【R18】堕ちた神父と血の接吻【完結済】

譚月遊生季

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第三章 煩悶の冬

第2話「揺れ動く感情」※

 オレたちの方に視線が向くことはたまにあるけど、オレがそっちの方を向いただけで気まずそうに逸らすヤツが大半だった。
 ……そんなに悪人ヅラかな。オレ。
 いや、それともアレか? 田舎くせぇ雰囲気ってやつか……? そこら辺は気にしたら負けだ。しゃーねぇだろ、育ちの差だ育ちの差。

 マルティンっぽい赤毛も見当たらないし、あの変態クソ野郎っぽい金髪も見当たらない。ついでに言えば、殺気や敵意も感じない。人目に付く場所じゃ襲いにくい……ってのは、どうやら事実らしい。
 つっても、神父様に血や精液を飲ませる時はどうしても場所を選ばなきゃだし、さすがに人前でヤるのは……いや、アリだな……? 神父様のエロい姿を他の野郎にゃ見せたかねぇけど、声抑えてもらってこっそり挿れるの、めちゃくちゃアリだな……?

 アレだろ。服で大事なとこ隠して、体調悪いのを介抱してるフリして挿れ……うっっっわ、めっちゃいいじゃん。神父様は太陽苦手だから、曇りの日か陽が落ちてからじゃねぇとまずいけど、往来の中でオレだけ神父様がエロいことしてるって知ってんだろ? 周りからはしんどそうなだけに見えるけど、チンコぶち込んでるオレだけはナニしてるかわかってんだろ?

『……うっ、く……んんっ、ヴィル……も、もう……うぅうっ』
『声出したらバレちまいますよ。頑張って耐えてください』
『ぅ、あ……っ、ふ……っ、ぅう……!』
『指、いくらでも噛んで良いっすから。ついでに血ィ飲んで……』
『んん……っ、ふ……ぅ、く……ぁあっ』

 あー……想像するだけでやべぇ……オレ、もしかして案外頭悪くねぇんじゃ……?

 なんて妄想していると、神父様が軽く呻く。ひょっとして、エロいこと考えてるの気付かれた……?
 隣を見ると、神父様は寝ている真っ最中だった。……ああ、なんだ、嫌な夢見てるだけか。いや、それはそれで心配なんだけど。

「ん……」

 ……と、綺麗な顔を見つめていたら、灰色の目がうっすら開いた。

「あ、大丈夫すか? 寝てていいんすよ」
「……降りる駅が過ぎてしまっては困る」 

 眠そうな目を擦りつつ、神父様は外を眺める。
 あー……可愛い。最近本番してねぇし、マジでどっかで抜いてもらおっかな……。

「……おい」
「ん? 何すか」
「なんだ、この手は」
「……あっ」

 うっかり太腿を撫で回していたらしい。やべ、またケダモノって言われちまう。実際、ケダモノなんだけど……。

「こ、この前弾を取ったじゃないすか。大丈夫かなって……」
「……」

 神父様はじとっとした目で俺を見つめつつ、「そうか」と頷いた。
 さっきのは言い訳だけど、弾取ったとこ、ほんとに大丈夫かな。普通に歩いてるようには見えるけど……

「あまりベタベタ触るな。どうしても撫で回したければ、一言声をかけろ」
「す、すんません。じゃあ、今聞きます。腰とかケツ触っていいすか」
「窓から投げ捨てられたいか」
「すんません……」

 うう、辛辣……。
 だけどまあ、ちょっとは元気になってくれてるみたいで、そこは安心だ。



 ***



 ヴァッサーシュピーゲルに向かうには乗り換えってのをしなきゃ行けないらしい。
 今いるところがプファルツだかバーデンだかよくわかんねぇけどそこら辺の間で、東に行ったらシュトゥットガルト? らへんから北に向かわなきゃだとか、なんとか。

