22 / 56
第三巡 業ノ章 ― 地獄道 ―
第十九話 外法僧正
しおりを挟む
気が付けば、私は宮寺の縁側に座らされ、覚范入道とおりんさんに挟まれていた。
どうしよう、この状況。
そもそも、「宮寺には近寄るな」って言われていたのに、どうしてこうなっちゃったのかな……。
「そう固くなるな。愚僧はな、お主のような年頃のおなごにはめっぽう優しいぞ。いや、おなごにはだいたい優しいがな! がっはっは!」
「は、はあ……」
豪快に笑う「外法僧正」こと覚范入道。
「普通のおじさん」と呼ぶには、声や雰囲気に凄まじい覇気のようなものを感じる。こういうのを、カリスマ? っていうのかな。
……とはいえ、女好きの生臭坊主ってだけのように見えるし、そんなに害がある感じはしないけど……
「……あの。『蛇神さま』が、宮寺には近づくなって……理由は、わかります……?」
「おおかた、愚僧が手を出すとでも思っておるのだろうな。……あの神、なかなか悦い尻をしておるだろう? 出会うたびに撫でておったら、此処から出られなくなってしもうた。はっはっは」
「……あー、そうですか……」
うん、確かにどうしようもないスケベおやじではある。
それは警戒されても仕方がない気がするし……でも、そっか。
私が大事にされていたっていうのも、本当なんだ。
「覚范さまもね、この村を救ってくださろうとしてるんだ!」
「そうだの。此処は、元を言えば愚僧の荘園。求道者としては、存分に相応しかろう」
「……救う、かぁ」
怪訝そうな私に、覚范は「ふむ」と向き直る。
「ひとつ、愚僧の説法を聞いてはくれんか」
「な、なんでしょう」
覚范の仕草は改まった雰囲気ではなく、ゆったりとした姿勢を崩していない。
むしろその態度こそが、余裕の表れにも見えた。
「愚僧は欲も、煩悩も否定せぬ。あるがままに生きることを否定せぬ。世のすべては、どう足掻いても御仏の掌の上。人は人として、浅ましく醜く生きて構わんのだ」
にやりと笑い、覚范は人間の業を肯定する。……僧としてはどうかとは思うけれど、はきはきとしたその言葉には、不思議な説得力があった。
「……それで……あなたの言う『救い』は、何?」
「簡単なことよ。定めを受け入れ、御仏の慈悲に縋ることこそ、救いに外ならん」
何となく、言いたいことは分かった。
蛇神は村の復活を望んでいて、覚范は村が滅びる定めを受け入れようとしている――そういう解釈でいいのかな。
もっとも、当の「蛇神さま」の話を聞いていないから、そちら側の考えがどこまで把握できているのかわからないんだけどね……。
「ところで秤、あの観音像が見えるか?」
「え、ええ。綺麗ですよね」
「あれには、深い由縁がある。もう少し、近くで見せてやろう」
由縁、か。
妹なら退屈だと突っぱねていたかもしれないけれど、私は、ついつい興味を惹かれてしまっていた。
蛇神の社がある「犬首村」は、かつて覚范入道の荘園内にあった。……もしかすると、この村について、何かわかるかもしれない。
「良いなあ、秤。その中、あんまり入れてもらえないんだよね」
羨ましそうなおりんさんの声を背に、私は、覚范入道の後に続いた。……この先に待っている「真実」を、想像すらできないままに。
どうしよう、この状況。
そもそも、「宮寺には近寄るな」って言われていたのに、どうしてこうなっちゃったのかな……。
「そう固くなるな。愚僧はな、お主のような年頃のおなごにはめっぽう優しいぞ。いや、おなごにはだいたい優しいがな! がっはっは!」
「は、はあ……」
豪快に笑う「外法僧正」こと覚范入道。
「普通のおじさん」と呼ぶには、声や雰囲気に凄まじい覇気のようなものを感じる。こういうのを、カリスマ? っていうのかな。
……とはいえ、女好きの生臭坊主ってだけのように見えるし、そんなに害がある感じはしないけど……
「……あの。『蛇神さま』が、宮寺には近づくなって……理由は、わかります……?」
「おおかた、愚僧が手を出すとでも思っておるのだろうな。……あの神、なかなか悦い尻をしておるだろう? 出会うたびに撫でておったら、此処から出られなくなってしもうた。はっはっは」
「……あー、そうですか……」
うん、確かにどうしようもないスケベおやじではある。
それは警戒されても仕方がない気がするし……でも、そっか。
私が大事にされていたっていうのも、本当なんだ。
「覚范さまもね、この村を救ってくださろうとしてるんだ!」
「そうだの。此処は、元を言えば愚僧の荘園。求道者としては、存分に相応しかろう」
「……救う、かぁ」
怪訝そうな私に、覚范は「ふむ」と向き直る。
「ひとつ、愚僧の説法を聞いてはくれんか」
「な、なんでしょう」
覚范の仕草は改まった雰囲気ではなく、ゆったりとした姿勢を崩していない。
むしろその態度こそが、余裕の表れにも見えた。
「愚僧は欲も、煩悩も否定せぬ。あるがままに生きることを否定せぬ。世のすべては、どう足掻いても御仏の掌の上。人は人として、浅ましく醜く生きて構わんのだ」
にやりと笑い、覚范は人間の業を肯定する。……僧としてはどうかとは思うけれど、はきはきとしたその言葉には、不思議な説得力があった。
「……それで……あなたの言う『救い』は、何?」
「簡単なことよ。定めを受け入れ、御仏の慈悲に縋ることこそ、救いに外ならん」
何となく、言いたいことは分かった。
蛇神は村の復活を望んでいて、覚范は村が滅びる定めを受け入れようとしている――そういう解釈でいいのかな。
もっとも、当の「蛇神さま」の話を聞いていないから、そちら側の考えがどこまで把握できているのかわからないんだけどね……。
「ところで秤、あの観音像が見えるか?」
「え、ええ。綺麗ですよね」
「あれには、深い由縁がある。もう少し、近くで見せてやろう」
由縁、か。
妹なら退屈だと突っぱねていたかもしれないけれど、私は、ついつい興味を惹かれてしまっていた。
蛇神の社がある「犬首村」は、かつて覚范入道の荘園内にあった。……もしかすると、この村について、何かわかるかもしれない。
「良いなあ、秤。その中、あんまり入れてもらえないんだよね」
羨ましそうなおりんさんの声を背に、私は、覚范入道の後に続いた。……この先に待っている「真実」を、想像すらできないままに。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる