【完結済】蛇神譚 犬首村六道繪巻 ― 誰そ彼の契り ―

譚月遊生季

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第三巡 業ノ章 ― 地獄道 ―

第十八話 信仰

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「……そっか。優しいんだね、『蛇神さま』は」

 ともかく。……蛇神の見せる「情」は、本物だとわかった。
 私の呟きに安堵あんどが含まれていたのを悟ったのか、おりんさんは、静かに黒い瞳を伏せる。
  
「そう。優しい神様だよ。優しいからこそ……諦められないし、間違えてしまうんだよね」

 ……間違えてしまう?
 それは、一体どういうこと?
 
「あんた、特別な力があるんじゃないの?」

 おりんさんの言葉に、思わずドキッとしてしまう。
 確かに、私は霊媒師の家系の生まれだ。……強い才能がある、とも言われている。
 
「……どうして、それを……」
「わかるよ。そうじゃなきゃ……わざわざ連れてくる意味がないもの」
「……え……?」

 おりんさんの表情は、やはり浮かない。
 
「簡単な話だよ。蛇神さまは、多くの村人を救うために、を……他でもないあんたを、人柱ひとばしらにしようとしてる」

 人柱。
 その言葉を聞いて、思わずくらりと眩暈めまいがした。
 
「……優しい神様だからね。罪悪感はもちろんあるし、少しでも楽しく過ごして欲しいって思ってるんじゃないかな」
「そういう、こと……なの……?」

 辻褄つじつまはあってしまう。私を帰せないこと、未だ目的が言えないことにも、説明がついてしまう。
 優しい神であることとも、矛盾はしない。

「きっと……村を救うためなら、仕方ないと思ってる。あたしの友達も、それで神域ここから追放されちゃったしね……」

 すべては村と、民のため。……そのための、苦渋くじゅうの決断。
 筋は通っている。
 ……違和感が、あるとするのなら。

 ――、お前さまの望むように……

 「悪夢」のさなかで聞いた、優しく、包み込むようなあの声。
 あれは……「よそ者」に向ける声だったのかな……?
 
「……何はともあれ、あたしは蛇神さまに感謝してるし……優しくて、可哀想な神様だと思ってる。……でも、間違いは放っておけない」

 私の思考が追いつく前に、おりんさんは、はっきりと自分の意志を述べる。

「道をたがえた相手を追放したり、誰かを犠牲にしたり……そんなの、間違ってるよ。そんなことしなくたって、みんなが救われる方法はあるはずなんだ」
「おりんさん……」

 拳をきつく握りしめ、おりんさんは切実な想いを語る。
 
「……そう……」

 そして、それはまるで、希望の光が灯るかのように。
 黒い瞳に、真っ直ぐな輝きが宿る。

「蛇神さまは間違ってる。――『覚范かくはんさま』こそが、みんなを救ってくださるんだ!」

 ぎらぎらと強すぎるほどの光が――それこそ、希望に縋りつくような狂おしい光が、しっかりと私を見据えていた。

 

 ***



「でね! 連れていきたかったのは、ここなんだ!」

 おりんさんが指さす先――私の背後に、はっと目を向ける。
 ……どうして、気が付かなかったんだろう。
 朱に塗られた柱、せり出した棟、瓦葺かわらぶきの屋根……一見神社と見分けがつかないけれど、入り口には鈴がなく、奥に、金色こんじきに輝く観音らしき像がちらりと見える。

 ここ、宮寺ぐうじだ。

「おお……連れてきてくれたか、おりん! お主は、実にい子だのう」

 よく響く低い声が、辺りの空気を震わせる。
 金色に輝く袈裟けさを身に着けた、僧形そうぎょうの男が、いつの間にやら目の前に立っている。

「会いたかったぞ、秤。――これで、愚僧ぐそうとお主のえにしは確かなものとなった」

 年の頃は中年だろうけれど、その笑顔には、思わずどきりとさせられる精悍せいかんさがある。
 ……この人が、覚范入道。
 いつかの夢で声をかけてきた、「外法僧正げほうそうじょう」――
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