【R18】堕ちた神父と血の接吻【完結済】

譚月遊生季

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Die Geschichte des Vampirs3 ― Zwiespältiger Winter ―

第6話 Ich habe mich in ihn verliebt

 マルティンは、仲間がオットーの餌にされたことに責任を感じているらしい。テオドーロの方はというと、「異形による異形殺し」を放置できない……とのことだった。

 ……そして、私はオットーの標的となっている。

 利害が一致している以上、我々が彼らと協力関係になるのは自然な流れだったと言える。

「オットーは餌にした肉体の記憶も引き継ぐはずだから、わたしの射撃の精度は知られているはず。ずる賢いやつだもの、間違いなく対策を取られてしまうわ」
「……えっ、記憶まで食うの? マジ厄介じゃん……」

 かすり傷だけでも「呪詛」の効果がある。
 物理攻撃で撃退したところで、すぐに復活する。
 記憶を引き継ぐことで対策を立ててくる。

 なるほど、なかなかに厄介な相手だ。

「そこまで来ると、封印を解くこと自体が危険でしょうに……なぜうかつに持ち出してしまったのですか」

 私一人をほふるため……と考えれば、あまりにもリスクの方が大きすぎる。
 ……と、言うより、明らかに「奥の手」として使うべき武器だろう。

「わたしに聞かれても困るわよ! そもそもあいつが持ち出したのか、誰かが持たせたかすら分からないんだから……」
「封印とかじゃなく、早めにぶっ壊しときゃ良かったじゃん」
「それこそわたしに言われても困るわよ! 50年前の誰かが使えるって思ったんでしょ」

 ヴィルの指摘に、マルティンはやれやれと首を振りつつ抗議する。
 危険物ではあるが、歴史的な遺物でもある以上、保管しておくべきと考えた理由はわからなくもない。……とはいえ、もう少し厳重にできなかったのか、とは思ってしまうが……。
 テオドーロの方は黙って話を聞いていたが、「あ」と思い出したように口を開いた。

「君たちは、手の内を明かしたのかい?」

 ……。何と、返すべきか。
 理性を失い、暴走したことが知られれば、再び「排除」の対象となる可能性も高い。
 今、私はマルティン達に「見逃されている」状況なのだから。
 ……などと考えていると、心外な一言が聞こえた。

「傷を負ってたってことは、また無茶な特攻をしてぶっ刺されたんじゃないかしら」
「な……っ! 私とて、何度も同じ手で失敗はしません。今回は引いて様子を窺いました」

 武器が特殊だったのは想定外だったが、私は決して考え無しに突っ込んだわけではない。
 回復力の高い肉体と、純粋な腕力の差を考えれば距離を詰めた方が有利を取りやすい。多少の傷は覚悟の上だ。
 ……まあ、それを、例の悪魔祓いエクソシストもオットーが宿った剣を持ち出したのだろう。

 ……。どちらにせよ、別の戦い方を学んだ方が良さそうではある。それは認める他ない。

能力ブーケを使うのはどうだい? アレはわかっていても引っかかるたぐいのものだ。個体によって特性が違うのだけど……コンラートくんのブーケは何かな?」

 そういえば、「吸血鬼」にはそんな能力があったのだったか。
 ……もっとも、そんな能力があること自体、初めて聞いてから日が経っていないのだが……。

「…………その…………」

 非常に、申し訳ない気持ちはある。
 自分の肉体のくせに、と言われれば何も反論できない。

「…………わかりません……………」

 私がそう告げた途端、視界がひっくり返った。

「な、なんだ!?」

 気が付けば、目の前にはヴィルの姿があった。
 頬は上気し、吐息が荒い。
 待て、何がどうなっている。

「ちょっと待っててな二人とも。一発ぶち込んでから続き話してい?」
「やめ、貴様、何を考えて……!! ん……っ」

 なぜ、今、この状況で興奮するのだこの男は……!?

「あだっ!?」

 胸を撫で回されたかと思うと、短い悲鳴が聞こえて視界が開ける。
 頭を押さえて呻くヴィルの背後で、拳を構えたマルティンが、真っ赤な顔で小刻みに震えていた。

「終わってからやんなさい!!!」
「うぃ、うぃす……」
「……ケダモノが……!」

 素早く服を整え、抗議する。
 まったく、二人きりの時ならまだしも……
 ……い、いや、断じて、二人きりの時であれば良いという訳でもないのだが! !