 どっかしらの駅で降りて、人混みに紛れて違う駅へと向かう。
 宿で一泊するかも……とも、聞いた。

「てか、結構金持ってるんすね」
「今までの生活では滅多に使わなかったからな」

 確かに、自給自足とか殺しに来た刺客が持ってた食糧とかで事足りてた。
 神父様は人と関わるのが苦手になっちまったし、オレはちゃんと買い物できる自信が無いしで、たまたま使わなかったってのもあるかもだけど……

「……それと、刺客が持っていた分もある」

 神父様はわずかに顔を曇らせつつ、伝えてくる。
 やっぱ、綺麗な人だなぁ。汚れても、魂までは汚れないように健気に耐えている。

「あー……でも、仕方ねぇっすよ。使えるもんは使わなきゃ」

 別に、汚れたって良いんだぜ、神父様。
 ……なんて、汚してる側のオレが言うのもアレなんだけど。
 下賎な血と子種をぶち込んで、綺麗な身体を内側からオレの側に堕としている。……そう考えると、たまらなくゾクゾクしてくる。

「……神よ、お赦しを……」

 ほんの小さな囁きを、聞き逃さなかった。
 ……大丈夫。オレだって、ちゃんと知ってっから。神父様は神様が大好きだ……って。壊れかけた心を繋ぎ止めてるのも、神様への想いだろ?
 無理やり引き裂こうとは思わねぇよ。そりゃ妬ましいし悔しいけど、アンタが壊れちまうよりはずっといい。

「……あ?」

 ふと、人混みの中を走ってくるガキに目が行く。
 ……こいつ、さては……
 動き方に「心当たり」がある。その手にナイフが光っているのが見えて、腕をわし掴んだ。

「あっ!?」
「……それで隠れたつもりか? 見え見えだぜクソガキ」

 人だかりがにわかにざわめき、オレらの周りだけ空間が広がる。……ったく、この景色も見覚えがありすぎる。まさか、オレが「こっち側」を経験するとは思わなかった。

「神父様ぁ、どうします?」

 オレがガキの立場なら、何がなんでも逃げようとするだろう。……そういう状態こそ、誰かを傷つけたり殺したりしやすい。
 んで、オレは「とっ捕まえる側」になったのは初めてだ。神父様を刺そうとした腕はへし折ってやりたいが、それをやると余計に暴れかねねぇし……

 神父様は周りの視線が気になるらしく、居心地悪そうに眉をひそめる。咳払いを一つして、何か口を開こうとした途端……

「盗賊が出やがったのか!!」

 誰かの叫びが、場の空気をひりつかせた。

「とっととつまみだせ! ぶっ殺してやる!」

 男の怒声に引き摺られるように、群衆の視線がガキに集まる。
 ガキは怯えきった表情で、救いを求めるように神父様を見た。

「……っ」
「見捨てましょ。いちいち憐れんでちゃキリがないです」

 神父様に耳打ちする。面倒なことになっちまったし、どさくさに紛れて逃げるか……なんて、思っていたら。

「そのガキを渡せ! 腕を切り落として川に投げ込むぞ!」

 人混みの中から黒髪の男が現れ、オレの腕からガキを攫った。口調の乱暴さの割には、小綺麗なコートを着た、きっちりとした身なりの紳士だ。……いや、「盗賊」への態度なんて、みんなそんなもんか。

「うわぁっ!?」

 ガキはじたばたともがくが、男の腕からは抜け出せそうにない。

「た、助けてよ! 兄ちゃん、カミサマに仕えてるんだろ!?」

 すると、ガキは事もあろうに、神父様に救いを求めた。神父様は目を見開き、ギリッと歯噛みする。……こりゃ、やべぇな。ここまで言われて、神父様が見捨てられるわけがねぇ。見捨てたところで、めちゃくちゃ引き摺るのが目に見えている。
 ……そういう人だから、オレは救われたんだ。

「……神のご慈悲は、富める者にも、貧しき者にも平等に注がれます。どうか、穏便に済ませることはできませんか?」
「あァ? 俺のオヤジはな、盗賊に店を荒らされて大損こいてんだ! 許せるもんかよ!」
「……そこを、どうにか……」

