【R18】堕ちた神父と血の接吻【完結済】

譚月遊生季

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第三章 煩悶の冬

第3話「破壊」

 ガキを踏みつけた足を切りつけると、オットーとかいうゲスい悪魔祓いエクソシストはバランスを崩してよろめく。
 その隙に、神父様がゲス野郎の右腕に噛み付いた。

「クソがッ! 二人がかりかよ!」

 剣を持ち替え、ゲス野郎は神父様の頭めがけて刃を振り下ろす。
 神父様がギリギリで刃を避け、ゲス野郎は自分の腕を切り落としかける。……が、さすがに腕に刃がくい込む寸前で止めた。

「……チッ、小賢こざかしい手を使いやがって……」

 ゲス野郎は舌打ちしつつ、体勢を立て直す。
 二人がかりの何が悪ぃんだよ。こちとら生きるのに必死なんだっての。
 しかしこいつ、銃も使わねぇしヘンな能力もなさそうだし、変わった戦い方だな……?

「賊だろうが異形だろうが、人様に迷惑かけるんならとっとと死ねよなァ!」

 ぶんぶんと剣を振り回し、ゲス野郎は文句を垂れる。
 威嚇のつもりだろうが、神父様は多少肌が切れようが構わず突っ込んでいく。……あんまりそういう戦法は取って欲しくねぇけど、頑丈さでゴリ押して相手の懐に飛び込めるって意味じゃ、特徴を活かした戦い方だ。実際、マルティンとの戦闘じゃ勝ったも同然だった。
 ……とはいえ、神父様は人を殺せない。そこが厄介なんだよな。その戦い方を選ぶんなら、迷わず勝負を決めなきゃ不利になる。

「……悪意が透けていますよ。八つ当たりの的にしているようにしか見えません」

 神父様は様子を伺いつつ、少し掠った時点で身を引いた。……自分には殺す覚悟が決まってないと踏んだんだろう。

「だから何だ? クズどもに八つ当たりしようが何しようが、クズがクズってことに変わりはねぇだろ?」

 ゲス野郎は神父様の言葉を鼻で笑い、いつの間にか隅の方に逃げてたガキを怒鳴りつける。

「おいボンクラ!! 盾になる努力ぐらいしたらどうだ!?」
「む、無茶言わないでよオットーさん……! し、死んじまうよ!!」
「あァ? ゴミカスの癖して、まだ自分に生きる価値があるとでも勘違いしてんのか?」
「ひ……っ、そ、そんなこと、言われても……」

 ガキはガタガタと震えつつ、頭を抱えてうずくまる。
 うわ、ひっでぇ。さすがにオレもムカついてきた。
 神父様はなおのこと腹に据えかねているらしく、舌打ちした音がこっちにまで聞こえる。

「その少年が罪人であることと、貴方が彼を捨て駒として扱うことはまったくの別問題です」

 真っ赤な瞳がゲス野郎を睨みつける。

「……これだから聖職者は好かねぇんだ。甘っちょろいことばっか言いやがって」

 ……ん? 聖職者は好かない……?
 こいつ、もしかして悪魔祓いじゃねぇのか……?
 じゃあ、また金で雇われた刺客か……? いや、でも今更そんなことあるか? 専門家ですら始末できてねぇのに……?

「坊さんはいい立場だよなァ。俺の苦労も知らずに、薄っぺらい理想論ばっか並べやがる」
「……貴方は悪魔祓いではないのですか」
「ハッ、冗談言うなよ! 俺が神とやらに仕えるタマに見えるか? 強いて言うならアレさ」

 ゲス野郎はげらげらと笑い、言葉を続ける。

「一般市民の味方……ってとこだな」

 えー。それは一般市民が可哀想だろ。いや、俺は一般市民のことなんかよく知らねぇけどさぁ。

「いつの時代も、悪党のせいで被害を被るのはか弱き一般市民だ。だから、そんなクソ共から守ってやらなきゃいけねぇ。……そうだろ?」

 澱んだ瞳で、ヤツは恍惚と語る。……守るため? 嘘つくなよ。どう考えても自分に酔ってるだけだろ。
 隙だらけに見えたが、神父様はあえて動かない。あからさま過ぎて、どう考えても罠だしな。

「……チッ、慎重なこって。でも……もう遅いぜ」
「あ……!?」

「もう遅い」……その言葉と同時に、神父様は膝をついた。頭を抑え、苦しそうに呻いている。
 ……は? 攻撃も何も当たってねぇじゃん。何をしたってんだよ……?

