【R18】堕ちた神父と血の接吻【完結済】

譚月遊生季

文字の大きさ
54 / 88
Die Geschichte des Vampirs1 ― Wandernder Herbst ―

第8話 sündige Liebe

 ヴィルに運ばれ、寝室へと移動する。

 この部屋の寝台は壊されていたものを改修し、寝られるようにしたものだ。当初はヴィルと共に床で寝ようとしたのだが、うなされる私を見兼ねたヴィルが、少しでも快適に寝て欲しいと用意してくれるようになった。
 拠点を移すのであれば、解体して組み立て直す必要があるだろう。
 また、大仕事になる。

「済まない……」

 静かに呟くと、ヴィルは怪訝けげんそうに返した。

「……なんで、謝るんですか」

 ヴィルは、いつも当たり前のように私の世話を焼く。
 ……私は神に仕える資格を失ったというのに、彼は変わらず「神父様」と慕ってくれる。

「便利に使ってくれていいんすよ。オレ、ほんとにバカでろくでなしだし……神父様のお役に立てるってだけで嬉しいんです」
「……愚か者が」

 ヴィル。おまえは決して、ろくでなしではない。
 環境に恵まれず罪を犯しても、それを悔いる心を持ち、改めようと努力できる稀有けうな心を持っている。
 おまえはきっと、もう……ものを盗まなくとも、人を殺めなくとも生きられる。私のような聖職者もどきではなく、例えば亡くなられたハインリッヒ司教様のような……立派な聖職者の元に行けば、償いの道も、改めて与えられるはずだ。……それなのに。

「私は……」

 ……私は、ヴィルの手を離すことができない。
 ヴィルがいなくとも、生きながらえることはできるだろう。この身体は頑丈で、致命傷ですら癒えてしまう。
 それでも、無理だ。肉体の問題ではない。

「……私は、罪深い」

 私の魂の奥底には、憎悪が巣食っている。
 傍らに彼がいなければ、この魂はいずれ、音を立てて崩れ落ちていくだろう。
 ……そして、血に狂い、激情に身を任せ、本物の「怪物」と成り果てるのだ。

「……オレに抱かれてることです? もう良いじゃないすか。今更でしょ」

 ヴィルは私を寝台のへりに座らせ、顔を覗き込んだ。
 板戸から漏れる月明かりが、亜麻色の髪を照らしている。

「違う。そうではない」

 押さえ付けていた感情が、にわかに騒ぐ。

「私は、貴様に罪を犯させているではないか」

 思わず溢れ出した言葉に、ヴィルは茶色の目を見開いた。

「……血、ほんとに足りてます? 我慢してるんじゃ?」

 その言葉には、黙り込む他なかった。
 正直なところ、足りているとは言い難い。ヴィルには伝えていないことだが、体内の傷は未だに癒えきっていない。
 人間の体液を摂取すれば、傷付いた身体が癒えていくのが嫌でもわかる。

 だからこそ、恐ろしい。

 その異質さゆえに、私は「怪物」と呼ばれるのだから。

「食い物、毎回オレがほとんど食ってるじゃないですか。血が食事になるんなら、ちゃんと飲まねぇと」
「だが……」

 ヴィルの場合は、食料以外に代用できる糧がない。私の消化器官の方も未だに癒えきっておらず、固形物を食しても無駄になりかねない。
 ならば、ヴィルにより多く食わせるべきだろう。私の傷を気にするよりも、彼の健康体を維持した方が効率的だ。

 ……それを伝えれば、余計な気を遣わせてしまうだろうが……。

「無理すんなって、ほら……」

 ヴィルは私の背後に移動し、抱き締めるようにして寝台のへりに座る。「噛み付け」とばかりに、武骨な手が目の前に差し出された。
 躊躇ためらいはしたが、手に浮いた血管がどうしようもなく食欲を誘う。傷付いた肉体が求めるまま、親指の付け根に牙を突き立てた。



「ふ……っ」

 流れ出した血の匂いが、本能を撫ぜる。
 ロザリオを握り締め、深くまで傷つけすぎないよう、多くを貪りすぎないよう、懸命に理性を手繰たぐり寄せる。

 耳元で、ヴィルが優しく囁いた。

「今度から、無理せず言ってください。も全然出せますし……。つか、どうせ出さなきゃいけないんで、血よりそっちのがお得でしょ」

 彼の味を教え込まれた身体が、熱く火照る。

「……ケダモノが……」
「そうです。オレはケダモノです。なので、また明日も楽しみましょ」

 抱き締められた温もりは、やはり、心地がいい。

「……鍋に朝のスープの残りがある。温め直して食え。あと、昼間の老婦人から卵を貰った。焼いておいたから、早めに食え」

 誘惑を振り払い、腕から抜け出した。
 罪は、罪だ。どれほど心地良くても……いや、心地良いからこそ、肯定してしまうわけにはいかない。
 ……ヴィルはまだ、正しい道へ戻れるはずなのだから。

「神父様は? 食べました?」

 その問いに対する答えは、どうにかはぐらかす。

「貴様が気にすることではない」
「ちゃんと食わなきゃダメですよ。子供もできるかもだし」
「だから私は男だ」
「神父様ならできそうじゃん」
「できるわけがなかろう」

 しかし……最近は、やたらと妙なことを言うようになったな。
 私も男である以上、子を孕むことは無い。それが分からないほど、知識がないとは思えないのだが……。

「神父様、オレ、神父様のこと大好きです。心の底から、まもりたいんです」

 ヴィルは不意に寝台から降り、座ったままの私に目線を合わせる。
 瑪瑙めのうのように輝く視線が、私を真っ直ぐに射抜いた。

「私は……。……」

 続きの言葉を、紡ぐことは出来なかった。

「……悔い改めるがいい」

 その愛には、応えられない。
 この感情も、認めるわけにはいかない。

「嫌です」

 ヴィルの腕が私を押し倒す。
 抵抗しようと思えば、できる。
 力では、私の方が、俄然がぜん上回っているのだから。

 ……だが。

 背中にシーツが触れる。
 髪をかき分け、唇に、触れるだけの接吻が落ちてくる。

 ……嗚呼。主よ、お赦しください。
 私には、もう、正しい道が分からないのです。
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。