3 / 92
序章 迷い蛾
3. ある作家の独り言
しおりを挟む
……さて、どうしたもんか。
カタカタとキーボードが文字を打つ。
「Rod」とハンドルネームが表示され、電子掲示板のトップに書き込んだ文章が表示された。ロデリックの愛称で「ロッド」。まあ、身内からは呼ばれ慣れた名前だ。
メールで送られてきた怪文書をコピー&ペーストし、情報を書き添える。
やけ酒でもしたい気持ちだったが、生憎と俺はザルだ。酔えもしないことなんかとっくに分かり切っていた。
タバコの火が、じりじりと後退していく。
きっかけは、一通のメールだった。調査に弟分を向かわせたことを、今になって後悔する。なんだってこんなことになっちまったんだ……?
たった数十分前の電話のやり取りを、思い出す。
「ロバート、キースには会えたのか?」
『まだ全然……。でも、本当にマンチェスター郊外でいいの? 実は特徴似てるだけでアメリカとかオーストラリアだったりしない?』
「……たぶん……。……いや、アメリカの可能性ってなくもねぇな……」
『ちょっと! そこはしっかりしてよ!』
──ああ、見つけた
電話の向こうから聞こえたのは、ノイズ混じりの声音。文句を垂れていた弟の言葉が途切れ、聞き覚えのない声が代わりに話し出す。
……なんとなく、悟った。キースはきっと、もう、この世にはいない。
返信はちっとも来ない。そもそも見てる奴が少ないだろうしな……とは思いつつ、せめて小出しにとメールの文面を貼り付ける。
やり取りを、さらに思い出す。
「ロバート、どうした?」
『……君に伝えたいことがあるんだ。書き留めてほしい』
「……なぁ、ロバート?」
『僕は殺されてしまったから、君が頼りだ』
ロバートが黙り込んだ後の声音は、全く別人の響きに変わっていた。……あの野郎、速攻でやられやがった。
メル友に弟が取り憑かれるなんて、もう笑うしかないが、生憎と笑っている場合でもない。怪文書ばっかりが送られてきて、どう対処すりゃいいのかさっぱりだ。
送り主がロバートなのかキースなのかどうかってのも、全くもってよくわからない。……と、また電話がかかってきた。
画面に表示された名前は「Robert」だが……もし出てくるのが「Keith」だったら、いったいどうすりゃいいんだ……?
『ロッド兄さん、例の小説進んでる? なんでか気になっちゃって』
聞き覚えのある声音に、思わず肩の力が抜ける。
「……お前、今どこにいんだ」
『え? マンチェスターだけど? 兄さんが取材に付き合えって言ったんじゃん』
……この証言を小説にしてくれ、とキースが言いたいのか、それとも単にロバートが混乱してるだけなのか……。俺にも、さっぱり訳が分からない。
「後で原稿送る。……死ぬなよ、ロバート」
『えっ、なんで?』
ロバートは呑気だが、こっちからするとなんで? ……って状況じゃない。ホテルから連絡来てんだぞ。窓もドアも鍵かけたまま、忽然と消えてたってな。
カタカタとキーボードが文字を打つ。
「Rod」とハンドルネームが表示され、電子掲示板のトップに書き込んだ文章が表示された。ロデリックの愛称で「ロッド」。まあ、身内からは呼ばれ慣れた名前だ。
メールで送られてきた怪文書をコピー&ペーストし、情報を書き添える。
やけ酒でもしたい気持ちだったが、生憎と俺はザルだ。酔えもしないことなんかとっくに分かり切っていた。
タバコの火が、じりじりと後退していく。
きっかけは、一通のメールだった。調査に弟分を向かわせたことを、今になって後悔する。なんだってこんなことになっちまったんだ……?
たった数十分前の電話のやり取りを、思い出す。
「ロバート、キースには会えたのか?」
『まだ全然……。でも、本当にマンチェスター郊外でいいの? 実は特徴似てるだけでアメリカとかオーストラリアだったりしない?』
「……たぶん……。……いや、アメリカの可能性ってなくもねぇな……」
『ちょっと! そこはしっかりしてよ!』
──ああ、見つけた
電話の向こうから聞こえたのは、ノイズ混じりの声音。文句を垂れていた弟の言葉が途切れ、聞き覚えのない声が代わりに話し出す。
……なんとなく、悟った。キースはきっと、もう、この世にはいない。
返信はちっとも来ない。そもそも見てる奴が少ないだろうしな……とは思いつつ、せめて小出しにとメールの文面を貼り付ける。
やり取りを、さらに思い出す。
「ロバート、どうした?」
『……君に伝えたいことがあるんだ。書き留めてほしい』
「……なぁ、ロバート?」
『僕は殺されてしまったから、君が頼りだ』
ロバートが黙り込んだ後の声音は、全く別人の響きに変わっていた。……あの野郎、速攻でやられやがった。
メル友に弟が取り憑かれるなんて、もう笑うしかないが、生憎と笑っている場合でもない。怪文書ばっかりが送られてきて、どう対処すりゃいいのかさっぱりだ。
送り主がロバートなのかキースなのかどうかってのも、全くもってよくわからない。……と、また電話がかかってきた。
画面に表示された名前は「Robert」だが……もし出てくるのが「Keith」だったら、いったいどうすりゃいいんだ……?
『ロッド兄さん、例の小説進んでる? なんでか気になっちゃって』
聞き覚えのある声音に、思わず肩の力が抜ける。
「……お前、今どこにいんだ」
『え? マンチェスターだけど? 兄さんが取材に付き合えって言ったんじゃん』
……この証言を小説にしてくれ、とキースが言いたいのか、それとも単にロバートが混乱してるだけなのか……。俺にも、さっぱり訳が分からない。
「後で原稿送る。……死ぬなよ、ロバート」
『えっ、なんで?』
ロバートは呑気だが、こっちからするとなんで? ……って状況じゃない。ホテルから連絡来てんだぞ。窓もドアも鍵かけたまま、忽然と消えてたってな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる