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第1章 欲望と大罪
7.「処刑人」
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先程、雛乃は語っていた。
──君がここまで戦闘を発生させずに辿り着けたのには、二つの重要なポイントがある
一つ目は、リチャードの頭の回転。それならば、「二つ目」は……?
おそらく、予想は間違いない。リチャードは真っ直ぐレヴィアタンの方を見つめ、告げる。
「君のおかげでしょ? 俺が、世界連合に捕まらなかったのって」
その言葉に、レヴィアタンは異形の目の方を見開いた。
「……! ほざけ。私はただ、気に食わない調査員や処刑人を屠っていただけだ。
我は動揺し、息を飲む。
ええい余計なことを語るな! 貴公の悪い癖だ、改めるが良い!」
レヴィアタンは、無差別に人間を殺すわけではない。
あくまでそれは、「嫉妬」の感情を満足させるための殺戮だ。だからこそ、不遇の身に追いやられた「フリー」や、アンドロイドには同情的な顔を見せる。
「まあ……フリーの間ではヒーロー扱いだからねぇ」
雛乃の言葉で、リチャードは更に確信した。
「とにかく、ありがとな。助かったよ」
「な……」
絶句し、レヴィアタンは色の違う左右の目を共に見開く。
……その時だった。
鋭い刃の一閃が、二人の間に突風を作り出す。
「楽しそうなところ、申し訳ありませんわ」
日本刀を携えた女性が、真っ白なワンピースをふわりと靡かせてリチャードとレヴィアタンの間に降り立った。
「わたくしも、楽しみたくて仕方ないんですの」
「……! まずい!!」
雛乃の顔色が変わる。
アイリスが咄嗟にリチャードを抱え、飛び退いた。
「まあ、初めて会う顔ですわね」
目深に被った白い帽子から、濁った蒼い瞳が覗く。
金髪のボブヘアーを揺らし、彼女は優雅に礼をした。
「ごきげんよう。わたくし、フランシス・ベントレーと申します」
次の瞬間。
背後から溢れんばかりの殺気をみなぎらせ、レヴィアタンがフランシスに向けて拳を振りかぶる。
「あら……挨拶の途中ですのに」
フランシスはにこりと笑い……頭を潰す寸前の拳に、手にした日本刀を翳した。その態度には、欠片も恐れが見当たらない。
拳が刃に触れる前に、レヴィアタンは避けるように後ろへ退いた。
フランシスの全身からも、殺気がほとばしる。
「ああ……素晴らしい心がけですわ! やはり、挨拶はこうでなくては……!」
「我は刃を回避する。それに当たるは悪手なり
無論、貴殿に言われずとも理解している」
顔面蒼白のセドリックが「処刑人だ……」と呟く。
自らを担いだアイリスに向けて、リチャードは「話し合いは!?」と叫んだ。
「無理よ……『悪魔』と違い、『処刑人』は明確な敵だもの」
「へっ……?」
「彼らはあくまで、この世界にとっては正義の側。説得は難しいわ」
アイリスの声音に、明らかに動揺が見える。
リチャードはフランシスの方をちらと見る。濁った蒼い瞳に似合わず、その頬は薔薇色に紅潮していた。
「ふふ……正義なんて、わたくしにはどうでも良いのですけれど。わたくしはただ……強くて美しい怪物たちと、心ゆくまで命のやり取りをしたいだけですわ……!」
踊るようにくるくると舞い、フランシスは壁にもたれているロビンの「体」にも刃を向けた。
そのフランシスの首元に、レヴィアタンの蹴りが炸裂しかける。フランシスは素早く屈み、脚を切り裂こうと刃を滑らせた。
「……ッ」
レヴィアタンも避けようと動きはしたが、わずかに間に合わず、腿の辺りから血が噴き出す。
「Evil Hunter Association……通称『EHA』。世界連合公認の組織で、この世界の秩序のために『悪魔退治』や要処置者の『処刑』を行ってる。……ついてないな。このタイミングで飛んで来るなんてね……」
雛乃も冷や汗をかきつつ、ポケットから端末を取り出してなにやら操作する。
「分が悪い。今日は退散するよ。自動運転プログラムを組み込んだ車があるから、ロビンに持ってきてもらおう」
雛乃の言葉に、セドリックは冷や汗をかきつつ苦笑する。
「……やっぱさっきの車、レヴィアタンに会うから使い捨てのつもりだったんスね……?」
「そりゃ、あいつの能力はシンプルに身体能力の底上げだし……車の一つや二つ、ぶっ壊されると思っとかないと」
「んー……つくづく、敵に回すと恐ろしい人……? ッス」
レヴィアタンはフランシスと戦闘中だが、余裕が削れているのはリチャードの目から見ても明らかだった。
レヴィアタンのパワーで圧す戦闘スタイルに、フランシスの素早く流れるような動きは確実に相性が悪い。
「……助けないの?」
「悪いけど……グズグズしてたら他にも仲間が来るかもしれないわ。戦闘になってしまったら、平和路線のわたし達では不利よ。撤退できるところで撤退しないと……」
迎えの車が近付いてくる音がする。
アイリスに担がれたまま、リチャードはレヴィアタンに向けて叫んだ。
「……また会おうな!」
その声に、レヴィアタンはすぐには反応しない。
フランシスの刃を避けつつ……やがて、リチャードに向けて無言で中指を立てた。
車の中で、リチャードは雛乃に尋ねる。
「悪魔って強いんだろ? なんであのお嬢さんは太刀打ちできるんだ……?」
「EHAは特殊な武器を開発してるからね。あの刀は、少し掠っただけでも彼らを弱体化させるんだ」
「……そういうことか……」
また会えるのかも、会ったとしてレヴィアタンを説得できるかどうかも分からない。
……けれど、壊れたアンドロイドに向けたあの視線が、リチャードの脳裏に染み付いて離れなかった。
考え込むリチャードの顔を見て、アイリスもぽつりと呟く。
「悪魔は、元々『処刑』された人間だけど……レヴィアタンはおそらく、アンドロイドと融合してるわ」
「ロビンと同じように、『体』にしてるってこと?」
「と、言うよりは……二つ人格があって、片方の口調が機械みたいでしょう? きっと、何らかの理由で合体しているはずよ」
「……そういや、番号023っつってたな……」
後部座席での会話に、雛乃も口を挟む。
「あれ、PSBLシリーズだと思うよ。早い時期に生産停止された肉体労働用アンドロイドと特徴が一致してる。……まあ、長髪の機体はなかったはずなんだけどね」
「首から提げてたアレ、もしかしたら社員証入れッスかね? 写真で見たことあるッス」
「あー……この時代の若者にとっては、『写真で見た』なんだね……」
セドリックの何気ない言葉に、雛乃は少しばかり遠い目になった。
自動車に乗り移ったロビンの運転により、リチャード達は荒野を進む。
変わらず窓の外では、打ち棄てられたアンドロイドが転がっていた。
──君がここまで戦闘を発生させずに辿り着けたのには、二つの重要なポイントがある
一つ目は、リチャードの頭の回転。それならば、「二つ目」は……?
おそらく、予想は間違いない。リチャードは真っ直ぐレヴィアタンの方を見つめ、告げる。
「君のおかげでしょ? 俺が、世界連合に捕まらなかったのって」
その言葉に、レヴィアタンは異形の目の方を見開いた。
「……! ほざけ。私はただ、気に食わない調査員や処刑人を屠っていただけだ。
我は動揺し、息を飲む。
ええい余計なことを語るな! 貴公の悪い癖だ、改めるが良い!」
レヴィアタンは、無差別に人間を殺すわけではない。
あくまでそれは、「嫉妬」の感情を満足させるための殺戮だ。だからこそ、不遇の身に追いやられた「フリー」や、アンドロイドには同情的な顔を見せる。
「まあ……フリーの間ではヒーロー扱いだからねぇ」
雛乃の言葉で、リチャードは更に確信した。
「とにかく、ありがとな。助かったよ」
「な……」
絶句し、レヴィアタンは色の違う左右の目を共に見開く。
……その時だった。
鋭い刃の一閃が、二人の間に突風を作り出す。
「楽しそうなところ、申し訳ありませんわ」
日本刀を携えた女性が、真っ白なワンピースをふわりと靡かせてリチャードとレヴィアタンの間に降り立った。
「わたくしも、楽しみたくて仕方ないんですの」
「……! まずい!!」
雛乃の顔色が変わる。
アイリスが咄嗟にリチャードを抱え、飛び退いた。
「まあ、初めて会う顔ですわね」
目深に被った白い帽子から、濁った蒼い瞳が覗く。
金髪のボブヘアーを揺らし、彼女は優雅に礼をした。
「ごきげんよう。わたくし、フランシス・ベントレーと申します」
次の瞬間。
背後から溢れんばかりの殺気をみなぎらせ、レヴィアタンがフランシスに向けて拳を振りかぶる。
「あら……挨拶の途中ですのに」
フランシスはにこりと笑い……頭を潰す寸前の拳に、手にした日本刀を翳した。その態度には、欠片も恐れが見当たらない。
拳が刃に触れる前に、レヴィアタンは避けるように後ろへ退いた。
フランシスの全身からも、殺気がほとばしる。
「ああ……素晴らしい心がけですわ! やはり、挨拶はこうでなくては……!」
「我は刃を回避する。それに当たるは悪手なり
無論、貴殿に言われずとも理解している」
顔面蒼白のセドリックが「処刑人だ……」と呟く。
自らを担いだアイリスに向けて、リチャードは「話し合いは!?」と叫んだ。
「無理よ……『悪魔』と違い、『処刑人』は明確な敵だもの」
「へっ……?」
「彼らはあくまで、この世界にとっては正義の側。説得は難しいわ」
アイリスの声音に、明らかに動揺が見える。
リチャードはフランシスの方をちらと見る。濁った蒼い瞳に似合わず、その頬は薔薇色に紅潮していた。
「ふふ……正義なんて、わたくしにはどうでも良いのですけれど。わたくしはただ……強くて美しい怪物たちと、心ゆくまで命のやり取りをしたいだけですわ……!」
踊るようにくるくると舞い、フランシスは壁にもたれているロビンの「体」にも刃を向けた。
そのフランシスの首元に、レヴィアタンの蹴りが炸裂しかける。フランシスは素早く屈み、脚を切り裂こうと刃を滑らせた。
「……ッ」
レヴィアタンも避けようと動きはしたが、わずかに間に合わず、腿の辺りから血が噴き出す。
「Evil Hunter Association……通称『EHA』。世界連合公認の組織で、この世界の秩序のために『悪魔退治』や要処置者の『処刑』を行ってる。……ついてないな。このタイミングで飛んで来るなんてね……」
雛乃も冷や汗をかきつつ、ポケットから端末を取り出してなにやら操作する。
「分が悪い。今日は退散するよ。自動運転プログラムを組み込んだ車があるから、ロビンに持ってきてもらおう」
雛乃の言葉に、セドリックは冷や汗をかきつつ苦笑する。
「……やっぱさっきの車、レヴィアタンに会うから使い捨てのつもりだったんスね……?」
「そりゃ、あいつの能力はシンプルに身体能力の底上げだし……車の一つや二つ、ぶっ壊されると思っとかないと」
「んー……つくづく、敵に回すと恐ろしい人……? ッス」
レヴィアタンはフランシスと戦闘中だが、余裕が削れているのはリチャードの目から見ても明らかだった。
レヴィアタンのパワーで圧す戦闘スタイルに、フランシスの素早く流れるような動きは確実に相性が悪い。
「……助けないの?」
「悪いけど……グズグズしてたら他にも仲間が来るかもしれないわ。戦闘になってしまったら、平和路線のわたし達では不利よ。撤退できるところで撤退しないと……」
迎えの車が近付いてくる音がする。
アイリスに担がれたまま、リチャードはレヴィアタンに向けて叫んだ。
「……また会おうな!」
その声に、レヴィアタンはすぐには反応しない。
フランシスの刃を避けつつ……やがて、リチャードに向けて無言で中指を立てた。
車の中で、リチャードは雛乃に尋ねる。
「悪魔って強いんだろ? なんであのお嬢さんは太刀打ちできるんだ……?」
「EHAは特殊な武器を開発してるからね。あの刀は、少し掠っただけでも彼らを弱体化させるんだ」
「……そういうことか……」
また会えるのかも、会ったとしてレヴィアタンを説得できるかどうかも分からない。
……けれど、壊れたアンドロイドに向けたあの視線が、リチャードの脳裏に染み付いて離れなかった。
考え込むリチャードの顔を見て、アイリスもぽつりと呟く。
「悪魔は、元々『処刑』された人間だけど……レヴィアタンはおそらく、アンドロイドと融合してるわ」
「ロビンと同じように、『体』にしてるってこと?」
「と、言うよりは……二つ人格があって、片方の口調が機械みたいでしょう? きっと、何らかの理由で合体しているはずよ」
「……そういや、番号023っつってたな……」
後部座席での会話に、雛乃も口を挟む。
「あれ、PSBLシリーズだと思うよ。早い時期に生産停止された肉体労働用アンドロイドと特徴が一致してる。……まあ、長髪の機体はなかったはずなんだけどね」
「首から提げてたアレ、もしかしたら社員証入れッスかね? 写真で見たことあるッス」
「あー……この時代の若者にとっては、『写真で見た』なんだね……」
セドリックの何気ない言葉に、雛乃は少しばかり遠い目になった。
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