血の接吻【完結済】

譚月遊生季

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第二章 苦闘の冬

第5話「光を見ました」

 不甲斐ない……って、こういうことなんだろうな。

 オレは今まで、自分の力の根源ってのをわかってなかった。「自分が生きるための力」だけじゃ、神父様を護る力には及ばない。

 あの「影」に絡まれていた以上、下手に動いたら何をされていたかわからない。直感が「自分が生きること」だけを優先していたから、神父様がピンチなのに、まともに動くことができなかった。

「……くそ……」

 オレは人殺しで、ろくでなしの盗賊だ。でも……神父様と逃げるようになってから、こんなオレでも愛する人を護れるんだって、本気で思ってた。
 だけど、結局オレは自分が一番大事で……神父様が危ない目に遭ってるのに、動けなくて……

「ヴィル」

 名前を呼ばれて、考えごとが途切れる。
 抱き締めた腕の中で、神父様がわずかに身じろいだ。
 良かった、喋れるくらいには回復してくれたのか……。
 悔し涙を拭き、「何ですか?」と問いかける。

「私のことはいい」

 まだ上手く動かせないのか、神父様の身体はぐったりしたままだ。

「頼む。……無茶だけはするな」

 脳裏に、弾が当たるのも構わずに突っ込んでいった姿が浮かぶ。
 無茶してんのは、そっちだろ。
 人間じゃないとか、吸血鬼だとか、細かい違いはオレにはよく分かんないけどさ。痛いもんは痛いし、苦しいもんは苦しいだろ。

「こっちのセリフだっつの、馬鹿……」

 思わず漏れ出た言葉に、神父様は何も答えなかった。



 ***
  


 神父様を運ぼうと、傷ついた体を担ぎ上げる。
 地下室の天井も壊されちまったけど、日が昇る前にせめて日陰には連れていかないと。

 壁際に神父様の身体をもたれさせ、栄養を取らせようと下穿きに手をかける。

「……外で……」

 ……と、神父様がかすかな声で呟いた。敷地内でそういうのはやりたくない……ってことかな。別にいいじゃん……って思ったけど、神父様にとっては大事なことだ。
 担ぎ直して教会の外へと連れ出すと、空がほんのり明るくなりつつあった。

「……おや?」

 誰かの声がして、思わずビクッと肩を震わせる。
 恐る恐る振り返ると、馬車から降りてきたばかりの婆さんと目が合った。

「こんな廃墟に、いったい何の用ですか」

 シスター服を着た婆さんは、警戒した様子でオレに話しかける。

「え、ええっと……その……神父様が……」

 神父様はまだ弱っていて、ちゃんと話せるか微妙だ。つってもオレだって口が汚ぇし、ちゃんと話せる自信なんかねぇんだけど……
 しどろもどろになりつつ、どうにか言葉を探す。

「け、怪我……しちまって……」
「……! まさか、救援を……?」
「え、えっと……まあ、うぃっす……」

 そりゃ、助けてもらえるなら、助けてもらいたい。
 神父様の負担が少しでも減るんなら、それに越したことはない。

「偶然祈りに来ていて良かった……。これも神のお導きです。再建した修道院が西の方にありますので、そこで手当しましょう」
「……! で、でも……」

 前の町医者はヤブだったから見抜かれなかったけど、手当されたら神父様が人間じゃねぇってバレるんじゃ……とか、そもそも修道院? だかなんだか知らねぇけど、教会絡みだと追っ手がすぐ来るんじゃ……とか、嫌な予感が頭を過ぎる。
 でもこれ、断ったらオレが神父様を襲撃した盗賊っぽくねぇか? 勘違いされたら、余計ややこしくならねぇ……?

「……お気になさらず」

 オレがまごついていると、神父様が答えてくれる。

「大した怪我ではありません。足を痛めたので、弟子に運ばせていただけのことです」
「カソックがぼろぼろではないですか。痩せ我慢はおやめなさい。ほら、早く」

 婆さんシスターに一蹴され、神父様はあれよあれよという間に馬車に連れ込まれた。
 御者の視線が痛いので、オレもそそくさと乗り込む。

「賊にやられたのですか?」
「……うす」
「それはそれは……災難でしたね。この修道院も昔、賊の襲撃を受けまして……このような無惨な姿に……」

 いやまあ、オレも賊なんだけどな。
 どうしよう。超気まずい。

「……お恥ずかしながら、正規の宗教施設ではなく、さる富豪の援助を受けた見せかけの修道院です。その点は、ご容赦くださいね」
「…………構いません」

 婆さんの言葉に、神父様は口数少なに頷いた。
 オレ達にとっては、むしろありがたかった。



 ***



 聖ミヒャルケ修道院……と、看板には書かれていた。
 神父様は腹を押さえてふらつきながらも、「……ああ」と呟く。

「ミヒャルケ商会か……父上が、懇意にしていたな」

 懐かしそうに目を細め、神父様の声がちょっとだけ優しくなる。
 ……そういやオレ、神父様の家族のこと、何も知らねぇな……。

「……まあ、このカソック、穴だらけではないですか」
「えっと……ホラ、色々あって……」

 婆さんシスターが口に手を当て、目を丸くする。
 どう言えばいいのかわからなくて、濁しておいた。

「繕わせておきます。上着を脱いで横に……まあ、シャツが真っ赤」
「い、色々あったんすよ! なぁ神父様!」

 どう誤魔化せばいいのかわからなくて、神父様にぶん投げる。
 神父様はじろりとオレを睨みつつ、眉間にシワを寄せて言葉をひり出す。

「……お気になさらず。返り血のようなものです」
「あらまあ……。撃退なさったの?」
「ええ……少しばかり、腕に覚えがありまして」

 神父様ー!?
 それ誤魔化せてるー!?

「……それはそれは……。申し訳ありません。身を守るためとはいえ、話しにくい事情だったでしょう」

 意外にも、婆さんシスターはすんなり信じてくれた。

「私にも、似たような経験がありますので……」

 マジか……。強いな、婆さん……。



 オレがうろたえている間に、神父様はベッドに横たえられ、上半身の衣服を全部脱がされていた。

「お客様?」
「綺麗な殿方ね……」
「こら! あまり見るものではありませんよ!」

 部屋の外で、若いシスターたちの囁き声が聞こえる。たしなめるような声も飛んできた。
 まあ、そうなるよな。肉付きも綺麗だし、顔も美形だしな。……渡さねぇけど。

「……傷は……治りかけ……?」

 婆さんがぼそりと呟いたのが聞こえる。
 頼む、気付かねぇでくれ。

「あまり……見ないでいただけますか。お互い聖職者とはいえ、美しい女性に見つめられるのは気恥ずかしく思います」
「あらあら……失礼しました。神父様とはいえ、若い殿方ですものね」

 神父様の誤魔化し方に、なんか、タラシっぽさを感じた。無自覚だろうけど、さすがはオレをベタ惚れさせたお方だ。
 婆さんはくすくすと笑い、ふっと優しい目になる。

「気になさらなくていいのよ。……長く生きていれば不思議なことの一つや二つ、経験します」

 婆さんの言葉に、神父様は目を見開いた。
 ……たぶん、婆さんにはもう気付かれてる。その上で、親切にしてくれている……のか……?

「……大丈夫。悪い人たちでないと信じます。だって、あなた……とても澄んだ目をしていらっしゃるから」

 婆さんはオレの目を見つめ、穏やかに笑う。

「申し遅れました。私は、マリアといいます」

 胸の前で指を組み、彼女はそう名乗った。
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