「ごめんな、神父様……」

 ぐ……っ、何だその涙目は。叱りにくくなるではないか。

「っていうか、コンラートくんって感度いいんだね」
「……あ゛?」



 ***



 テオドーロが妙なことを言い出し、ヴィルが掴みかかるなど多少の諍いはあったが、どうにか話し合いは再開できた。

「……私がおとりになるのはいかがでしょう。恨まれている可能性もあり、多少の負傷はすぐに癒えます。適役かと思われますが」

 ……という私の提案に、ヴィルは「えー」と難色を示す。

「やだよ。それ、神父様が危険な目に遭うじゃん」

 マルティンも顎に手を当て、眉根を寄せて考え込んでいる。

「囮ねぇ……。そもそも、あんたに向いてる気がしないんだけど……」

 演技力が足りないと思われているのだろうか。
 ……いや、私とて演技が上手いとは思っていないが……。

「……まあ……考えはあります」
「へぇ、そうなのかい? それはどういう?」

 テオドーロはなぜか楽しそうだ。
 というより、彼は常に陽気な気配を周囲に漂わせている。

 正直なところ、苦手な手合いだ。話している内容が理解し難いことばかりであるのも相まって、関わり方が難しい。

 ……それはともかく、囮になるに当たって演技力は特に必要ない。

「酒に頼れば、どうにか」

 酩酊状態になれば良いのだ。そうすれば、隙はいくらでも生まれる。

「……吸血鬼って、酒に弱いんじゃなかった?」
「うん、弱いはずだよ」

 ……しかし、不思議なものだ。
 私自身よりも、敵である彼らの方が、この身体の特徴をよく理解しているとは。

「でも良いんすか? 最近飲んでなかったっしょ」

 ヴィルの言葉には静かに頷く。

「そろそろ頭痛が出てきたところだ。飲めば治まる。問題ない」
「それ絶対ダメなやつよ!? 酒でストレス誤魔化すのやめなさいね!?」

 マルティンは血相を変え、テオドーロは納得したように大きく頷く。

「あー、追い詰められるとアルコールかセックスに逃げたくなる子、いるいる。僕の妻にもそれなりにいるよ」

 …………うぐっ。

「やめなさいよ、身体にも悪いし……」

 ………………。
 どうしたものか。何一つ、反論することができない。

「まあ、太陽光のが身体に悪い気もするから何とも言えないんだけどね。飲酒で吸血衝動が紛れる場合だってあるし」

 吸血衝動を誤魔化していたのは、まさしく図星だった。
 傷を負った時は尚更、私の身体は血を多く必要とする。
 ヴィルの血を飲み過ぎるわけにはいかない。根本的な解決にならなくとも、何かで紛らわせることができるなら、最悪の展開を先延ばしにはできる。
 ……ただ……苦痛に耐えかね、快楽に屈した言い訳だと言われれば、否定はできない。

「精神が弱いのか強いのか、よくわかんない奴ね……」
「脆くて儚いけどパワーはあるってことで良いんじゃねぇ?」

 ヴィルの言葉に、マルティンは納得したように頷いた。

「……爆弾みたいな感じね」
「あー、それっぽいかも」
「ば、爆弾…………?」

 どういう意味だ?
 そう問おうとすると、マルティンが近付いてくるのが目に入った。

「……ッ」

 マルティンは何やら言葉を飲み込み、険しい表情を作る。
 腰に指を伸ばす動きが見えたかと思えば、ヴィルがすかさず首に刃物を突きつける。空気が凍てつく中、マルティンは動揺した様子すら見せず、淡々と告げた。

「あんたが民間人に危害を加えるなら、わたしは殺さなきゃいけない。……それだけは、理解しておいて」

 銃に伸ばした指を元の位置に戻し、マルティンはくるりと背を向ける。
 それを見て、ヴィルも臨戦態勢を解いた。
 ……空気は未だに張り詰めている。

「囮作戦自体は賛成だけど……あんたが路上に泥酔して転がってても罠にしか見えないわ」
「まず混乱するし、警戒するだろうねぇ。コンラートくん、真面目そうだし。……それで?」

