【完結済】敗者の街 ― Requiem to the past ―

譚月遊生季

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序章 迷い蛾

11. 幕間

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 ロー兄さんは、いつの間にか姿を消していた。「調書」を一通り読み終えてから、電話をかける。弱りきった声だが、確かに「ロバート」の声音だとわかった。

「ロバート、この原稿お前が書いたのか?」
『警察署……? 資料漁った記憶があるから、たぶん……?』

 どうやら、ガチで警察署があるらしい。……本当に、どういう場所なんだ?

「……そこ、どんな雰囲気だ?」
『えーと……職場の近くとそんなに変わらない、かも』
「お前の職場を俺が知ってるわけねぇだろ……」
『見慣れた光景……としか……。あ! 写メ送るね』

 と、すぐさまパソコンの通知が鳴る。メールに添付されて、真っ黒な画面が送られてきた。……くそ、泣けてくる。どうしろってんだよ……?

『あ、そうそうロッド兄さん、送ってくれた原稿、だいたい読んだよ』

 今度はいきなり編集者みたいな台詞が出やがった。勘弁してくれ。
 パソコン画面から目を離し、煙草を吸い殻の溜まりに溜まった灰皿に押し付ける。

『……なんか……キース、性格悪くない?』
「そりゃあお前がモデルだから……」
『どういう意味!?』
「そのまんまだよ」

 今回みたいな仕事……仕事? は初めてだ。ノンフィクション風のフィクション……とも言いがたいのに、ドキュメンタリーとも言いがたい。……しかも、本気で誰かしらの命がかかってるとくる。
 あとロバート、こいつ自分の状況ちゃんとわかってんのか? 
『警察官にしてはアドルフに舐められ過ぎだよね』

……どうやらロバートは色々と混乱しているらしい。「取り憑いた誰か」を刺激しないよう、探りを入れるしかねぇ、か。

「警察の制度調べるのだるかった」
『そんな理由なんだ……』
「後年齢はお前の童顔さ考えて引き下げた」
『童顔なのは変えてくれない辺り流石はロッド兄さんだよね!』

 頼む、いい加減気づけ。こちとら気が気じゃねぇんだよ。
 相談は特になく、失礼な文句ばかり出てくるが、まあ、ロバートは昔からそんな奴だ。……相手が俺だからかもしれねぇが。

『後さ、サーラって誰?』
「お前がいつも言ってる女への愛をイメージして出した」
『僕ジャンヌに対してこんなに気持ち悪いかな!?』
「正直もっとキモい」
『やっぱり交遊関係の狭さは世間をどう見るかに出るんだね……』
「殴んぞ」

 ちっちゃいとこにしか文句が出ないあたり、内容にはさほど気にすることがないらしい。……その方が大問題なんだけどな。
 とりあえず探るのはそこまでにして、こちらから踏み込んだ。

「カミーユさんは何て?」

 接触してるなら、よく話してそうだと思った名前を口にする。……俺の直感でしかないが、何となく相性がいい気が……しなくも、ない。

『来ると思った……。あのね、「流石はお兄さんだね。粘着質かつ世間知らずなのに口だけいっちょ前なあたり、特徴が完璧!」……だって。腹立つ』
「いちいち言われたこと覚えてるから粘着質って言われんだろ」

 ロバートの居場所は、まだ検討もつかない。死ぬなよとは言ったが、どうなるもんか……。
 ……正直、下手に触るわけにはいかない。下手に動いたら、何が起こるかわかったもんじゃない。

『……あ、ロー兄さんが呼んでる。またね』

 ……行けたのか、あの人。
 それとも……元から行ける人だったのか。

 もし、もしもだ。ロバートも、もう死んでしまっていたら……?

 嫌な汗が吹き出す。気を紛らわせるためか、いつの間にか無意味に更新ボタンを幾度となく押していた。
 何度繰り返そうが変化のなかった画面が、やがて、ひとつの投稿を読み込む。

 題名は「Leviticus」、投稿者名は「R.H」。……よくある頭文字イニシャルだが、少しだけ、気になりはした。
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