 神父様はどうにか作り笑いを見せるが、どんどんその笑顔は引きつっていく。
 神父様の兄貴は商人だ。それに、神父様自身、「盗賊」に乱暴されて死にかけたことがある。……複雑な立場だってことぐらい、オレにもわかる。

「……聖職者気取りが偉そうに」

 男は吐き捨てるようにぼやき、神父様を睨みつける。

「そこまで言うならついて来い。……話し合うにしても、こんな場所じゃやりにくいだろ」

 ガキの腕をがっちり掴んだまま、男は言う。
 神父様はしばし躊躇ったものの「……はい」と頷き、その後に続いた。
 オレももちろん、後に着いていく。……にしても、この男からは、すっげぇ敵意を感じる。まぁ、ちょっと前までオレも似たようなのを頻繁に向けられてたけど……それにしてもヤバい殺気だ。よっぽど「賊」に恨みがあんのかねぇ……?



 ***



 人気のない場所に来た辺りで、男はクソガキを地面に引き倒す。
 コートの中から長い剣を取り出し、見せ付けるように鞘から抜いた。

「何をするつもりですか」

 神父様の問いに、男はくっくっと肩を震わせて笑う。

「……俺はなァ、『秩序を乱す輩』が大嫌いなんだ。当たり前に罪を犯す賊なんざ、嫌いな人種の筆頭さ」

 よどんだ鳶色とびいろの瞳が、ぎろりとこちらを向く。
 剣の切っ先をガキの方に向け、男は赤い舌をちろりと覗かせる。そして、なぜか……男はそのままゆっくりと、神父様の方へ剣先を向けた。

「だが……そんなゴミムシでも役に立つことはあるらしいな。……あんがとよ小僧、おかげで『吸血鬼』を誘い出せたぜ……!」
「はぁ……!?」

 思わず間抜けな叫びが漏れる。まさか、こいつ……悪魔祓いエクソシストか!? 嘘だろ、全然気付かなかった……!
 神父様の方を見ると、あくまで落ち着いた様子で、自分に向けられた剣を見つめている。

「……やはり、人前では戦いにくいようですね」
「ハッ、冷静じゃねぇか。血を啜る有害生物バケモノのくせして、人のフリをするのが上手くて結構だ。……ああ……虫唾が走るぜ……ッ!」
「少年を利用する外道が、何を言いますか」

 灰色の目が、一瞬だけ赤く光る。
 いつになく鋭い眼差しは、銀色に光を放っているようにも見えた。

「何言ってやがる。こいつもクズだよ。盗みが生業の、生きてる価値なんざ欠片もねぇゴミクズだ」

 男はヘラヘラと笑い、ガキの頭を足で踏み付ける。

「当たり前にルールを守って秩序正しく生きてる一般市民が、どうして危険に晒されなきゃならない? あまりに理不尽だ。許されることじゃねぇ……」
「や、やめてよオットーさん……! おれ、頑張っただろ!? い、いつ殺されるかわかんなくて、ほんとに怖かったよ。なぁ、許してくれよぉ……!」

 震えながら許しを乞うガキを、「オットーさん」と呼ばれた男は容赦なく踏みつける。

「うるせぇ! 生かしてもらえるだけありがたく思うんだなゴミムシが!」

 ……「盗賊」への扱いなんてそんなもんだ。
 好きでそんな生き方をしてなくたって、そんな叫び、誰も聞いてくれやしない。
 正しい生き方がわからないまま間違いを重ねて、いつか、「正しい」ヤツらに裁かれる。そういうもんだ。

「この……ッ」

 止めようと、神父様は弾かれたように走り出す。
 相変わらず生身での突撃だ。……無茶すんなって、あれほど言ったのに。

「かかって来いよ吸血鬼ィ! このオットー・シュナイダーが八つ裂きにしてやる……!」

 爪での斬撃を剣で受け止め、悪魔祓いはニタァと笑った。
 ……さて、オレも加勢すっか。

 にしても、神父様の優しさを利用しておいてバケモノ呼ばわり、か。……腹立ってきた。ぶっ殺すしかねぇな。
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