 テオドーロは苦笑しつつも、マルティンの次の言葉を促すよう、碧眼へきがんを煌めかせた。

「……必然性のある状況を作るべきよ。目撃情報を流して酒場で待ち構えるとか、ね。ヴィルと飲んでるなら警戒心も薄れるでしょ」
「……協力してくださると言うことですね」

 私の言葉に対し、マルティンは視線を合わせることなく頷く。

「他に良い作戦も思い浮かばないしね。……じゃ、わたしは『仕込み』に行ってくるから」

 そう言い残し、マルティンは部屋を出る。その背を見送り、テオドーロが私に向けて囁いた。

「彼女、本当は君を助けたいと思ってるんだよ。立場上、言えないけどね」
「…………」

 私も、何とはなしに感じ取ってはいた。
 彼……いや、彼女が、慈悲深い心を持った人物だと。
 つくづく、難儀なものだな。……「生まれ」というものは。

「大丈夫っすよ、神父様、どうなってもオレが守るんで」

 ヴィルがいつもの如く励ましてくる。
 嬉しい、という感情はある。その手に縋り付きたいとも思う。
 だが……それは……

 再び、頭がズキンズキンと痛み出す。
 数多の「死」が、数多の悲嘆と絶望が、脳内をぐるぐると巡る。



 そして──

 血に濡れた剣。
 切り刻まれた屍。
 転がった頭部。
 真っ赤に染まった手──

 私は、
 あの惨殺を、確かによろこんだのだ。



「愚か者」と呟き、あえて冷たく突き放した。

「修道士マルティンは間違っていない。……もし私が一般人に危害を加えるのならば、武器を向けるべき相手を見誤るな」

 揺れる茶色の瞳を、しっかりと見据える。

「もし『その時』が来た場合……貴様が殺すべきは、私だ」

 ヴィルは泣き出しそうな表情を浮かべたまま、何も語らない。
 ただただ唇を噛み締め、拳を固く握り締めている。

「ヴィル。……頼む」

 縋るように、語りかける。
 私が、もし、これ以上本物の怪物に成り果てるようであれば……

 終わらせてくれ。

 父や母、祖父、兄、司教様や教会の面々、ヴィルの両親や時代のうねりの中に散った人々、オットーの呪詛の一部にされてしまった者たち……そして、私が殺めてしまった者たち……

 数多の「死」を、悼むことができるうちに。

「……囮作戦は嫌っすけど、一緒にいるならオレが撃退できますし、それ以外作戦もねぇんならそれでいいっす」

 ヴィルは、強い意志の込められた瞳で、私を見つめ返す。

「だけど、これだけは覚えててください。オレは絶対、神父様を殺しません。どれだけ嫌がられて罵られたって、死んでも護ります」

 執着と情愛の渦巻く瞳が、私を射抜く。
 瑪瑙めのうのように輝く瞳の中、汚濁おだくに染まりきらなかった清い光が、きらりと輝く。

「愛してますから」

 あたたかい手のひらが、私の手を包み込む。
 涙が零れ落ちそうになるのを、どうにか堪えた。

「コンラートくん、ひとつ、教えてあげよう」

 ……と、テオドーロの声が聞こえてくる。
 いつの間にか扉の付近に佇み、彼は楽しげに微笑んでいた。

「愛は、突き放すほど燃え上がるものさ。彼の愛も、僕の愛もね」

 ウィンクを一つし、テオドーロは部屋を出ていく。
 一瞬だけ間が空いた後、ヴィルは弾かれたように立ち上がり、その後を追った。

「おい待ちやがれ! てめぇの愛は燃え上がらせんな!?」
「僕の愛を止めることは、何者にも不可能さ! 僕自身ですらね!!」
「マジふざけんなよ変態野郎……!!」

 廊下から響く軽やかな声と、廊下に向けたヴィルの怒声が響く。

 寝台に腰かけたまま、呟いた。

「……お赦しください……」

 嗚呼、主よ。 
 どうか、私をお赦しください。
 私は……間違いなく、彼を……
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