【完結済】敗者の街 ― Requiem to the past ―

譚月遊生季

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序章 迷い蛾

4. 2016年春 part2

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 ──証言は続く

 街の噂は、現実的なものからオカルト系統まで数多くある。どこにでもある都市伝説ばかりでも、マイナスイメージのものが多いと土地柄を疑問に思いたくなるというもので……足取りは、ひたすら重たかった。

 新しい職場の建物は、外観からしてやる気がなかった。はっきり言ってツタぐらいは取り除いた方がいいと思う。玄関に入ると、警備員のやる気がなかった。僕は一応そこそこ上役として来たはずなのに……。

 出迎えた警察官は……とても、堅気の雰囲気とは思えなかった。

「どうも。アドルフ・グルーベです」

 プラチナブロンドの髪、サングラス、強面。そして……片腕。どこの組織から抜けてきたんだろう。声にもあまりやる気が感じられない。

「……サリンジャーさんは?」

 怪訝そうな声で聞かれる。……何となく、予想はついていた。

「僕が、キース・サリンジャーです」
「……ああ、なるほど……」

 明らかに哀れんだ声だったけれど、まあこれくらいはよくあることだ。

「……30でしたっけ?」
「30です」
「……そっすか」

 童顔なのは知っているから、あまり年齢については触れないでほしい。後、凝視する視線が怖い。品定めをされているような気分だ。

 ちらりと鏡を一瞥する。整えてきた金髪。明るめの茶色い瞳。小ぎれいな服装。既に浮いているのが分かったが、それでも、少し楽しみでもあった。……不謹慎かもしれないが、「せっかく来たからには何かを変えてみたい」という気持ちもあった。……たとえ、余計に危険が迫る選択だとしても。

「一応、俺が担当というか色々教えろって言われてます」
「そうなんですね」

 舐められると分かっていても、思わず口調が丁寧になってしまう。雰囲気というものは恐ろしい。

「まあ、片腕で暇なんで」

 ひらひらと、本来なら右腕があるはずの片袖が揺れる。「暇」か。……やはり舐められていたようだ。絶句して相槌も打てなかったが、次の言葉でさらに固まった。

「後、……まあ、この建物の中じゃ……俺が一番、アンタにしてもらいたいことがあるんです」

 漂う冷気に、思わず唾を飲んだ。嫌な予感しかしなくても、逃げようとは不思議と思えなかった。

 そうだ。今度こそ、僕は正義を貫いてみせる。

 ……。ん? 今度こそ? なんだか、引っかかるけど……なにが、引っかかっているんだろう……?
 そういえば、これは何回目だったっけ……。……まあ、いいさ。伝えられればそれでいい。僕が、正しいと証明できれば……それでいい。



 ***



 ──待って。おかしいよ、これ。
 僕は、僕の、年齢が違う。名前も違う。
 どうして……
 どうして、受け入れてしまっているんだろう
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