「残念だったなァ。掠っただけで充分なんだよ」
「……! 毒か!!!」

 神父様に駆け寄る。どんな毒かはわからないが、掠った程度で効くってのは神父様と相性が悪すぎる。早く処置しねぇと……

「あ……ぐ……っ、う、うぅううう……ッ」
「神父様……?」

 毒を摂取したにしては、様子がおかしい。
 神父様はひたすら頭を抑え、呻いている。

「てめぇ、いったい何を……!?」
「何だろうなァ? 当ててみろよ」

 ゲス野郎はニヤニヤと笑い、長剣を器用に片腕で弄ぶ。
 隅っこで震えてたガキが、「今だ」とばかりに逃げ出す。

「おい、誰が逃げていいっつった」
「ぎゃっ!?」

 ガキの首根っこを掴み、オットーはためらいなく剣を振りかぶった。
 血飛沫が壁に散り、まだ小さな頭がオレたちの足元に転がる。
 その瞬間、神父様の苦悶が更に大きくなった。

「あぁあぁあぁあっ」
「し、神父様……?」
「ハハ……どうだ? 頭をぶっ壊される気分はよォ……! 良かったなァ小僧! ゴミでも最期は役に立ったぜ!!」

 はぁ、はぁ、と荒い息を吐き、神父様は刺客を睨みつける。

「……こ、の……外道が……ッ!」

 真っ赤な瞳は、激しい怒りに染まっている。

「この剣は俺愛用の剣でなァ、クズの血を吸えば吸うほど、クズ達の怨みや憎しみが根付く。……お前の頭を食い潰そうとしてるのは、そういうドス黒い思念さ」

 即座に骨の刃を構え、ゲス野郎の目玉に突きつけた。ずいぶんと余裕をぶっこいてるが、今なら殺れる。
 どうやら毒じゃなく術っぽいし、こいつさえ殺せば……!

「……残念。俺を殺しても、なんなら傷つけても呪詛は強まるぜ。……俺の分が加わるからなァ」
「な……っ!?」
「今でさえこの苦しみようだ。下手すりゃ廃人になるかもな……?」

 クソ……っ、誘い込まれた時から薄々思っていたが、このゲス野郎……ずる賢いにも程がある。
 でも、どうすりゃいいんだよ。呪いなんて目に見えねぇし、傷つけるだけで神父様が危なくなるって……ああ、くそ、下手に動けねぇ。

「そう焦んなよ。すぐには殺さねぇさ。じっくり楽しんでから、嬲り殺してやる……!」
「が……ッ!?」

 長剣で神父様の胸を貫き、ゲス野郎は舌なめずりをする。

「野郎……!!」

 せめて神父様から引き剥がそうと、敵の肩に手をかけた途端……顔面に、生温い感触が伝った。

「…………おいおい……そう、来るのかよ……」

 呆然と呟き、血を吐いたのは、オットーの方だった。首が変な方向に折れ曲がり、ミシミシと音を立てる。肉と骨を引き裂く音は止まらず、地面に、今度は大人の……黒髪の頭部が転がった。
 神父様は血に染まった指を舐め……うっとりと「わらう」。

 そこで、気付いた。

 あの野郎、本当に神父様をんだって。

「……っ、ぁ……、────ッ!」

 神父様は自分の胴体から、長剣を造作もなく引き抜き、敵の、首をなくした胴体に突き立てた。その喉は、人の言葉を紡がない。雄叫びのようでいて、泣き叫んでいるようでいて、悦んでいるようでいて……
 綺麗な指が血に染まる。真っ赤な瞳が爛々と輝く。何度も、何度も、原型が無くなるまで、神父様は屍を切り刻んだ。

 最後に、赤い瞳がちぎれた頭部を捉える。ゲス野郎は鳶色とびいろの目を見開き、とうに事切れていた。
 おもむろに手を伸ばし、神父様は、その頭を虫のように潰す。

「────ッ、────!!」

 そして、人間の言葉を忘れてしまったかのように「吼えた」。

「……神父様」

 声をかけると、神父様は返り血に塗れたまま、くるりと振り返る。
 まだ剣を握っているが、構わず抱き締めた。
 神父様になら、殺されたっていい。……そばにいるって、伝えなきゃ。

「……ヴィ、ル……」

 だらりと垂れ下がった腕から剣が落ちる。
 震える手が、オレの背中に回る。

「……身体洗って……宿、探しましょ。話は、その後っす」
「……ああ……」

 ぼんやりとした声で……それでも人の言葉で、神父様は呟く。

「……あたたかい……」

 そのまま神父様は、オレの腕の中で意識を失った。
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